第93話(急斜面での攻防)
山の急斜面に目をやると、小さな影がちらほらと見え始めた。レイは目を凝らしてその動きを追った。
「コボルトだ!」
コボルトたちは、急斜面をものともせず、器用に四つ足で駆け降りてくる。
「コイツらこういう時は四足なのかよ!」
悪態をつきたくなるほど、小柄な体を活かし、岩や草の間を縫うようにして、驚くべきスピードで迫ってきた。
滑り落ちそうになりながらも、爪を立ててしっかりと地面を捉え、次々に斜面を降りてくる。
コボルトが急斜面を駆け降りてくる様子に目を奪われていたが、さらにその後ろにいる異様な影に気づいた。
目を凝らすと、それはさらに大きな体を持つアリのような魔物だった。
「バーバリアントもいるニャ!」
サラが警戒を強めた声で叫んだ。
バーバリアントは、巨大なアリ型の魔物で、強靭な脚で斜面を難なく降りてくる。その体は装甲のように硬く、どんな障害も砕いてしまいそうだ。
「これじゃ、バリケードが持たないぞ!」
前で戦っているBランクパーティの様子を見て、事態のまずさに気づいたらしい。彼らはスイッチではなく、バリケードを壊そうとしているバーバリアントの群れを叩きに向かっていくようだった。
「コボルトを頼む!オレらは前に出る!」
そう叫び、Bランクパーティはコボルトを無視してバリケードに突っ込んでいった。
「行きましょう!」
レイは迷わず、コボルトの群れに向かって駆け出した。
(レイ、長丁場になるので戦闘支援プロトコルのみ発動します)
(アル、了解だ)
コボルトの群れが落とし穴にはまったり、バリケードに引っ掛かったりしている。しかし、数にものを言わせて押し寄せてくる姿は、一見すると脅威に見えた。
だが、「レイジングスピリット」のメンバーは動じることなく、迎撃の準備を整えていた。
「行くぞ!」
レイがロングソードを抜き、前方へと飛び出す。
その瞬間、フィオナは素早く弓を引き、矢を放った。
狙いは正確で、次々とコボルトの頭部を射抜いていく。
弓の音と共に倒れていくコボルトたちは、まるで糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。
レイは目の前のコボルトを斬り伏せながら、その様子を冷静に観察していた。
動きに迷いがなく、本能的に襲いかかってくるその姿を見て、ふと感じる。
「このコボルトは操られていないな」
フィオナも戦いの中でコボルトの動きを見つめ、レイの言葉に頷いた。
「確かに、動きが自然ね。誰かの命令で動いている感じはしない」
二人がコボルトの様子を言い合っていると、横からサラが駆け込んできた。
「ここは任せるニャ!」
サラは双剣を手に、軽やかに敵の間を駆け抜ける。
その動きは猫の獣人ならではの俊敏さで、コボルトたちは全くついていけなかった。
双剣が光のように閃き、コボルトの群れが次々と倒されていく。
「邪魔よ!」
セリアは短剣を握り、正確な動きでコボルトたちの急所を突いていく。
彼女の技は一撃必殺。冷静で無駄のない動きで、確実に敵の数を減らしていった。
リリーは後方から戦場を見据え、大鎌を構える。
一気に振り下ろした大鎌は、目の前のコボルトたちを薙ぎ倒す。
その強力な一撃は、まるで収穫のように群れを一掃していった。
「終わりだ!」
レイはロングソードを高く掲げ、力強く振り下ろした。
その一撃で、最後のコボルトが倒れた。
「これでひとまず落ち着いたかしら?」
フィオナは矢を番えたまま、周囲を見渡しながら問いかけた。
急斜面に目を凝らしていたレイは、巨大な影が現れるのを見た。
崖上から突然姿を現したその影は、他の魔物を押しのけるようにして斜面を駆け降りてくる。
「今度はジャイアントベアだ!」
誰かが緊張した声で叫んだ。
ジャイアントベアは、巨大な熊型の魔物で、地面を揺るがすような足音を立てながら迫ってきた。
その巨体が重力に逆らうことなく急斜面を駆け下りる姿は圧巻だった。
「ここで迎え撃つぞ!」
Bランクの冒険者が叫び、剣を構えた。
ジャイアントベアはその叫びに応えるかのように、一直線にその冒険者たちに向かって突進してくる。
その猛攻に、バリケードは軋み、ぐらりと揺れた。
ギギ…ガキーン!
木材や石材がぶつかり合う音が響き、崩れ始める様子が目の前に広がる。
「数が多すぎる…!」
Bランク冒険者の一人が叫びながら、ジャイアントベアの前足をかわしつつ鋭い剣で反撃する。
しかし、次から次へと現れる魔物たちに対処するのは容易ではなかった。
「くそっ、これじゃキリがない!」
Bランク冒険者の魔法使いが叫び、バーバリアントの群れに向けて火魔法を放つ。
だが、巨体を持つバーバリアントは燃えさかる炎もものともせず、突進を続けた。
ドゴォッ!
バリケードにぶつかる衝撃が大きく響き、粉塵が舞い上がった。
バリケードがついに崩れかけたその時、冒険者たちの視界の端に銀色の影が飛び込んできた。西側に配置されていた騎士隊が、バリケードを守るために駆けつけたのだ。
「バリケードを守れ!」
騎士のリーダーが力強い声を響かせる。
騎士たちは一斉に盾を構え、バリケード前に立ちはだかった。
彼らの盾はまるで一つの巨大な壁のように連携し、押し寄せる魔物たちの衝撃を受け止めた。
「ここは渡さん!」
騎士の一人が叫び、迫ってきたジャイアントベアの攻撃を受け止める。
ガキッ!
バリケードを壊そうとするバーバリアントたちに対し、騎士たちは冷静かつ的確に次々と打ち倒す。
バキッ、ガシャン!
剣や斧が敵を打ち据えるたび、戦場に重厚なリズムが刻まれていった。
冒険者たちも再び息を吹き返し、騎士たちと共に魔物たちを迎え撃った。
「助かったぜ、騎士さんよぉ!」
槍を持った冒険者が声をかけた。
「気にするな。ここを抜かれると横から食いちぎられるからな
騎士も返した。
それでも数の差は圧倒的だった。
次々と現れる魔物たちに対して、冒険者たちは全力で立ち向かうが、疲労が見え始めていた。だが、騎士たちの援護によってバリケードは辛うじて守られていた。
「まだだ、持ちこたえろ!」
と騎士のリーダーが叫び、部隊を鼓舞する。
冒険者と騎士たちは力を合わせて、魔物の波を何とか食い止めていた。
後ろの方からもジャレンが叫んでる
「それを凌げば第二波も終わりです!Cランク全員出てください!」
それを聞いたレイ達は、お互いに顔を見合わせ頷くとバーバリアントたちに向かっていった。
(レイ、アリならば目と触覚は弱点になります。そこを狙ってください。)
アルの冷静な声が頭の中に響く。
「了解!」
レイは深呼吸し、ロングソードをしっかりと握り直した。
バーバリアントが勢いよく突進してくる。レイはその動きを見極め、右手を剣から離して魔力を集中させた。
瞬時に形成された魔力の鞭が、バーバリアントの触覚を正確に捉え、勢いよく打ち据える。
バーバリアントは一瞬怯んだが、すぐに攻撃を仕掛けてきた。
「ここだ!」
レイは再びロングソードを握り、魔物の目を狙って一閃した。
ザシュッ!
鋭い一撃がバーバリアントの片目を潰し、続けてもう一方の目に向かって剣を振るった。
バーバリアントは苦しげにのたうち回り、そのまま地面にドサっと崩れ落ちた。
しかし、戦いはまだ終わらない。さらに二体のバーバリアントが現れ、レイに襲いかかる。レイはすかさず間合いを取り、今度はロングソードで一体の頭を斬ろうとしたが剣が跳ね返される。
キィィン!
「うっ、やはり外殻は硬いな!」
もう一体が迫って来たので再び魔力鞭を触覚に向けて放った。
鞭が触覚に絡みつき、その動きを封じ込めた隙に、剣で目を突いて致命傷を与える。
頭を狙ったバーバリアントが噛みつき攻撃に出て来たので、そのまま触覚だけをスパッと切り飛ばした。
そのバーバリアントは、急に方向を変えて、味方のバーバリアントに突っ込んでいった。
「何だメチャクチャな動きになったな。触覚を斬ると、まっすぐ進めなくなるのか?」
確かに目や触覚を攻撃すると、バーバリアントは混乱してしまうらしい。
結局、そのバーバリアントもリリーの大鎌で腹部を貫かれて、息絶えた。
その時、C野郎が遠くから怒鳴り声を上げた
「なぜ、俺たちより先に出るんだ!」
フィオナが鋭い睨みを効かせると、急に黙り込んだ。
レイは内心で苦笑した。
(そっちが出遅れんじゃないの?)
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