第91話(迎撃準備)
冒険者ギルドの対応は決まった。
「皆、聞いてくれ。今、接近している魔物の種類が分かった!」
ギルドマスターが歩きながら声を張り上げる。
「今、入った情報だ!スプリントラビット、フォレストウルフ、ワイルドボア、スケイルリザード、コボルトが接近している!」
――それって誰情報だよ!
心の中でツッコミを入れながら、レイは次の指示を待った。
ギルドマスターは険しい表情でギルドホールの中央に立ち、集まったBランクからFランクまでの冒険者たちを見渡した。
「さて、これから皆の役割を割り当てる」
「Bランク、斜面のバリケードの前線を固めろ!お前たちが防衛線の中心だ!」
「Cランク、Bランクを支援しろ!即座にカバー出来るようにな」
「Dランク、横から攻めてくる魔物を叩け!」
「Eランク、避難誘導と補給が優先だが、志願者は参戦しても構わない。その場合はDランクと同じところだ!」
「Fランクは後方支援だ!準備が終わったヤツから北側斜面のバリケードのところまで行ってくれ」
(短っ!もっと長い話が来るのかと思った)
(時間が無いからでしょうね。昼前の鐘が鳴る頃には防衛部隊と衝突するはずです)
(鐘一つ分も無いってこと?)
(そうなります)
(魔物を一網打尽にする方法とか無い?)
(あったら冒険者は必要なくなるのではありませんか?)
(そうだな)
そこにフィオナがレイに声をかけてきた。
「レイ殿、どうする?パーティとして行動するか、Dランクとして単独で動くかなんだが」
彼女は真剣な表情でレイを見つめている。
「セリア殿もリリー殿もCランクだそうだ。なので口頭だが五人パーティとして申請してある」
フィオナは少し笑みを浮かべながら言った。
「えっ、そうなんですか?」
「そうよ。まあ、私たちはCランクに上がったと同時にパーティ解散で休止しちゃったけどね」
セリアは少し照れくさそうに笑う。
「休止してから三年しか経ってないそうなのでな。あと二年経ったら自動降格だったな」
「いや、リリ姉は薬草採取しながら細々と冒険者活動も続けてたから、彼女は現役ね」
「じゃあオレだけDランクなんですね」
レイは肩を落とした。
「そうなるな。だが、パーティで動くのなら、CランクパーティとしてBランク支援とカバーになる」
「じゃあカバーに入ります!」
「了解した。じゃあ、Cランクパーティとして一緒に動こう!」
フィオナは微笑んだ。
「準備が整った人は斜面バリケードの方に移動してください!」
受付嬢の声が響き渡る。
レイたちはすぐに行動を開始し、急いで町の北側へと向かった。
街道に続く道を歩き、北門をくぐる。そこから街道を外れ、山の方へ進んでいくと、すぐに緩やかな丘が目の前に広がった。
丘を登り切った瞬間、レイの視界に高さ二メルほどの壁が飛び込んできた。
「ここが斜面バリケードか?」
そう呟いたものの、確信は持てない。
だが、冒険者たちが次々と壁に設けられたトンネルへ入っていくのを見て、ここが目的地であることを理解した。
トンネルを抜けると、視界が一気に開け、広々とした平坦な場所が広がっていた。市場よりも広い、広大な平地だ。
その平地の先には、三列にわたってバリケードが整然と並び、守りの最前線がしっかりと構築されているのが一目でわかる。
どこに行けば良いか迷っていたレイは、近くにいた衛兵に声をかけた。
「山の急斜面に一番近いところが第一バリケード、真ん中が第二バリケード、最後が第三バリケードだ。前線に出るなら第一と第二の間だな!」
衛兵は丁寧に指で場所を示して教えてくれた。
レイは第一バリケードの先にそびえ立つ急斜面を見上げた。
こんなところから魔物が降りてくるなんて、本当にあるのだろうか。
疑問を抱きつつも、バリケードの一部に妙に何も設置されていない場所を見つけた。よく見ると大きな穴が開いており、どうやら罠になっているらしい。
「なるほど、魔物をここで一気に仕留めるつもりなんだな」
レイはその罠の効果に期待しながらバリケードへ向かう。
市壁のないこの場所でどうやって防ぐのか不安だったが、防衛線を目の当たりにしてようやく納得した。なるほど、こうやって侵入を防いでいるのか。
その時、前方から大きな声が響き渡った。
「領主様だ!」
まあ、ここの責任者だものな。
そう思いながら遠巻きに様子をうかがうと、別の呼び名も聞こえてきた。
「伯爵様だ」
(へぇ、ファルコナーって伯爵様の領地だったんだ…)
レイにとって雲の上の人である。規模が違うはずだと納得した。
同時に、その規模の違いが単なる物量ではないことも分かってきた。
斜面バリケードの後方には、簡易な幕で囲われた空間があり、堂々と立つ伯爵の姿が見えた。
手前には鎧をまとった騎士たちが二十人ほどひざまずき、さらにその中には魔法使いもいる。
ただ者ではない空気が、確かにそこにあった。
レイは騎士たちの威風堂々たる姿に思わず見とれたが、幕の奥に立つ伯爵の姿から威圧感を感じた。
「…あまりジロジロ見ない方が良いぞ」
肩を軽く叩かれ、振り返るとフィオナが小声で諭してくれた。
「そうよ、失礼になっちゃうから」
セリアも同じように注意してくれる。
(伯爵様、なんか……怖そうな人だな)
レイは素直に頷いた。
すると今度は背後から香ばしい匂いが漂ってきた。
振り返ると、サラが何かをもぐもぐ食べている。
「サラさん、それ何食べてるんですか?」
サラに尋ねると、彼女はにっこりと笑った。
「魚のすり身スティックだニャ。腹ごしらえだニャ」
「いつの間に買って来たんですか、それ…」
驚くレイに、サラは気にする様子もなくスティックをかじり続けていた。自由人だ。
その隣に目をやると、リリーの手に見慣れない武器が握られている。
自宅から持ってきた大鎌だ。
「大鎌っ?!」
思わず声を上げるレイ。どう見てもリリーに似合わない巨大な武器に、少し怯んだ。
「それで戦うんですか…?」
半ば呆然と尋ねると、リリーは無言のままにっこり笑った。
そして大鎌を軽々と振り上げ、足元の雑草を一瞬で刈り取る。
「え、すごい…」
驚きの表情を隠せないレイに、リリーは満足げに大鎌を持ち直した。
「これ、意外と便利なのよ。ハーブラックにもなるしね」
涼しげな顔でそう言うのだった。
「死神の微笑み復活ね!」
と、セリアが言っていたが、レイはそれを大鎌の名前と勘違いした。
「すごい名前の武器だな」
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