第64話(一列に並ぶ魔物)
キャラバン隊の護衛依頼を確認したところ、明後日に出発する便のものがあった。
その依頼を受けることにし、今はギルドで受注票を作ってもらっている。
これを依頼主であるキャラバン隊に持参すれば、正式な護衛として認めてもらえるらしい。
「そんなことしなくても、行けば分かるんじゃ?」
とレイが受付の人に尋ねると、
「キャラバン隊に直接売り込みに来る冒険者もいるからよ」
「それに、書面でやり取りしないと報酬で揉めることが多いの」
盗賊に遭遇したら「別料金だ」と言い張る者もいれば、
「魔物を倒したから荷車に載せろ」と迫る者もいるらしい。
そんな事情を聞いて、レイは首をかしげた。
「盗賊は別料金って言われたら、そりゃ怒るな……」
ついでに、前から気になっていたことも聞いてみた。
「セリアさんを最近見ないんだけど、どうしたんですか?」
「私用で、ファルコナーにいる友人のところに急用ができたらしくて、しばらく戻れないそうよ」
なるほど、それなら二、三日どころか、半月単位で不在もあり得る。
急用……何の用だろう?
とはいえ、行き先がファルコナーなら、もしかしたらバッタリ会えるかもしれない。
レイは安心したように微笑んだ。
レイは、この時になってようやく、受付をしてくれた人の名前がリサだと知った。
これまでずっと、「受付のお姉さん」と呼んでいたのだ。
フィオナたちがセリンに来た時にも対応してくれた、受付の人らしい。
リサは、すごく年上にも見えるし、同じくらいに感じる時もある。
だが年齢は、聞かないでおいた。
世の中には、触れてはいけないことがある。
シスター・ラウラから、耳にタコができるほど教えられている。物理的に。
※※※
sideセリア
レイが替えの服と下着を買っている頃――
キャラバン隊の護衛をしながらファルコナーを目指していたセリアは、太陽が頂点に差しかかる頃、
目的地まであと鐘一つ分という地点で、突如として魔物と遭遇した。
それまでキャラバン隊は順調に進んでいた。
だが、北の山麓の林から鳥が一斉に飛び立ったことで、セリアの警戒心に火が灯る。
「……何かが近づいてくる」
気配を探ると、林の中からゴブリン、コボルト、そしてオークが姿を現した。
「何かに追われて出てきた……? いや、違う……」
魔物たちは急ぐ様子もなく、横一列に並び、キャラバン隊に向かって歩いてくる。
まるで、統率された軍のようだった。
「なんなの? こんな組み合わせで魔物が襲ってくるなんて、聞いたことがない!」
セリアは眉をひそめ、キャラバン隊の隊長・ベイリーに視線を送る。
彼もまた、同様に驚いていたが、すぐに声を張り上げた。
「皆、魔物の襲撃だ! 準備しろ!」
荷馬車の御者台にいた冒険者が立ち上がり、前方を指差しながら数を報告する。
「ゴブリン十二、コボルト十、オークは六……いや、七だ!」
セリアは短剣を抜き、目の前の異様な魔物の列を睨みつけた。
「これが偶然のはずない……まるで、誰かが指示を出してるみたい」
不安が胸に広がる。けれど、立ち止まっている暇などない。
魔物たちはそのまま、種類に関係なく一斉に突撃を開始した。
その動きは、まるで兵士たちのそれだった。
セリアは背後を気にしたが、そこには誰もいない。ただ、魔物の群れが不気味に迫ってくるだけだった。
「馬車を囲んで防御を固めろ!」
ベイリーの叫びに、護衛の冒険者たちがそれぞれの持ち場につく。
そして、戦いが始まった。
だが――魔物たちは、ばらばらに襲ってこなかった。
全てが同じタイミングで動き、同じような戦術で攻めてくる。
セリアは額の汗を拭い、コボルトを切り伏せながら思った。
(こんな動きをする魔物……初めてだ)
他の護衛たちも驚きつつ応戦している。
次々に倒れる魔物たち。しかし、その士気が下がる気配はなかった。
「あと少しだ! 皆、持ちこたえろ!」
ベイリーの声が飛ぶが、状況は楽観できるものではなかった。
倒れた仲間がいても逃げる気配がなく、むしろ命令されたように突き進んでくる。
まるで、自分の死さえ厭わない”死兵”のようだった。
先頭の車両にいた冒険者がゴブリンを倒し、ベイリーの元へ駆け寄る。
「リーダー、これはただの魔物の襲撃じゃないぞ。誰かが操ってる可能性が高い」
「……ああ、わかってる。だが、今は確認してる暇はない。まずは生き残れ」
セリアも再び前線に戻り、オークとの激戦を繰り広げる。
護衛の冒険者たちも次々と魔物を倒していった。
そして――最後のオークが倒れると同時に、戦場に静寂が訪れた。
皆が一斉にその場に崩れ落ちる。
「ふぅ、なんだったんだ、あれ……!」
「ああ、普通じゃない!」
「軍隊みたいだったぞ……!」
息を荒げる中、ベイリーが声を上げる。
「ファルコナーまであと少しだ! この魔物の処理が終わったら休んでいい! それまで頑張ってくれ!」
「うへぇ……」
「じゃあ、やるか……」
「ゴブリンとコボルトは、魔石抜いたら焼却な……」
「誰か、オークの血抜きお願い……」
そうして、キャラバン隊はようやくファルコナーの門前へと辿り着いた。
セリアは深く息をつき、ひとまずの安堵を覚える。
だが、同時に胸の奥では、この異常な魔物の動き――その背後に何かあるのではないかという不安が、
静かに火を灯していた。
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