第87話(ちょっと過保護では?)
意識を取り戻したケイルが、黒いローブの男との連絡方法を語り始めた。
「黒いローブの男と連絡を取りたいなら、あの時教わった方法しかない」
彼が最初にその男と会ったとき、取引の証拠が刻まれた銀貨を渡され、こう言われたらしい。
「三年前の事件に関わった者がいるなら、この銀貨を使え」
使い方はシンプルだが、巧妙だった。町の教会の裏手に行き、壁際に銀貨を落とす。夜明けまでに回収され、そこに黒い鳥が現れる。その鳥の足には小さな巻物がくくりつけられており、時間と場所が記されている――という仕組みだ。
だが、前回ケイルがリリーを連れて黒いローブの男と会ったときは、一方的に話を打ち切られ、銀貨は渡されなかった。そのため、今は連絡手段が完全に途絶えているという。
手がかりが途絶えたかと思いきや、ケイルが毒を盛られた時の話が聞けた。
奴隷に関する新しい情報があるという手紙が玄関に落ちており、ケイルは一番西にある桟橋に向かった。しかし人影はなく、ガセネタかと思って帰ろうとしたところ、自宅前で突然後ろから殴られ、拉致されたのだという。
気付くと、白衣を着た白髪の男に無理やり水薬を飲まされ、その後の記憶は虚ろ。いつ家に戻ったのかも分からなかったらしい。
この話を聞き、一同は白衣の男を探す計画を立てた。
ケイルも、自分の身を守るため、そして協力するために覚悟を決めたという。
――ちなみに、この話はレイがあの後、丸一日寝ていたため、後から聞かされた内容だ。
そして、目を覚ましたレイを何故かフィオナとセリアが看病していた。
リリーからは魔力回復ポーション、サラからは魚型のクッキーがお見舞いとして、枕元のベッドサイドテーブルに置かれている。
「気付いたか?」
フィオナが柔らかい声で問いかける。表情からは、ほっとした様子が見て取れた。
「レイ君、無理しすぎよ。心配したんだからね」
セリアも微笑みながら、そっとレイの額に手を当てて熱を測る。
「フィオナさん、セリアさん?」
レイはまだ状況が飲み込めず、二人を見つめる。
「リリ姉の見立てだと、魔力の使いすぎだろうって。それで、私たちで看病してたの」
セリアが説明しながら椅子に座り直す。
「レイ殿が魔力を込めた『気功術』という秘術を使っていることは、私とサラから話させてもらった。あれを直接見られてしまっては隠し通せないからな」
フィオナが冷静に言った。
(あれ、それって言い訳しなくても良くなってる?)
レイは内心で少し安堵した。
「レイ君、後でその秘術の話をじっくり聞かせてもらうからね」
「ですよね〜…」
「リリーさんとサラさんは?」
「今日の朝から、白衣を着ていそうな職業の人たちをケイルさんに面通しさせているわ。リリ姉とサラさんが一緒に動いてくれているの」
「きっと怪しい人物を見つけ出してくれるはずだ。ケイルさんも協力しているから、少しでも手がかりが見つかるといいのだけれどな」
レイはどれだけ寝ていたか考え、アルに呼びかける。
(アル!)
(はい、何でしょう?)
(あの演出、やりすぎだろ。それに眠らせたのもアルのせいだろ?)
(はい。大きな術には代償が必要だと印象付けるためです)
(でも、あんな派手な光、みんな黙っててもらうしかなくなるじゃないか)
(最初に解毒できるかと尋ねたのはレイです。その代償として必要でした)
(……それは、そうなんだけどさ)
(ちなみに、ケイルさんの体から検出された毒は四種類です)
(それをどうしろと?)
(倒れた理由にしてください。一種類ずつ解毒したら魔力が尽きかけた、とでも)
(なるほど……それなら言い訳になるな)
レイは看病してくれていた二人に「もう大丈夫です」と伝え、立ち上がろうとするが止められる。
「レイ殿、どこに行こうとしているのだ?」
「レイ君、昨日からずっと寝ていたのだから、そんな簡単に回復するはずないでしょう」
「せめて何か食べさせてください。お腹ペコペコなんです」
レイは弱々しく頼む。
「まずはちゃんと休んでから。それに食べ物なら後で用意するわ」
セリアが微笑み、レイの肩に手を置いて制した。
「え〜っ!」
「冗談よ。すぐに持ってくるから、少しだけ待っててね」
「では、私が持ってこよう。セリア殿は見張っていてくれ」
(なんか恐ろしく過保護になってないか…)
レイは内心でつぶやく。
その後、レイはベッドから出られず、手も自由に使えなかった。
二人から交互に「あ〜ん」攻撃を受け、必死に食べ物を口に運ぶので精一杯だった。
彼の必死な様子を見たセリアとフィオナは、思わず揶揄うように笑いながら、さらにレイに食べさせようと迫るのであった。
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