閑話 過去の奴隷売買事件
セリアが前に居たパーティの話です。
ちょっと長かったので短く改稿しました。
リリーは三年前の記憶を思い出していた。
奴隷商人たちは「ドクター」と呼ばれる科学者が作った「緩慢の毒」を使い、人々をじわじわと追い詰めていた。
この毒は消化器に作用し、咳や嘔吐、腹痛を引き起こす。しかも症状は数日から数週間続き、治ったと思っても再発のリスクが高い。
「一時的には和らげられるけど、完全には治らない…」
リリーは当時、患者を診ながら悔しそうにそう呟いていた。
人々は症状を抑える薬に群がったが、すぐに品切れになった。代わりに高価な回復薬が売り出され、庶民には到底手が届かなかった。
さらに、高利貸しが優しい顔で現れた。
最初は「困ってるなら助けてやろう」と金を貸し、やがて返済が不可能だと分かると態度を一変させる。借金を返せない者は財産を奪われ、最後には家族ごと奴隷として売り飛ばされた。
そんな地獄のような状況を前に、レイジングハートのメンバー――レンド、ガイル、マリス、セリア、そしてリリーは調査を始めた。
「この辺が一番、患者が集中してる場所らしいぜ」
ガイルが地図を指差す。
「確かに。ここを除くと発症した家が飛び飛びなんだ」
リーダーのレンドも眉をひそめた。
「おかしいわよね。若い女性がいる家ばかりが症状が出るなんて」
マリスの呟きに、セリアも頷く。
「年寄りには全然症状が出てないのも妙だわ」
「裏があるな。調べてみるしかない」
レンドの声に、皆の決意が固まった。
リリーは薬師として毒の分析に取りかかった。町の薬師からミスティカ草や月光花を分けてもらい、井戸の水を採取して試薬を準備する。そして、被害者の血液をクロマトグラフィーで調べた。
「見て!緑色に光ってる!これは蛇毒よ!こんなのが自然に井戸に流れ込むなんてあり得ない!」
リリーが目を輝かせる。
「じゃあ、誰かが井戸に毒を仕込んだのか。無差別に…なんて卑劣な」
ガイルが拳を握りしめた。
「解毒薬を作らなきゃ。でも問題があるわ。効果があるのはチャミローミレ草。蛇毒を中和する効果があるけど、標高の高い雪解けの小川沿いにしか生えないの」
「遠い場所なのか?」とリーダーのレンドが問う。
「セリンの先にあるグリムホルト北山脈なら確実だけど、往復だけで一月はかかる。だから、今はファルコナー山脈に賭けるしかないわ」
「ならそこにある事を賭けて行くしかないな」
レンドの言葉に全員が頷いた。
険しい山道を登り、冷たい風に頬を打たれながら彼らは進む。川沿いを探し続けても草は見つからず、焦りが募る。
「こんなに見つからないものかよ」
ガイルが苛立つ。
「大丈夫。条件は合ってる。もう少し探してみましょう」
リリーが冷静に言う。
そして――
「待て、あれじゃないか!」
ガイルが叫んだ先、小川のほとりに鮮やかな緑の草が揺れていた。
「チャミローミレ草!やった!」
リリーが駆け寄る。
ついでにムーンリリーやドリームワードまで見つかり、思わぬ薬草の宝庫に歓喜するリリー。だが帰り道、マリスが案の定足を滑らせて捻挫する。
「いったぁ!ちょっと誰か助けて!」
「マリス…本当にしょうがないな」
レンドが苦笑する横で、セリアが呆れ顔になった。
「こんな時に怪我なんてしないでよね」
「なんで俺たちのパーティって毎回トラブル続きなんだ」
ガイルがぼやくと、マリスが即座に食ってかかる。
「それはあんたがいつもケチつけるからでしょ!」
町に戻ったリリーは薬草を用いて解毒薬を調合し、人々を救った。教会を借りて患者を収容し、次々と回復していく人々を見て、メンバーは肩を叩き合った。
「やったわね」
リリーはガッツポーズをとる。
「リリ姉、すごい。この解毒薬バッチリだよ」
セリアは称賛した。
「なぁ、俺たち、もしかして伝説のパーティになるんじゃね?」
ガイルが笑い、皆も笑顔になった。
――それが、このパーティの最も幸せな時だったのかもしれない。
奴隷商人を捕らえるため、レイジングハートは港の倉庫に突入する。
荒くれ者たちが待ち構え、激しい戦闘となった。レンドは三人に囲まれて腕を負傷しながらも勝利し、奴隷商人を捕らえることに成功した。
しかし、その傷は冒険者として致命的なもので、レンドは冒険者引退を余儀なくされた。やがてパーティも解散し、それぞれが新たな道を歩むことになってしまった。
そして、この事件の裏で動いていたのが――
「闇の商人」と「ドクター」と呼ばれる科学者だった。彼らはファルコナーを離れ、別の地へ逃げ延びていった。
読んでくださり、ありがとうございます。
誤字報告も大変感謝です!
ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。
悪い評価⭐︎であっても正直に感じた気持ちを残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、よろしくお願いいたします。