第6話(レアメタルの摂取方法)
アルの維持と強化のため、ナノボットの素材を取り込むことになったレイは、馬車で一日かかる鉱山の町まで行くことになった。
宿屋の爺さんに「一週間ほど鉱山の町に行くので宿を出る」と伝えたら、返ってきたのは短い一言だけだった。
「ん」
肯定なのか否定なのか、あるいはただの返事なのか分からない。けれど長年の勘で、どうやら了承の意味らしいと理解する。何を話しかけても「ん」で済ませる人だ。相変わらず掴みどころがない。
変な爺さんだが、この宿の値段だけは揺るがない。
セリンで最安値、銅貨十枚で一泊できるのだ。
レイがここを常宿にしている理由も、結局はそこに尽きる。
鉱山の町へ向かおうと南門へ向かったところ、門番に声をかけられた。
「南門より西門から行った方が近いぞ」
南門から出ると畑を大きく回り込まなければならず、鉱山行きの馬車も西門から出ているのだという。さらに、町までの道順も丁寧に教えてもらえた。
実はレイにとって、他の町へ行くのはこれが初めてだった。だからこそ南門を選んだのは、少し恥ずかしい間違いだったが、門番の親切に救われた気がした。
門番の言葉に従い、レイは南門から引き返して西門へと向かった。そこから町の外へ出て、道なりに北へ進む。やがて大街道を突っ切り、さらに北へ進めば鉱山が見えてくるという。
その鉱山の西側に、坑夫と鍛冶屋が集まって生まれた町がある。シルバーホルムだ。
セリンに出回る鉄工製品のほとんどが、この町で作られているらしい。
本来なら馬車で一日かかる道のりなのだが、レイは半日もかからず到着してしまった。
確かに街道を蛇行せず、ところどころ真っ直ぐに道を抜けたのもある。だがそれだけでは説明がつかない速さだ。
「アル、強化って本当にすごいな! 馬車で一日かかるって言われてたのに、疲れもせずに走り切っちゃったぞ!」
レイは驚きを隠せなかった。
「荷物を積んだ馬車ハ、人が走るのと同じくらいの速度デス。それに、体内の老廃物を処理シ、酸素を効率ヨク供給スルことで、体力の回復を促進シタので、休憩の必要がナカッタだけデス。筋力を強化シタわけではアリマセン」
アルは冷静に説明した。
「ん〜、なんだか分からんがすごい!」
レイは感心して言った。
「そこは後々説明シマス。さぁ、金属を採取シに行きマショウ」
アルは意気揚々と続けた。
意気揚々と金属を採取しに来たレイたちだったが、坑道に入る前に鉱山関係者のおじさんに止められてしまった。
「おい、兄ちゃん。冒険者か? 坑道内は関係者以外立ち入り禁止だぞ」
おじさんは厳しい表情で言った。
「え?そうなんですか。困ったな…」
「アル、どうしよう、立ち入り禁止だってさ」
レイはボソッと話した。
「レイ、坑内で出た岩石を捨ててイル場所を聞いてくだサイ」
「ん?それで良いの? 分かった」
レイは再び鉱山関係者のおじさんに話しかけた。
「あの〜。坑道に入るのじゃなくて、坑内で出た岩石とかを捨てた場所を探してるんですが、そこも入っちゃダメですか?」
と少し緊張しながら尋ねた。
「なんだ、兄ちゃん、変なものを探してるんだな。それなら問題ねぇかな」
おじさんは少し笑いながら答えた。
「良いんですか?」
「ああ、あの小屋の奥のとこに、山になって積んであるだろ」
と言いながら、おじさんは指を指して教えてくれた。
「あ、ありがとうございます」
と言ってレイは深々とお辞儀をした。
「まぁ、それくらいなら良いけどよ。おっと、山の上には登るなよ。崩れるかもしれねぇからな。怪我しても知らねぇぞ」
おじさんは念を押すように言った。
「はい、気をつけます!」
そうして、廃石が積んであるズリ山で金属の採取をすることになった。
「なぁ、アル。ここって鉱山から出たゴミみたいな石なんだろう?」
レイは不安げに尋ねた。
「そうデす。でも鉱石から全てノ金属を取り出すのは難シイので、この中ニも金属は含マレてイマス」
「で、オレはこの石を食べるわけか…」
「ソウナリマス」
「アル、本当に大丈夫なんだよな?こんなの食べたらお腹壊しそうなんだけど…」
「心配症ですネ、ちゃんと保護出来るように準備していマす。用法容量を守って正しく食べて頂ければ問題ありマセン」
アルは軽い調子で答えた。
「いや、その薬を飲むような言い方、余計に怖くなるんだけど?」
「安心してください。人生に冒険は必要デス。それにレイは冒険者でしょう?」
「そういう問題か?」
「そういう問題デす。ソレに、一つ忠告があります。ワタシの声はレイにしか聞こえませんが、レイの声は周りに聞こえています。一人でボソボソ喋っている変な人に見られマすよ」
と、アルは注意を促した。
「むうぅ…」
かなり流暢に喋るようになってきたアルに痛い人認定されたレイは、仕方なく黙ってズリ山の中を進んでいった。しばらく歩いていると、アルから声がかかった。
「レイ、このあたりノ鉱石、気になります。口に含んでミテくだサイ。もしかしたら、レアメタルが含まれているカモしれません」
アルは興味深そうに言った。
「そうなの?見た目じゃ石にしか見えないけどな」
レイは首をかしげた。
「あくまで推測デス。実際ニ分析シテみナイト、分かりマセン。でも、何かが含まれてイそうでス」
アルが少し慎重なトーンで答えた。
しばらく歩いていると、アルが再び声をかけた。
「あ、レイ、それです。今、見ていた鈍く光ってイる石を口に含んでミテください」
「えっ、これ?」
「金属部分を分離しサンプルを入手しなければ判別出来ませんノデ、ちょっと噛んでみてください」
ガリッ!
「うわー、硬い!」
レイは苦痛の表情を浮かべた。
「金属なので硬いでしょうネ。そのまま、少しお待ちください」
アルは冷静に指示した。
レイは「まだ〜?」と思いながら、アルの合図が来るのをしばらく待っていた。
「レイ、分離は成功しました。口の中の残りは捨ててください。うがいもしてください」とアルは淡々と言った。
レイは水筒を取り出し、ザラザラした砂を水と一緒に吐き出した。
「ペッ、ペッ。うぅ、酷い目に遭った…」
レイは涙目になった。
「お疲れさまでス、レイ。この調子で行きましょう!」
アルの声が軽やかに響く。
「えっ、終わりじゃないの?」
「まだ、必要量の1%も採取出来てイマせん。もう少し頑張りましょう。」とアルは楽しげに言う。
「これで1%以下なの?」
「はい、ドンドン行きましょウ」とアルの声は弾んでいた。
「なんだか集まってないのに、嬉しそうに聞こえるんだけど?」
とレイは訝しげに聞いた。
「気のせいです。さぁ進みましょう。ソレにその半目は誰に向けてますか?そこを見ても私はイマせんよ」
「そりゃ、こんな目にもなるさ…」
そうしてレイは、この美味しくない石の摂取を日没まで続けることになった。
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