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第78話(疾風迅雷?)

その日はキャラバン隊の荷馬車を並べ、壊れた柵を隠すように配置した。

魔物の侵入を防ぐための応急処置だ。


リオが荷馬車の位置を確認しながらつぶやく。


「これで今日は、なんとか凌げるでしょう」


すぐに村長が続けた。

「明日は急いで柵を直す予定じゃ。ファルコナーにも伝令を出すことにしたんじゃ。ここはファルコナーの領主様の管理下じゃからな。援軍も頼んでおかにゃあのう」


「了解です。私たちも手伝います。何かあれば、遠慮なくお知らせください」

リオは落ち着いた声で答えた。


その会話が聞こえてくる。レイは少し離れた場所にいたが、顔を向ければ自然と届く距離だった。

聴覚強化を使う前でも、これくらいはまる聞こえだ。


――内緒話って、こういう能力を持つ相手がいたら無理なんだな。


そんなことを思っていると、隣からサラが顔を覗き込んできた。


「少年、すぐにファルコナーに行きたそうな顔してるニャ!」


レイは苦笑する。

「わかります? さっき、ここでしばらく滞在すると聞いたので、足止めになるのかなって思ってて……」


「うむ、ずっとそわそわしているぞ、レイ殿は」

フィオナも静かに頷いた。


「なら、ワタシに任せるニャ!」

サラは胸を張って宣言すると、リオの方へ軽やかに歩いていく。


「まあ、『疾風迅雷』が伝令に出ると言えば、リオ殿も断れまい」

フィオナがぽつりとつぶやいた。


レイは目を丸くする。

「ん? 今、変な言葉が混ざってなかったですか?」


「ああ、知らなかったのか。サラは“二つ名”を持つ冒険者なのだ」


「ええっ〜?」


フィオナは小さく笑みを浮かべた。

「この国で、サラの脚に勝てる者は、まずおらんよ」


(なるほど。レイの強化に匹敵する速さというわけですね)

アルが感心した。


(いや、さっきその“疾風迅雷”に勝とうとしてなかったっけ?)


リオたちに目を向けると、交渉は終盤に差しかかっていた。


「おお、ではサラ殿が伝令に走ってくださるということでよろしいのですね」

リオの声には驚きが混じる。


「任せるニャ! 弟子と一緒に最速でファルコナーまで走るニャ! 村人じゃついて来れないからニャ!」

サラは胸を張って答えた。


「わしがファルコナーの領主様宛に手紙を用意するのじゃ。衛兵殿に託してくだされ。村が魔物に襲われたこと、今はキャラバンの方々が守ってくださっておることを、しかとお伝え願いたいのじゃ」


「ん? ちょっと待て、弟子って誰!?」

思わず声を上げたが、サラは聞こえていないふりをしていた。



* * *


レイたちは翌朝ファルコナーへ伝令に出ることが決まり、そのため今夜の見張りは免除された。

宿泊先は村長の家の客間だ。


村長の家は村の中でもひときわ大きく、客間は大小二つ。

中には木のテーブルや椅子、小さめのベッドまで揃っていて、さらに会議用の広間や、物資を詰め込んだ倉庫までくっついていた。


最初、レイはフィオナやサラと同室になると聞いて戸惑ったが、冒険者パーティでは男女同室はよくあることだと知り、渋々了承した。

高ランクになると事情も変わるらしいが――。


(でも、二人ともCランクでしょ。高ランクってどこからなんだ?)


小さい方の部屋を借り、テーブルと椅子を隅に寄せて、レイは床にマントを敷いた。


「ここは、平等にじゃんけんで決めたほうが良いのではないか? 誰がベッドを使うか」

フィオナが真面目に提案する。


「フィオナとレイが一緒に使えばいいニャ〜♪」

サラが茶化した。


「いや、ここはレディが使うべきです」

レイは真剣な表情で返す。


「レ……レディ……」

フィオナは小さく俯いた。


(あ、やばい? こういうのってエルフの価値観と違うのかな……)


慌てたようにレイは言い訳を口にした。

「というか、オレ、ふかふかのベッドだと逆に眠れないんです。昔から硬い床で寝てたんで!」


そう言うなり、マントを頭からかぶって床にごろりと横になった。


「お、おやすみなさいっ!」


マントの中で目を閉じながら、レイは心の中でアルに呼びかける。


(アル、前に使ったやつ。すぐ眠れるやつ、お願い!)

(よろしいのですか?)

(この状況じゃ、緊張して眠れそうにないよ)

(……分かりました)


そのやりとりの直後、レイはあっさり夢の世界へ落ちていった。まるで魔法でも使ったような速さだった。


静かな寝息が部屋に満ちると、サラとフィオナは顔を見合わせて、つい微笑んでしまう。


「よほど疲れていたのだろうな」

フィオナがぽつりと呟く。


「オークと戦う前、ずいぶん様子が変だったニャ」

「ああ。正直、驚いた。何と言ってよいか分からなかったな」

「冒険者の中には、過去の記憶が原因で戦えなくなった者もいるニャ」

「けれど、あのあとオークに向かって行った。大丈夫かと思ったが……」


二人は小声でやりとりを続ける。


「でも、怯え方が尋常じゃなかったニャ。この前はフィオナを助けてたのに。しかもオークジェネラルからニャ」

「そうだったな……あのときの記憶はあやふやだが、オークジェネラルが真横に吹き飛ばされたのは覚えている」

「なのに、どうして今回は……って思うニャ」

「森での戦いにもオークはいた。それなのに、だ」


「明日、フィオナがそれとなく聞いてみるニャ」

「私がか? ……まあ、分かった。それとなくな」


サラの顔に影が差す。

「でも今日のオーク、やっぱり変だったニャ」

「ああ。目が虚ろで、棍棒を振るう動きも機械のようだった。まるで……何かに操られているように」

「明日、そのことも衛兵に伝えるニャ」

「うん、そうしよう」


サラが小さくつぶやく。

「で、次はアレの処理だニャ……」


二人はそっと立ち上がり、部屋を出ていった。

レイはすでに深い眠りの中にあった。


こうして山麓の村を襲ったオーク騒動は、死者ゼロで幕を閉じた。

村人たちは安堵の夜を迎え、キャラバンの護衛たちに深く感謝しながら、再び静かな眠りについたのだった。

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