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第71話(見張りの駆け引き)

ドゥームウッドの森を抜けた先にあったのは、小さな集落だった。

レイにとって、森の向こう側に来るのは初めてで、こんな場所に村があることすら知らなかった。


――そういえば、自分が育った村はどこにあったのだろう。

確か森の先と聞いていたが、山が近くにあった気がする。


キャラバン隊が村に到着すると、村人たちはすぐに気づき、歓迎の雰囲気が広がった。

子どもたちは興味津々で駆け寄り、大人たちは笑顔で手を振って出迎える。

村の中心にある古びた井戸の周りでは、荷馬車から荷が降ろされ、どうやら取引の準備が

始まっているようだった。


「ようこそ」


と、村の長老が温かく声をかけた。


「今日は我々の村でゆっくり休んでいってください」


だが、荷馬車の数が多すぎて、村の柵内にすべてを収めることはできなかった。

レイたちは、村の外に残された馬車の警備を任されることになった。


「ここで見張りをしながら夜を過ごすことになりそうですね」

とレイが言うと、フィオナが頷いた。


荷馬車は全部で十六台。かなり大規模なキャラバンだという。

半分が柵の外に出され、護衛リーダーのスロットが空き地を指差した。


「残りの馬車は、あそこの空き地に車座にして停めよう」


ガラハドがその空き地で手際よく馬車を並べ始めた。


「ここに整列して、荷物の点検も忘れるな!」と声を張り上げている。

どうやら、外に残った組に回されたようだ。


護衛チームは村の内外で分けられ、村の外側の指揮は、顔見知りの冒険者に任された。

スロットは村に戻り、レイ達の代表はフィオナが務めることになった。

こうした場では、男か女かよりも冒険者ランクのほうが物を言う。


フィオナが話し合いから戻ってくると、どこか憮然とした様子だった。

どうやら、夜間見張りの順番が四番目になったらしい。全七班の中間――いちばん眠気がきつい時間帯だ。

セリンで抜けた冒険者の代役という建前だったが、押し付けられた感は否めない。


しかも、時間の管理方法は体感時間。話を持ちかけてきたCランク冒険者の態度も胡散臭い。


(アル、ダンジョンで紅蓮フレイムと話してたとき、パーティメンバーが夜間見張りの順番で揉めてた話を思い出したよ)

(あれよりひどいことにならなければいいですが…)


(アル、あの時の砂袋、作れないかな)

(いえ、もっといいものがありますよ)と、アルがやや得意げに返す。

(えっ、なにそれ。教えてよ)

(では、リオさんのところに行きましょう)


レイはアルの導きで、リオのもとへ向かった。


***


「夜間の見張りで揉めるのは避けたいと思って、時間を計れる道具を探してたんです。

それでリオさんにお願いして、一番長く持つドリームリーフのお香を六本、手に入れました」


とレイは報告した。


「何故、リオ殿がそれを持っていると分かったのだ?」


「セリンを出る前、馬が騒いだのって、あのお香の入った箱を人夫さんが落としたせいだったそうなんです」


「なるほど」


「精錬商会は、時計を使ってお香が燃え尽きる時間を測っているらしいです。

 一番長く保つお香は、教会の鐘一つ分と同じくらい持つらしくて、

 燃え尽きるのがそれより早かったら、代金は返すっていう売り文句なんです」


「それなら夜の見張り時間をきっちり管理できそうだな」


「いい考えニャ。体感時間だけに頼らなくて済むニャ」


「そのお香、高かったのではないか?」


「いえ。馬を宥めたお礼だから、お代は要らないって」


「ふむ、あの男が言いそうなことだな」


レイは笑みを浮かべた。


「これで、見張りの時間でもめずに済みますよね」


だが、フィオナの目がきらりと光った。


「いや、これでアイツらに一泡吹かせよう」


「一方的に見張り順を押しつけてきたあのパーティ、体感時間がどれだけ正確か確かめてやろう。

 最初に見張りに立つと言っていたしな」


「それは楽しみニャ。ズレてたら大恥ニャ」


レイは少し心配になった。


「でも、どうやって確かめるんですか?」


「簡単だ。あいつらが見張りを開始するタイミングでお香に火をつける。

 燃え尽きる頃に交代していなかったら、それを突きつけてやればいい」


「なるほど、それは確かに一泡吹かせられそうですね」


夜が更け、例のCランクパーティが最初の見張りに立つ。フィオナはその瞬間を見逃さず、お香に火を入れた。


「これで、あいつらの“体感時間”がどれほど正確か見ものだな」


(ガラハドさんまで呼び出して火をつけるところを確認してもらうなんて、どれだけ用意周到なんですか?

 フィオナさん…なんか黒い?)とレイは心の中でつぶやいた。


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