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第77話(オークの襲撃後の村)

レイはアルの助けを借りて、オークを倒していった。

具体的には、オークの顔にモザイクをかけてもらい、虚ろな目を見ないようにしてもらった。

いくら恐怖を和らげてもらっても、あの目だけは直視したくなかった。


そのおかげもあり、柵の中にいた五体のオークを仕留めたところで戦闘は終了した。


すぐさまフィオナが駆け寄ってきた。


「レイ殿、大丈夫か? 顔色が優れないようだが?」


サラも剣を仕舞いながら心配そうに声をかける。

「大丈夫かニャ?」


──思いっきり心配かけさせたみたいだ。


「大丈夫です。ご心配をおかけしました」

レイはそう言って頭を下げた。


(アルもありがとう。モザイク……だっけ? 助かったよ)

(いいえ、何の手間でもありません)


(でも……自分の力で、ちゃんと倒したかったな…)


レイの状態は落ち着いた。だが、今は村の様子のほうが気になる。

案の定、柵は所々壊されており、レイが倒した五体の他にも、何体かが村内に侵入していたようだった。

幸いにも、オークの武器が斧ではなく棍棒だったため、致命傷を負った者はいないようだ。

それでも、腕や肩を押さえる村人の姿が見え、頭に怪我をしている者も何人かいた。


三人が村の中へ入っていくと、村人たちが次々と感謝の言葉をかけてきた。


「助かったぁ! あんたたちは命の恩人だ!」

「ほんとにありがとう!」


村の様子を見回していると、年配の男性がこちらへ向かってきた。どうやら村長のようだ。

後ろからも村人たちがぞろぞろとついてきている。


「このたびは、本当にありがとうございました!」

村長は深々と頭を下げ、感謝の意を示した。


「いや、そんな、大したことでは……」

そう言いかけたレイの言葉を、村長が遮る。


「いやいや、あんたたちがいなければ、もっと大変なことになってましたよ。なんとお礼を言っていいか……」


村人たちも次々と口を揃える。

「ありがとう!」

「本当に助かりました!」


お礼を言われ、レイの胸に小さな違和感が走った。

子供の頃の記憶が蘇る──あの時、大人たちは皆死んでしまった。爺ちゃんも、ばあちゃんも。

でも、今のこの村は、救うことができた。そう思うと、わずかに胸の奥が温かくなるのを感じた。


それでも、自分は大して役に立てたわけじゃない。

人々に囲まれながら、レイは少しずつ後ずさる。

笑顔を保とうとはしていたが、その表情はどこか引き気味だった。


そんな中、フィオナは冷静だった。


「皆、待ってくれないか。何人か怪我をしている。まずは手当てを優先しよう」


その言葉に村人たちも少し落ち着く。

サラもすぐに声を上げた。


「頭に怪我してる人が何人かいるニャ! まずは出血を止めるニャ!」


二人は手分けして村人の手当てに動き始めた。


レイも何かしたかったが、まだ周囲には目を輝かせた村人が取り囲んでいる。


(なんか動きにくいな、これ…)


そんな時、フィオナが助け舟を出してくれた。


「レイ殿、急ぎこの件を代表のリオ殿とスロット殿に伝えてくれ。あと、ポーションも必要だ!」


「了解です!」


レイは即座に村の外へと駆け出した。

……ここの人たちは、人懐っこいのか、あるいは珍しいものを見たくて集まってくるのか、すぐに周囲に群がる。


とにかく、抜け出せてよかった。

しかもバックパックを背負っていない分、脚が軽く、思った以上に速く進める。


張り出した山を越えると、ようやくキャラバン隊の姿が見えてきた。


レイは大きく手を振って駆け寄る。

キャラバンから出てきたのは、護衛リーダーのスロットだった。


「報告です! この先の山麓の村がオークに襲撃されました! オークは撃退しましたが、村人に怪我人が出ています。ポーションが必要です!」


スロットは驚いた表情を見せた。

「オークだと? ……今は村は落ち着いているのか?」


「はい。怪我人の手当て中ですが、フィオナさんがポーションを求めています!」

「どれだけ必要だ?」

「出血している人が五人です。打撲の人も数名います」

「よし、ポーション一ケースを先に持っていけ。我々もすぐに追う!」


そう言うとスロットは背後に呼びかけた。

「おーい、ポーション一ケース持ってきてくれー!」

ポーションを受け取ると、レイは再び全力で村へと戻る。


後ろで誰かが声を出して叫んでいる。


「うわ、何だあいつ!速えぇ!」

「すげぇ速さだな!」


驚いていたが、レイは気にしない。サラならこのくらい普通に走っている。


やや抑え気味の速度で村へ戻ると、レイはフィオナとサラにポーションを手渡した。

二人は慣れた手つきで怪我人たちに処置をしていく。


応急処置がひと段落した頃、キャラバン隊が到着した。

リオが駆け足で村長のもとへ向かっていった。


「村長! 精錬商会のリオです。護衛隊を率いて参りました。怪我人がいると聞きましたが、大丈夫ですか?」


村長も出迎えるように歩み寄る。

「リオさん、来てくださって助かりました。怪我人はおりますが、この方たちが応急処置をしてくれました。

 ポーションも届いて、なんとか落ち着いてます」


「それは良かった。ほかに被害は?」

「柵が壊されましたが、命に別状ある者はいません。皆さんのおかげです」


「村長、安心してください。村の安全が確保されるまで、我々がしばらくここに逗留します。何かあればすぐ知らせてください」


「本当に、ありがたいこってす」

リオの言葉に、村長は再び深々と頭を下げた。


「え、逗留するの?」と、思わずレイが口に出すと、近くにはサラとフィオナしかいなかった。


サラの耳がピクピクと動いた。

「少年、耳も良いニャ! フィオナ並ニャ!」


──レイは思わず心の中で突っ込む。『それ、あなたが言いますか?』


サラは胸を張り、ふんぞり返って誇らしげに続けた。

「もちろん、フィオナよりワタシの方が高性能なのニャ!」


レイは、そんなサラに気を遣ってもらっていることに、少しだけほっこりした。



レイは苦笑いしながら、フィオナに問いかける。

「さっきリオさんが、ここに逗留するって言ってたけど、本当なんですか?」


「状況によるな。不測の事態が起きた時に逗留するキャラバンもいれば、すぐに離れる者たちもいる。特に決まりはないが……領主との関係や、地域との信頼度が大きく関係する」

そう言って、フィオナは笑った。


「まぁ、今回はそれだけじゃないがな」


世知辛い世の中だと、レイは思った。

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