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第74話(足跡が示すもの)

セリアとリリーは林を抜け、山道を登っていき、調査隊と別れた場所まで戻った。


「魔物の痕跡があった場所ってここよね」

とリリーが辺りを見回して言った。


「確かに、マリアさんが案内してくれたときに『ここです』って言ってたわ」


「痕跡って多分これよね」


リリーは、湧き出た水が土を湿らせている場所を指差した。

山の斜面から湧き出た水が、道をぬかるみに変えていて、魔物の足跡がいくつも見つかった。


「でも、これは新しい足跡じゃないわ。少なくともキャラバンが襲撃されるより前だと思う」


ぬかるみに残された魔物の足跡はぼやけており、風雨にさらされて足跡の輪郭が丸くなっている。

泥は乾いて固まったところもあり、足跡の底には落ち葉や小枝がたまっていた。


セリアがその横に足跡をつけると、その足跡は鮮明で、輪郭がしっかりと残っていた。

足跡の底にはまだ水が溜まり、光を反射して光っている。


「少なくとも、一〜二日でこんなにぼやけた跡にはならないと思う。それに向かっている方向は山頂方向よ。

だからこの魔物の足跡は、襲撃事件とは別の魔物の痕跡だと思う。または、魔物が別行動した…」

と言ってセリアは考え込んだ。


「さすが、元斥候ね。足跡でそこまで分かるんだ」と感心するリリー。


「ねぇリリ姉、魔物が操れるとして、魔物の群れを二つに分けて一方はキャラバン隊を襲わせるとしたら、

 この山に登って行った魔物には何をさせようとしてるのかな?」


「この山って昔、薬草を採りに行った山でしょう?登ったって薬草くらいしか生えてないわよ」


リリーは足元の岩を避けながら歩き、ちらと斜面を見上げる。

そういえば、と記憶を辿るように視線が泳いだ。


「あっ!洞窟にミスティマッシュルーム、山頂付近にはムーンリリー、ここって、幻覚剤とか催眠誘導剤に

 神経伝達を阻害するような毒草もあったはずよ!」


「リリ姉、どうしたの?いきなり大声出して」とセリアはびっくりした顔をしている。


「今追ってる魔物の動向とは直接関係することじゃ無いんだけど、この山って、精神支配系の薬を作るなら、

 かなり打ってつけの場所だと思うの」


「じゃあ、そういう魔物を使役するような輩には、この山は宝の山ってこと?」


「そうね。ちょっと気になるわ、上に行きましょう!」

と言ってリリーは歩き出した。


歩いていると、山腹の平坦地に調査隊の面々が集まっているのが見えた。何やら上で騒いでいるようだ。


リリーとセリアはその場所に到着し、目を見開いた。


「何これ!」


そこには、草原が無理やり耕されたような荒れた地面が広がっていた。

地面には草が引き抜かれた跡が点在し、根っこや茎が引き抜かれたことで凸凹とした小さな穴や

裂け目が残っていた。

抜ききれなかった草の一部や、切り取られた葉や茎の断片が地面に散乱し、土が乱れている。


二人が驚きで固まっていると、クレイ隊長が話しかけてきた。


「二人はこれを見てどう思う?」


リリーは切り取られた葉や茎のある場所に座り、手のひらにその葉を置いて形状や質感を確かめた。


「この細い葉と鋸歯の感じ、スティンガーネットね。神経毒素が含まれているから、取り扱いに注意が必要」


リリーはスティンガーネットの葉を慎重に集め、布に包んだ。

次に、細かい紫色の花が付いた茎を手に取った。


「この花、覚えてるわ。これはムーンリリー。眠りを誘うのに使われる花よ」


ムーンリリーの花は一箇所にまとまって生えていたようだ。根こそぎ掘り返されたような跡がついていた。


「ここにはあまり見かけない毒草や薬草が群生していたみたい。

 それを根こそぎ強引に引き抜いていった感じかしら」とリリーは、クレイ隊長に返した。


クレイ隊長も頷き、別の場所を指差した。


「こっちを見てくれ」


そこには何かを引きずっていった跡と魔物の足跡が残っていた。


クレイ隊長はリリーの意見を求めてきた。


リリーはセリアを手招きして斥候としてのセリアの意見を求めた。


「セリア、この足跡の混在具合、どう思う?」


「普通、魔物はこうした行動をとらないわ。

 それに、この引き抜かれた草も何か土起こしの鋤をデタラメに使った感じだしね」


セリアも薬草の断片を手に取り、観察し始めた。


「このスティンガーネットの葉、そしてあそこのムーンリリーの花…

 そこだけが、集中的に引き抜かれている……」


「リリ姉、これって意図的に収集されたんじゃないかしら。

 何かの目的があって、これらの毒草が必要だったとしか思えない」


「魔物を使って何かをさせるために毒草を集めていたのかも。何にしてもおぞましいわ」


リリーはセリアの意見を聞いてから、クレイ隊長に向き直り、言葉をまとめた。


「私たちの意見は、誰かが魔物を操っている可能性が高いわ。林に埋められた幻覚成分入りの残飯も見つけたし、魔物を使って毒草を採らせ、さらに魔物を使おうとしているのかもしれない。その目的はまだ分からないけど、何か企んでいるのは確かよ」


クレイ隊長は少し息をつき、額に手をやった。

「なるほど……もし君たちの推測が正しければ、この事態は我々の手に負えない規模かもしれないな」


クレイ隊長はリリーとセリアの推察を聞き、深く考え込むように頷いた。


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