第8話(やっぱりオーク怖いよ)
最近、オークが目撃されているのは、ここセリンの町とファルコナーの町を結ぶ街道の途中にある
ドゥームウッドと呼ばれる森だ。
セリンから大街道に出て、東に向かって徒歩で約一時間くらい歩くと右手の方に大きな森が見えてくる。
ドゥームウッドはうっそうとした木々が密集し昼間でも薄暗く、魔物が隠れるには絶好の場所かもしれない。
「オークが目撃されたのはここらへんか。昼間なのに森の中は薄暗いな」
レイは周りを見渡しながら言った。
「そうですね、レイ。右上の枝を注意して見てください。高い所の枝が折れています。
人があの高さの枝を折るのはちょっと考えられません」
アルは冷静に観察しながら指摘した。
「確かに。じゃ、あそこからオークが出てきたのかもな」
レイは、枝が折れた方向を注意深く見つめ、深く息を吸い込んだ。
それから、その折れた枝の先へ向かい、森の中へと足を踏み入れた。
やはりところどころ枝が折れており、何かが森の中を通ったのが分かる。
「なぁアル、本当にオークを倒す手はあるんだよな?」
レイは不安そうに尋ねた。
「はい、お任せください。但し私はサポートですので直接オークを倒せる訳ではありませんが」
「えっ?それってどういうこと?」
「ちょっと試してみますか?その場で跳んでみて下さい」
「分かった。こうか? うわっ!」
レイはその場で軽くジャンプしたつもりだったが、地上から3メートルはありそうな高い枝に
頭をぶつけそうになるくらい跳んでしまった。
「信じられない、こんなに高く跳べるなんて」
レイは驚きと興奮を隠せなかった。
「ジャンプだけではありません。神経伝達速度も強化しています。これにより、反応速度も
大幅に上昇しています」
「なんか、この間のダンジョンの比じゃないくらい体が動くんだけど。
おお、これなら本当にオークを倒せるかもしれない」
「はい、サポートはお任せください。それと探知能力が上がるように視覚強化と聴覚強化も行います。
これでオークを発見出来るでしょう」
レイは、まるで自分じゃないみたいだなと思いつつ、静かに腰を下ろして辺りの音に耳を傾けた。
木々がざわめく音の他に、ガサガサと森の中を何かが進むような音が聞こえてきた。
「あっちに何かいる!」
レイは剣を握り締めると、音がした方に向かって走り出した。
(いた、オークだ!)
「爺ちゃんと婆ちゃんの仇だぁ!!」
レイは叫びながらオークに向かって突っ込んでいった。
オークは太い腕で棍棒を振り下ろして来た。
レイは横っ飛びで回避したが、オークが振るった棍棒が地面に当たった衝撃でひび割れた。
それを見たレイは一瞬でビビってしまい、目を瞑ってしまった。
「レイ、目を開けてください!」
アルの声が響く。
ビクッとしたレイは目を開けたが、その瞬間に目の前に棍棒が近付いてくる。
「うわっ!」
驚き咄嗟にまた目を瞑ってしまったレイだったが、痛みは襲って来なかった。
手が勝手に動き、オークの棍棒を見事に受け止めていたからだ。
「あまり使いたくない手だったのですが…」
アルは、そう言った後、レイの身体を動かし始めた。
そこからは一瞬だった。オークの棍棒を押し返し、ガラ空きになったところに剣を一閃させると
オークは目を見開き、斬られた瞬間を目撃することもなく、地面に倒れ込んでいった。
「す、すげ〜っ!」
レイが驚いていると、いつになくアルが厳しい口調で言った。
「あれくらいの攻撃で目を瞑らないでください。相手の動きはしっかり見えていた筈です。
現に最初の攻撃は避けていたではないですか」
言われてみれば確かにその通りだが、小さかった頃のトラウマを思い出してしまった。
ひび割れた地面を見て、昔、家が崩れたところを思い出してしまったら目を瞑ってしまっていた。
アルは付け足すように言った
「それにです。棍棒が当たったくらいで大した傷など負わせません。更に傷を負ったとしても
即座に治療しています」
これにはレイもタジタジだった。
「いや、すまなかった。オークには嫌な思い出があるんだ」
「仇撃ちと言ってましたね。分かりました。冷静な判断が出来る状態で戦えるように調整します」
「そんなこと出来るの?」
レイは信じられないという顔をする。
「はい出来ます。ですが今はその話は後です。他のオークが集まって来ました。
今のレイにはキツいでしょうから、私が身体を動かします。レイは目を瞑らず戦いを見ていてください。
無傷でお返ししますので」
アルは、そう言うとレイの身体の主導権を自分に移した。
そこからはレイには信じられない光景が続いた。
アルが操作するレイの体は、森の木を蹴り斜めに飛び上がると向かってきたオークの頭上を飛び越え、
背後に回ってその首を刎落とした。オークは断末魔の叫びすら出来ずに地に倒れた。
更に後ろから来たオークを振り向きざまに一閃し、そのオークの持っていた斧を掴んでオークを蹴り飛ばした。
奪った斧を横にいたオークに投擲すると斧はクルクルと回転しながら横にいたオークの胸に突き立った。
「オオアァァァ!」とオークが悲鳴をあげる。
ここまでが一瞬の出来事である。
遅れてやってきたオーク二体が怯んだのを見ると、そのオークに向かって突っ込んで行き、
ぶつかる寸前のところでしゃがみ込むと、股の下を通り抜けざまに剣で斬り上げた。
「ブギャァァァ!」
股間を斬られたオークの後ろにいたもう一体は、いきなり死角から現れたレイに気付くまもなく
胸を一突きされ絶命した。
オークに突き立った剣を抜くと、振り向きざまに股間を斬られて蹲っていたオークの背中に剣を突き立て
トドメを刺した。
小さかった頃に見た冒険者の、いやそれ以上の動きをレイは経験したような気がした。
アルは何事も無かったかのように「終わりました。」というと、
身体の主導権を手放した。
「オレの身体ってあんなに素早く動けたんだな」
「筋力強化や反射速度を上昇させたので筋繊維がかなり切れましたが」
「それって無傷じゃないんじゃ?」
「それは怪我ではありません。破壊と再生を繰り返すことで筋力が上がるのです」
これは、知らない単語オンパレードの兆候だと気づいたレイは話題を変えることにした。
「なぁ、アル。オークを結構倒したけど、どうやって持ち帰るんだ?」
「まずはオークから魔石を全部抜き取りましょう」アルは落ち着いて答えた。
それもそうだと思い、レイは剥ぎ取り用のナイフを使って魔石を採り出した。
これだけでも、良い稼ぎになりそうだ。
「では、どれか一匹選んで運んでしまいましょう。いつまでもここに居ると、また魔物が寄って来ます」
「残りのオークはどうするの?片付けないの?」
レイは周りを見渡しながら尋ねた。
「Eランク冒険者がオークの現れたこの森の中で死体を悠々と片付けていても、
言い訳が出来るのであれば、どうぞ」
アルは少し皮肉を込めて言った。
「確かに悠々とそんなことやってたら言い訳出来ないな」
レイは苦笑いを浮かべた。
「はい、その通りです。勿体無いですが諦めましょう」
「それと、一匹だけ持ち帰るって言ったけど、こんな重いもの一人で運べる訳ないだろ?」
「筋力強化してるのをお忘れで?」アルは冷静に指摘した。
「これ持てるの?」
レイは恐る恐るオークに近づき、オークの両足を引っ張ってみた。
すると、思ったよりも簡単に動かすことが出来たのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
誤字報告も大変感謝です!
ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。
悪い評価⭐︎であっても正直に感じた気持ちを残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、よろしくお願いいたします。