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第82話(会議中もソワソワ)

衛兵隊のクレイ隊長の一言で、会議が始まった。


話は、セリアがファルコナーに来たときに襲われた妙な動きを見せる魔物の件からだった。クレイ隊長は、魔物の動向を探るため調査隊を組織し、ファルコナー北方の林に調査を入れた経緯を説明する。


そのとき、セリアの友人らしい女性、リリーが立ち上がり、林で発見された内容を語り出した。


「……その結果、餌に幻覚成分や神経毒素が含まれていることが分かりました。

 おそらく、誰かが魔物を意図的に操ろうとしていたのではないかと推測しています」


続けてクレイ隊長は、山を登る途中で魔物が二手に分かれたこと、山林に自生する毒草や薬草が根こそぎ持ち去られていたこと、そして足跡がさらに山奥へと続いていたことを報告する。


「そして、昨日、山麓の村から一報が届いた」

そう言ってクレイ隊長は立ち上がり、レイたちに目を向ける。


「昨日の山麓の村でのオーク襲撃について、そこに居合わせた冒険者の方に、異常なオークの様子を話してもらおうと思う」


会議室に静かな視線が集まる中、フィオナとサラがレイを振り返る。しかしレイの目はどこか遠くを見ていて、反応がない。臨時とはいえ、このパーティの代表はフィオナだった。


代わって彼女が立ち上がり、状況を簡潔に報告する。


「オークたちは一糸乱れぬ動きで、村の柵を壊していました。あれは、通常のオークの行動とは明らかに違いました。仲間が倒されても見向きもしない… 」


レイは会議の話を聞きながらも、ふと意識を内へ向ける。頭に浮かぶのは、数日前の事件と、かつて自分の村が襲われたときの記憶だった。


どちらの魔物も、まるで何かに操られているかのように動いていた。

そして何より、あの虚ろな目、感情の欠片すら感じられない無機質な眼差しが重なった。


忘れたくても、忘れられない目だった。


(レイ、あまり深く考えると感情のコントロールが効きにくくなります。抑制はしていますが、無理は禁物です)

(ああ、ごめん)

(いえ、大丈夫です。ただ、過去の記憶に囚われすぎないようにしてください)


(……今回のオークと、昔、村を襲ったオークも、操られてたのかもって……そんな気がして)

(その可能性はあります。今後の調査で、真相が明らかになるとよいですね)


(……この事件が解決したら、少しは楽になれるのかな)


(レイがこの件に関わり、解決まで辿り着ければ、トラウマは“経験”に書き換えられます。少なくとも、そうなるよう私もサポートします)


周囲の空気に意識が戻ったときには、会議はすでに終盤に差しかかっていた。


クレイ隊長が席を立ち、全体に告げる。

「他に気づいた点があれば発言を。なければ、これで会議を締めとする」


その声とほぼ同時に、セリアがすっと立ち上がり、レイに向かって歩いてきた。


レイも自然と立ち上がり、先ほどの会話の続きをするのだろうと思った――そのときだった。

間にクレイ隊長が割って入る。


「セリアさん、リリーさん。ちょっと、いいかな。会議とは別件なんだが、昔のことで聞きたいことがあってね」


セリアは立ち止まり、視線をレイとクレイ隊長の間で揺らす。リリーも同じように隊長を見た。


その様子に気づいたのか、クレイ隊長がセリアに尋ねる。


「知り合いかね?」

「はい。そうです」


セリアが答えると、クレイ隊長は今度はレイの方を向き、軽く肩を叩きながら言った。


「すまんね。ちょっとこの人たちに用事があるんだ。挨拶はまた後でお願いできると助かる」

そして二人を促すように手を動かす。


だが、セリアはその手を制するように小さく口を開いた。


「……ちょっと、一言だけ」


そう言うとレイに近づき、少し眉をひそめる。その瞳はまっすぐに問いかけていた。


「レイ君、どこに泊まってるの?」

「港近くの、シルバーシェルってところです」


少し戸惑いながらも、レイは正直に答える。

セリアは短く「分かったわ」と返し、続けて一言添えた。


「後で連絡するわね」


それだけ言い残し、彼女はクレイ隊長と共に会議室を後にした。リリーも三人に軽く会釈をして、セリアの後についていく。残されたレイは、なんともいえないプレッシャーを感じていた。あのセリアの様子は、いつもとは違っていた。


(オレ……何かしたのかな……?)

ぼんやりと突っ立っているレイに、フィオナとサラが詰め寄ってくる。


「レイ殿。あの人は、ギルドの受付ではなかったか? 何かあったのか?」

「怒ってた感じだったニャ!」

「どうなのだ?」

二人から問い詰められ、肩まで揺さぶられる。


「すみません、何だかわかりません……」

「わからないとは?」

「何かあるニャ。話すニャ?」


フィオナとサラの勢いに押されながら、レイは正直に話すしかなかった。


「セリンのギルドで、いろいろ面倒を見てもらってた人です。相談に乗ってもらったり、アドバイスもらったりして……。パーティを組みなさいって、いつも言われてて…」


その言葉に、フィオナは少し安心したように息をつく。

だが納得しきったわけではないらしい。


「なるほどな。相談相手、というわけか……。だが、さきほどのセリアさんの態度は、ただの相談相手にしては、やけに……気迫があったが。レイ殿、本当にそれだけなのか?」


真剣な眼差しで見つめられ、レイは視線を逸らしながら、つぶやいた。


「た、多分……」


そのとき、近くにいた衛兵が声をかけてくる。

「そろそろ、この部屋を閉めますが、よろしいですか?」


穏やかな問いかけに、三人はなんとも言えない表情を浮かべながら、静かに席を立った。


レイの心には、あのセリアの鋭い視線と真剣な問いかけが、まだくっきりと残っていた。

(セリアさん、なんであんな風に……?)



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