表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/337

第83話(針のむしろ?)

オートマッピングの気分ではなくなったレイは、トボトボとシルバーシェルに戻った。何にしても、セリアは衛兵隊詰所で打ち合わせ中だ。何の話なのか分からず、ただ戦々恐々とするばかりだった。


「何なんだろ?オレ、何かセリアさんに悪いことしたかな?」

レイは自分を問い詰めるように考えながら部屋に入る。すると、アルが声をかけてきた。


(レイ、私もギルドでの会話は聞いていましたが、特に悪いことはしていないと思います。今、それを考えても埒があきません。セリアさんが何で気分を害したのか、聞いてみないと分かりません)


アルの言葉にレイは少し安心した。自分が何か悪いことをしたわけではないと思い、ホッとした。

しかし、まだ何も解決したわけではない。レイは深呼吸をして、心を落ち着かせた。


「そうだね、アル。ありがとう。正直に聞いてみるよ」


(そうですね。セリアさんもフィオナさんもサラさんも、大事な友人だと思います。話せば分かる人たちだと思います)


「うん、そうだよね」


アルは内心、三人ともレイの大切な仲間になってほしいと願っていたが、

今はそのことを言わず、ただレイを励ますことに専念した。


***


一方その頃、別の会議室に移ったセリアとリリーは、クレイ隊長から一枚の紙を手渡された。それは最近出回っている奴隷売買に関する文書だった。


二人は紙を見つめ、静かに息を呑んだ。

隊長は冷静に説明を続ける。


「最近、三年前の奴隷売買に関する取引内容が流出している。君たちの名前も含まれている」


「隊長、これは誤解です。私たちは関わっていません」

「何かの陰謀です。私たちは潔白です……どうすれば証明できますか?」


隊長は厳しい目で二人を見据えた。

「潔白を証明したければ、行動で示すしかない。まず、この文書がどこから出回っているのか、誰が関わっているのかを調べる。

当面はファルコナーの外には出られない。この件が片付くまで、衛兵を通じて君たちの行動は監視する」


二人は視線を交わし、ため息をついた。


「わかりました。私たちも全力で、この問題の真相を突き止めます」

「何かあればすぐに報告します。できる限りのことをしますので、信じてください」


「二人とも。くれぐれも軽率な行動は取らないように」

隊長は厳しい表情を崩さぬまま、そう言い残して、二人を見送った。


会議室を出たセリアとリリーは、重い気持ちを抱えたまま、廊下で今後の対処について話し合っていた。


「リリ姉、やっぱり追求されちゃったね」

「いつかは言われるだろうと思っていたけど、思ったよりはマシだったかな?」


「そうね。いきなりしょっ引かれてもどうしようもないし」

「ちょっとファルコナーから出られなくなったのは痛いけど」


セリアは壁に背を預け、肩の力を抜いた。

「黒いローブの男もあれっきりで、足取りさっぱりだしなぁ」

と、ため息をこぼす。


二人は詰所を出た後も話しを続けながら、リリーの薬草店まで戻ってきた。


***


しばらくして、セリアはリリーに声をかけられた。


「セリア、さっき約束してたでしょ?シルバーシェルに行くなら、私も付き合うわよ。シルバーシェルで夕飯食べたいし、お腹ペコペコだし」


セリアは、レイがフィオナと一緒にシルバーシェルにいると思っていた。

臨時でパーティを組んでいるなら、同じ宿屋にいるだろうと思った。


少し気が重かったが、話を聞くために行かざるを得なかった。


「わかったわ、リリ姉。行きましょう」

セリアは微笑みながらそう言い、リリーとともにシルバーシェルへ向かった。


シルバーシェルに向かう道中、セリアは何度もレイとCランクの彼女たちのことを考えた。

「パーティを組まないと危ないわ」と自分が言った通りにレイが行動している――それは分かっている。

でも、実際にフィオナやサラのような美人たちと組んでいる姿を見ると、その先がどうなるのか知りたい気持ちと、知るのが怖い気持ちが入り混じった。


一階のレストランに入ると、そこにはすでにレイ、フィオナ、そしてサラの姿があった。レイはまだ気づかずに、二人と楽しそうに話している。


(……なんか、妙に盛り上がってない?)

セリアは一瞬だけ足を止め、深呼吸をしてからリリーと一緒にテーブルへ向かった。


「セリアさん、それに……リリーさんでしたっけ。こんばんは」

ようやくこちらに気づいたレイが、少し驚いたように目を瞬かせ、それからにこっと笑った。


「ええ、約束してたから。二人で来たのよ。ちょうどお腹も空いてたし」

セリアは笑顔を作って答える。


「そうそう、ペコペコだったの。レイ君に、フィオナさんに、サラさん。合ってるよね? 同じ席に座っていい?」

リリーがにこやかに尋ねると、フィオナ、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「もちろん。一緒に食べましょう」

「賑やかになるニャ!」

サラも笑顔で迎える。


こうして五人で同じテーブルを囲むことになった。


セリアはレイにリリーを紹介する。昔一緒にパーティを組んでいたこと、今も姉のように慕っていることを話した。表向きは和やかに振る舞いながらも、心の奥ではざわめきが止まらない。

リリーはそんなセリアを横目で見て、黙って支えるように微笑んでいた。


やがて会話が一段落したところで、サラが唐突に問いを投げる。


「で、二人はどういう関係ニャ?」


「セリンのギルドでお世話になってる受付の人です。色々相談に乗ってもらったり、アドバイスをもらったり。ソロは危ないからパーティを組めって、いつも言われてて。オレにとっては、お姉さんみたいな存在ですね」


「本当にそれだけニャ?」


「ええ、本当にそれだけです。セリアさんは相談相手で、特別なことなんて何もありません」


――その一言に、セリアの胸がズキンと痛んだ。

表情がわずかにこわばるが、すぐに笑顔を作って答える。


「そう……それなら良かったわ。レイ君が困ってる時に助けられたなら、それで十分」


そのやり取りを見ていたフィオナは、セリアの微妙な変化に気づき、内心で疑念を抱く。

(……やっぱり、何かある気がする)


「ただの相談相手よ。それ以上なんて、何もないわ」

セリアは強がるように言葉を継いだ。


サラはにやりと笑い、レイの肩を軽く叩いた。

「少年、もうちょっとセリアさんに気を使うニャ!」


「え? ああ、分かりました。これからもセリアさんに相談します」

レイは場の空気に気づかぬまま、無邪気に返す。


セリアは笑顔を見せたが、その裏で複雑な感情が渦を巻いていた。

一方、フィオナとサラは視線を交わし、レイとセリアの間に漂うわずかな緊張を感じ取っていた。


***


レイが少し離れた場所へ移動したのを見届けてから、フィオナは静かに口を開いた。


「セリアさん。少し話がしたい。……二人だけで、いいか?」


「……え?」

セリアは一瞬きょとんとしたが、すぐに頷いた。


二人は人通りの少ない路地へ移動し、並んで腰を下ろす。

少しの沈黙のあと、フィオナが真剣な眼差しを向けた。


「率直に聞く。あなたは本当に、レイ殿をただの相談相手として見ているのか?」


「……っ」

セリアの肩がぴくりと揺れた。視線を逸らし、唇を噛む。


「……そう思ってた。少なくとも、今までは。でも今日のレイ君を見て……なんか、胸がざわついちゃって。自分でも説明できないの」


「……分かる」

フィオナはすぐに答えた。


「私も似た気持ちを抱くことがある。理由は分からないけど、レイ殿の言葉や仕草に心が揺れるんだ。気になるし……放っておけない」


「……!」

セリアは驚いた顔でフィオナを見つめ、それからふっと笑った。


「そっか。私だけじゃなかったんだ。レイ君と一緒にいると、つい考えちゃうの。ご飯ちゃんと食べてるかな、とか、無理してないかな、とか……そんな小さなことばっかり」


「でも、それは大事なことだと思う」

フィオナは柔らかな声で続ける。


「それが何なのか、今の時点で結論を出す必要はないと思う。

だが、自分の心と正面から向き合おうとしているあなたを、私は立派だと思う。同じような感情を抱えている者として、敵対するつもりはない。

むしろ……分かり合えたらいいと、そう願っているんだ」


セリアはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。


「ありがとう、フィオナさん。……まだはっきりしていないけど、話してみて少し楽になった気がする。整理がつくまで、もう少し時間がほしいな」


「焦ることはない。レイ殿のことも、自分自身のことも、ゆっくりでいいと思う」


二人はふと視線を交わし、ほんの少しだけ微笑み合った。

まだ分からない。でも、今はそれでいい。そう思えた気がした。


いつも読んでくださっていただき、ありがとうございます。

ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。

悪い評価⭐︎であっても正直に感じた気持ちを残していただけると、

作品作りの参考になりますので、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ