第61話 第二章プロローグ(マッドサイエンティスト)
第二章「ドクタークラウス編」です。
三年前、私、ドクター・ヴィクター・クラウスは、闇の商人たちと手を組み、奴隷貿易に関わる計画を密かに進めていた。
「この毒があれば、誰も私の計画に気づかない……」
そう呟きながら、試験管の中で薄い緑色の液体を傾ける。
ナイトシェードとヘビ毒をベースにしたその毒は、消化器と神経にじわじわ効くよう設計されていた。体内に入れば、咳が出て吐き、腹を下す。だがそれだけでは終わらない。
「水に混ぜれば、誰も病気としか思わない……その後の『治療薬』で、借金を重ねさせて奴隷として囲い込める」
冷たい笑みが私の口元に浮かぶ。金だけではなく、権力と影響力まで一気に手に入る。
研究は屋敷の地下で昼夜を問わず行い、私は毒の効き目をさらに巧妙に改良していく。科学への執着が、そのまま形になった研究だった。
ある日、私は自分の毒の効果を試すため、とある都市の貧民街をターゲットにした。
「さあ、どうなるか見せてもらおうか」
井戸に毒を混ぜ、数日後に人々が体調を崩すのを観察する。
咳、嘔吐、腹痛――中には命を脅かされる者も出る。私はその一部始終をメモに取った。
そして毒が回り切ったところで計算通りに現れる。
「この病気に効く治療薬を提供する」
その声と共に症状を抑えることで、計画の成功を確認した。
「これで、奴らは私の掌の上だ……」
自信を深め、私はさらに野心を燃やす。毒を広く流通させ、奴隷商人たちと協力して人々を操るつもりだった。しかし、予想外の障害が現れる。
それがレイジングハートという冒険者パーティだった。
彼らは異変を察知し、毒入り水の解析、解毒法の発見、人々への普及までを迅速に行った。
私の計画は一瞬で崩壊し、奴隷商人たちから切り捨てられ、闇市場からも追放された。研究所には追っ手が差し向けられ、私は命からがら逃げるしかなかった。
金も地位も名声も失った私に残ったのは、ただひとつ――レイジングハートへの深い恨みだった。
三年後、私は再起をかけ、かつての因縁の港町・ファルコナーに姿を現した。交易が盛んで薬草や薬品の取引も活発なこの町は、新薬開発に最適だった。
港に並ぶ薬品、山で採れる豊富な薬草――どれも、私の野望を支える材料だった。
だが、それだけではない。
「あの女だ……」
かつて私の毒薬計画に気づき、妨害したレイジングハートの薬師。
今や評判のいい薬草店を営み、町の人々から厚く信頼されている。
私は唇を噛み、指先で書類を指す。
「あの女を潰す。そうせねば、私の復讐は終わらない……」
まず仕掛けたのは、レイジングハートへの嫌疑工作だった。捏造した取引記録を作らせ、被害者の家族に吹き込む。
「奴隷商人とあいつらはグルだった。取引証明もある。あの冒険者どもは、最後に奴隷商人共も役人に売った。ただの偽善者だったんだ」
噂は町に広がり、リリーの店にも影が差す。
「あの薬師って、奴隷商の仲間だったらしいよ?」
客が疑念を抱き、足が遠のく。店の経営は徐々に傾きはじめた。
さらに私は他の薬草店にも嫌がらせを仕掛けた。店主が見ていない隙を狙い、商品に劣悪な成分を混ぜ、客が体調を崩すように仕向ける。町の薬業界はじわじわと混乱に巻き込まれた。
「順調だ……リリーの店も時間の問題だ」
私は微笑み、指を組んで考える。
「やがて、この町は私のものになる。そして……リリーには思い知らせてやる」
その瞬間、私の瞳は鋭く光った。
「さぁ、哀れな被害者を焚き付け、あの忌まわしい薬師を地獄の底に叩き込むのだ…そして今度こそこの都市を我が物にしてくれる。…長年温めた新薬でな」
復讐と支配。二つの野望を胸に秘め、私、ドクター・ヴィクター・クラウスは夜の港を見下ろしながら、笑みを浮かべた。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
硬い感じで始まりましたが、これから柔らかくなります。多分。
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