第73話(見つけた証拠)
sideセリア&リリー
二人はギルドに到着し、受付の職員に最近の魔物被害について尋ねた。
職員は数冊の報告書を取り出し、説明を始める。
「ここ最近、魔物の異常行動についての報告が増えています。特に人型魔物が組織的に動くケースが目立ちますね」
セリアは首をかしげながら質問した。
「具体的にはどのような動きが報告されているのですか?」
職員は報告書をめくりながら答える。
「例えば、ゴブリンやコボルトが隊列を組んで襲ってくるとか、オークが集団で一糸乱れぬ動きを見せたというものです」
「それはかなり異常ですね。何か背後で指示を出している存在がいるのでしょうか?」
「そうかもしれません。または、強力なリーダーがいる可能性もあります。なので調査隊を組んで、魔物の捜索を行うことになっています」
セリアとリリーは調査隊に加わりたいと申し出た。
ギルド職員がスケジュールを確認して答えた。
「調査は昨日から始まっていますね。今日もこれから出発する予定です」
調査隊の集合場所へ向かうと、ギルドの職員らしき人物がいた。二人が声をかけると、その職員――ジャレンと名乗る青年は少し困った顔をした。
「調査隊は衛兵長のクレイさんが隊長ですので、まずは聞いてみます。襲撃を受けた方の同行だからと言って、必ずしも許可されるわけではありませんが…」
セリアは真剣な表情で答える。
「よろしくお願いします。今は手がかりが少なくて藁にもすがる思いなんです」
ジャレンの口添えもあり、二人は調査隊に同行できることになった。
ただし「口出しは極力控えるように」と念を押される。
やがて調査隊が揃い、現場へ向かう準備が整った。
先頭に立つのは衛兵隊の隊長クレイ。道案内は地元に詳しいガイドのマリアが務めていた。
「ここから少し歩くと、魔物の痕跡があった場所に着きます。皆さん、気を引き締めていきましょう!」
マリアの声に、一行は気を引き締めて山道を進んでいく。
林を抜ける道中、リリーは思い切ってジャレンに尋ねた。
「林の方から魔物が出てきたと聞いていますが、何か異変はありませんでしたか?」
ジャレンは少し考え、言葉を選ぶように答えた。
「昨日のうちに林の中は確認していますが、特に目立った異変は報告されていません。ただ、魔物たちが出現する前に、いつもとは違う静けさがあったと報告されています。林全体が息をひそめているみたいだったそうです」
リリーはジャレンの視線がクレイ隊長に向かうのを見て、口を開いた。
「クレイ隊長さん、魔物が現れる前、林が妙に静かだったそうです。確認させていただけませんか?」
クレイは少し考え、渋々答えた。
「林に戻るのですか?構いません。ただし、我々からは人を出せません。調査は自己責任で、十分に注意してください」
許可を得た二人は林の中へ戻った。
薄暗い林の中を慎重に進む。足元の落ち葉がカサカサと音を立て、鳥の声や風の音が遠くで響く。二人は警戒しつつも、一歩一歩確かめるように歩を進めた。
「ここは何もなさそうね」
セリアが疲れた様子でつぶやいた。
「もう少し奥まで行ってみましょう。何か手がかりがあるかもしれないわ」リリーは額の汗を拭いながら励ます。
二人はさらに奥へ。
木々の間を進み、リリーはしゃがんで地面を調べ、セリアは枝を払いながら前へ進む。
やがてリリーが立ち止まり、セリアに呼びかけた。
「セリア、こっちに来てみて。何か変だわ。獣道でも無いのに、この場所だけ下草が無くなってる」
セリアが近づくと、そこだけ草が消え、枯葉が積み重なっていた。足を踏み入れると妙に柔らかく沈み、掘り返したような感触がある。リリーが慎重に地面を掘ると、かじられた生の肉片、果物の皮、空になった酒樽が現れた。
「セリア、見て。ここに残飯が埋まってる」
「残飯…? こんな所に埋めるなんて…。もしかして、魔物の餌として使われていたのかもしれないわね」
リリーは枝で掘り出したものを突きながら説明した。
「そうね。生肉はゴブリンが好むし、この果物はコボルトが好き。オークが好む酒まである。これは魔物を集めた証拠になるんじゃない?」
「ここで餌を与えてから何をしたの?それとも違う場所に誘導した?」
「わざわざ残飯を埋めた理由を考える必要があるわ。用済みなら埋める必要はないはずよ」
「リリ姉、これが魔物の餌だったとして、埋めなくちゃならない理由ってなんだと思う?」
リリーは周囲を見回して答える。
「この餌には何か秘密があるのかも。香りや味で魔物を引き寄せる仕掛けとか」
「そうだとすれば、これを使って魔物を意図的に集めた人物がいるはず。誰かが背後で糸を引いているのかもしれない」
「とりあえず、この餌に何か仕込まれているか確認ね。持っている試薬で簡易的に調べられるわ」
リリーは鞄から小瓶と試験紙を取り出し、肉片に押し当てて数滴垂らす。試験紙の色がじわじわと変化していった。
「これは…」
リリーの表情が険しくなる。
「この色の変化は、幻覚成分がかなり含まれている可能性があるわ。他にも神経に作用する反応が混ざっているみたい。簡易検査だからこれが限界ね」
「でも神経を麻痺させて、幻覚成分が現実感を失わせるなら、魔物を操るために使えるかもしれないってこと?」
「幻覚成分が強く作用すれば自我を失うのよ。だから別の制御手段が無いと、軍隊みたいにキャラバンを襲わせることはできないはずよ」
「リリ姉、それじゃこれだけじゃ立証できないってこと?」
「いいえ、大アリよ。餌の中に幻覚成分が仕込まれているだけで、人の関与があった証拠だから。魔物を操った説がますます濃厚になったのよ!」
「そうよね。都合よく魔物の好物があって、その中に都合よく幻覚成分が入ってるなんて、誰かが意図してやったとしか思えない」
セリアは自分を納得させるようにうなずいた。
「それと、この現場の調査を続けましょう。もしかしたら他にも手がかりが見つかるかもしれない!」
リリーの言葉に、セリアも気合を入れ直した。
「そうね。それに山に入った調査隊にも伝える必要があるわ」
二人はさらに奥へと足を進めていった。
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