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第79話(誰がどう持つ?)

オーク襲撃の翌日、日の出と共にレイは目を覚まし、井戸で顔を洗い身支度を整えた。

朝食には、村長の奥さんと息子夫婦の奥さんが用意した山の幸が並ぶ。香り立つ山菜の煮物に焼きたての麦のパン。素朴ながらも温かいもてなしに、レイは箸を進めた。


「ごちそうさまでした」


感謝を伝えると、立ち上がり出発の準備に取りかかる。今日は早朝から、ファルコナーへの伝令役として出発する予定だ。

馬車で移動すれば一日半かかる距離だが、サラの脚力なら日没前には着ける見込みだった。


ふと、フィオナのことが気になり、レイは隣にいたサラに尋ねる。


「そういえば、フィオナさんはどうやって行くんですか?」


サラはニヤリと笑い、やたら自信満々に答えた。


「だ・か・ら! ワタシがフィオナの荷物を持つニャ、少年はフィオナを持つニャ!」


「はっ!?」


レイが思わず声を上げると、サラは首を傾げながら言葉を重ねる。


「アンダスタン? おぶってもいいし、お姫様抱っこでもいいニャ。これは役得だニャ、少年!」


「そんなのダメに決まってるでしょう!」


思わず叫び、慌ててフィオナの方を見る。下を向き、赤く染まった顔にわずかに震える肩。明らかに怒っていると、レイには思えた。

(……あぁ、これは絶対に嫌なんだな。フィオナさん、怒ってそう……)


しかし、その様子を見たサラは満足げに頷いた。


「とにかくこれは決定事項ニャ! フィオナも覚悟を決めるニャ!」


フィオナはプルプルと震えながら、蚊の鳴くような声で答えた。

「……わ、分かった、よろしく頼む」


レイは顔をしかめ、ため息をつく。

「じゃあ、本当に三人で行くんですね?」


「ニャにをいまさら。昨日話した時から、そうするって決まってたニャ!」


サラが呆れたように言うのを聞き、レイは内心で決意した。これからはちゃんと話を聞こう、と。


***


村の空き地には、すでに見送りの人々が集まっていた。

その中心にはレイ、フィオナ、サラの三人と、キャラバン隊のリーダーであるリオ、護衛責任者のスロット、そして村長夫妻が並ぶ。


村長から手紙を受け取ったレイに、村人たちが温かい声をかける。


「気をつけてのう」

「よろしく頼みますよ」


サラはバックパックを二つ背負う。前が自分用、後ろがフィオナの荷物だ。軽々と背負っている。


レイは自分の荷物を見下ろし、横目でフィオナを見る。どう体勢を取ればいいのか分からなかった。


(まさか、このまま抱えるのか……?)


頭の中が混乱し、レイは我慢できず声を上げた。


「とりあえず、村の外まで進みましょう!」


フィオナも小さく頷く。

その背後から、冒険者の声が飛んだ。


「おいおい、腰引けてんじゃねえか! なんならオレが代わるぞ!」

「お前一人で良い思いしやがって……ずるいじゃねえか!」


どうやら、レイが二人と一緒に行くのが面白くないらしい。


レイは振り向かずに荷物を背負い、フィオナの手を取って空き地を駆け出した。サラもすぐ後ろを追う。


しばらくはフィオナの歩調に合わせて進んだ。

彼女の顔はずっと伏し目がちで、頬は真っ赤だ。

怒っているのか、それとも恥ずかしいのか。

どちらにしても、このままじゃ夕方までにファルコナーに着けない。


焦る中、背後からサラの声が飛ぶ。

「少年、バックパック背負ってるんニャから、お姫様抱っこニャ!」


「……もう、こうなったら!」


レイは息を吸い、気合を入れる。繋いでいた手を引き、フィオナがバランスを崩して振り向いた瞬間、膝と首の下に手を差し入れ一気に持ち上げた。


軽い。想像以上に軽い。そして仄かに花のような香りがする。


「重いだろう?」

フィオナが小さく尋ねる。


「いや、全然軽いです。それに、なんか……いい匂いがします」


フィオナは顔を真っ赤にしてうつむく。

「そ、そんなこと……ない……」


「本当ですよ。だから安心してください」


そう言って歩を進めると、フィオナは躊躇いがちにレイの肩へそっと手を添えた。


後方からサラが追いつき、声をかける。

「お姫様抱っこ、似合ってるニャ! 速く行くニャ!」

「わ、分かってます!」


レイはサラに促されるようにして再び速度を上げる。空気が肌を打ち、フィオナの髪が風に乗って舞う。


何か気を紛らわせる話をしようと、レイは口を開いた。


「フィオナさん、人に身を預けるって、不安ですよね。何か話しませんか?」


フィオナは驚いたように目を開き、真剣な表情になる。


「レイ殿。昨日、オークを見た時…様子が変だったが…。もしかして、あれが苦手なのか?」


少し沈黙したあと、レイは深呼吸して頷く。

「……はい。子供の頃、村がオークの襲撃で酷い目に遭って……それが、ずっと残ってるみたいで。昨日も、それを思い出しちゃったんですよね」


フィオナは静かにレイを見つめる。

「でも、昨日はその後、ちゃんと戦っていた。恐れているようには見えなかったが?」


「克服しようとしてました。怖い気持ちを、少しずつでも越えていきたくて。だから今も大丈夫です。少しずつ、経験を重ねていけたら…」


(それに、アルもいてくれる)

(はい。その件は引き続き、お任せください)


フィオナの表情が柔らかくなり、ふっと微笑む。

「そうか。それなら良かった。私たちも応援している。ただし無理はしないようにな」


「ありがとうございます、フィオナさん」


レイは一歩一歩と力強く駆け抜ける。その腕に抱かれた少女は、そっと目を閉じ、肩に身を預けた。


静かな風が、三人の背中を優しく押していた。


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