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第92話(第一波の到来)

レイたちが第一バリケードと第二バリケードの間で待機していると、冒険者ギルドの職員が声を張り上げた。


「B・Cランクの冒険者の皆さん、今から配置場所に移動します!こちらにお願いします!」

「Dランクと志願したEランクはこっちだ、ついて来てくれ!」

その呼びかけに、周囲からは不満げな声が漏れる。


「何だよ、移動すんのか?」


どうやら衛兵隊や騎士と役割分担が決まったようで、冒険者たちは東側を担当することになったらしい。


そこへギルド職員のジャレンが近づいてきて、説明してくれた。

「真ん中に騎士隊を挟んで、西側は衛兵隊、東側は冒険者が担当します」


彼は以前、リリーとセリアが魔物の異常行動を調査したときに同行してくれた職員で、どこか腰が低そうな感じの人だった。

言葉遣いも丁寧で、落ち着いた印象を受けるが、指示出しとかちゃんと出来るんだろうか?とレイは少し不安になった。


冒険者たちは指示に従って、それぞれの配置場所に移動し始める。

レイたちも東側の防衛を担当するため、慎重に行動を開始した。


その時、ジャレンから声をかけられた。

「パーティ名は無いのですか?」


レイは困ってしまった。そもそもレイは、フィオナとサラにくっついて来ただけだし、セリアとリリーともファルコナーで事件が起きた流れで行動を共にしているだけだ。


「サラさんと二人の時はどんなパーティ名だったんですか?」


とフィオナに聞いてみると、すぐに返ってきた答えは、


「フィオナ&サラ、だったな」


「その名前じゃ、さすがに引き継げないな……」

レイは苦笑した。


「今は臨時で良いです。人の名前で呼んでると、パーティ毎にスイッチする時に困ります」

とジャレンが促してくるので、みんなを集めてパーティ名を考えることになった。


するとフィオナが、さらりと言った。

「暫定なら『レイと仲間達』で良いんじゃないか?」


「ちょっと待って、それじゃ『レイと仲間達、チェンジしてください』『レイと仲間達、下がってください』って、何かある度に言われるじゃないですか。もう恥ずかしすぎます。それ却下です!」


レイは思わず反論した。

「そうねぇ……」


とみんなが悩み始めた頃、ジャレンの視線がじわじわとプレッシャーを帯びてくる。


レイは何か案をひねり出そうと考え込み、ふと思いついた。


「あっ、セリアさんとリリーさんがいたレイジングハートの魂を受け継いで……『レイジングスピリット』なんてどうですか?」


フィオナが頷く。

「響きもいいし、ちゃんと意味も感じられる」


サラも嬉しそうに言った。

「ニャ、なかなかいい感じだニャ!」


セリアは少し照れくさそうに目を伏せた。

「ちょっと恥ずかしいけど、暫定としてならね」


リリーも落ち着いた声で同意する。

「臨時パーティだし、まぁいいんじゃない」


みんなが賛成してくれたことに、レイはほっと胸を撫で下ろす。

「まあ、あくまで暫定ですからね」

と最後に念を押した。


「では、『レイジングスピリット』の皆さんは、『タイムドリフターズ』の次に出てもらう予定です。よろしくお願いします」


ジャレンはそう告げると、すぐ別のパーティの方へ移動していった。

この人、やっぱりギルド職員だわ。やる時はやる人なのね、とレイは感心する。


「『タイムドリフターズ』の次か」


パーティ名を口にしながら、その集団に視線を向ける。

ふと気づいて目を凝らすと、見慣れた顔があった。


(ん、よく見たら『タイムドリフターズ』ってC野郎のパーティじゃないか!)


レイは内心で驚き、思わず眉をひそめる。

こいつらの後か…嫌な予感がする。


少し不安を感じつつ、周囲を見回した。

Bランクのパーティはすでにバリケード前で待機しており、その背後の壁の上には望遠鏡を持った衛兵が立って、山の先を見つめていた。


やがて、山の方からドドドド…という振動が空気を震わせる。


「来るニャ!」

サラがピンと耳を立てて声を上げた。


山の斜面から、大きな足音が迫ってくる。しばらくして、砂埃がもうもうと広がった。


その濁った空気の中から、最初の魔物が山の斜面を飛び出してきた。

驚く間もなく、そのまま落下する。


その後ろからも次々と、何かに追い立てられるように魔物たちが飛び出し、斜面を滑り落ちていく。


「なんだ、あれ…!」

レイは思わず目を見張った。


まるで自殺するかのような勢いで落下していく魔物たちの姿に、戦慄が走る。


「まるで自殺じゃないか?」

思わず呟いた言葉が、息に乗ってこぼれる。


ウサギの魔物たちは、急斜面も気にせず、次々と飛び出しては落下していく。恐怖に駆られているのか、それとも別の理由があるのか――その異様な光景に、レイの背筋がぞくりとした。


「スプリントラビットだわ、何かに追われて逃げてきたって感じね」


隣でセリアが落ち着いた声で告げる。

フォレストウルフも数匹、低く唸りながら、斜面で止まりきれずに転がるように落ちてくる。その唸り声は、目前の恐怖をそのまま音にしたかのようだった。


「おい、横からもくるぞ!」


Dランク冒険者が叫んだ方角に、崖を回り込んで現れた魔物がいた。

スプリントラビットとフォレストウルフが、そのまま突進してくる。


「アオォォン!」

「キャィィッ!」


フォレストウルフの咆哮とウサギの悲鳴が交錯し、静まりかけていた戦場の空気を一気に裂く。

ほとんどの魔物はバリケードに阻まれていたが、中には巧みにすり抜けてくるものもいる。


「ブモォォォ!」


ワイルドボアが重く低い鳴き声を上げ、地面を踏み鳴らしながら回り込むように走り出す。

その足音は地を揺るがし、迫りくる恐怖をより強く感じさせた。

スケイルリザードだけは、他とは違っていた。

急斜面をまるで気にせず、地面を這うようにして巧みに降りてくる。


草や岩を押しのける音が断続的に響くたび、レイの背筋に冷たい汗が伝った。


魔物の個々のレベルはそれほど高くない。

だが、後から後から押し寄せる様子に、レイは圧倒されそうになる。


初めてのスタンピード。湧き上がる恐怖に、心が折れかけていた。


その時、そっと肩を叩かれた。


「レイ殿、あなたならできる。怯むな、私はあなたを信じている」

フィオナの力強い言葉が、胸にまっすぐ届く。


「そうですね。ありがとうございます、フィオナさん」


自分はまだ戦ってもいないのに、弱気になってどうする――。


レイは深く息を吸い、静かに吐いた。


隣では、騎士とBランクの冒険者たちが一枚目のバリケードに出て、迎撃を始めていた。その動きは素早く、ワイルドボアやスケイルリザードを次々に撃破していく。

これなら大きな被害は出ない――そう思ったのも束の間、次の魔物が現れた。


今度は空中だ。


巨大な昆虫系の魔物が、急斜面など関係ないとばかりに飛翔してきた。


「これって、町の方まで行っちゃうんじゃないか?」


レイが焦りの声を漏らしたその瞬間、騎士隊の中にいた魔法使いが杖を掲げ、呪文を詠唱し始める。


「ハリケーン・ウォール!」


その声とともに、空中に激しい風が渦巻き、空気が歪んだ。

砂埃や木の葉が一気に舞い上がり、まるで空中に壁が出現したような威圧感が立ち込める。

飛んできた昆虫系魔物はその風壁に激突し、もがくように羽をバタつかせたが、やがてその勢いを奪われていく。

風の壁に囚われた魔物は翻弄され、そして地面に叩きつけられ、動かなくなった。


「あれはハリケーン・ウォールだな。

風の壁を作り出して敵の進行を阻む防御魔法だが、飛んでいる魔物にとってはまさに地獄だろう」


フィオナが分析するように言った。

そういえば、彼女も風魔法の使い手だった。


「あれはモスグラントね。毒性の鱗粉を撒き散らして攻撃するんだけど、鱗粉ごと風がさらって行ったわ」


リリーが冷静に告げる。さすが薬師だ。

そこにアルも加わり、魔法の仕組みを補足してくれる。


(あの風の壁は、反対方向から吹く二つの風がぶつかり合ってできているようです。その境界で激しい乱流が起こり、飛んでいる魔物を翻弄して落下させているのでしょう)


「だから、あいつらが次々と落ちてるのか…なるほどな」

アルの説明に、レイは納得して頷いた。


その時、向こうでDランクの冒険者たちが騒いでいた。


「モスグラントなんて聞いてないぞ!」


遠くから確認しただけで、詳しいことなんて分かるはずもない。ピンポイントで状況を把握できるわけもなく、文句を言われる筋合いもない。

山の方からは、まだ足音が途切れず響いてくる。今の騒ぎは、スタンピードの第一波の始まりに過ぎないらしい。


レイは肩に力を入れ、改めて気を引き締めた。


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