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第56話(本末顛倒のあれこれ)

「いや、野営したことは無いんです。今までそういう経験もなくて。だからそのまま帰ろうと思ってました」

レイは素直に打ち明けた。


「こんな夜にか?もう町の門も開いてないぞ」

キリアンが指摘する。


「いや、こんなにお腹が空くほど時間が経ってるなんて分からなかったんです」

レイは自分の腹を軽く押さえながら言った。戦闘や探索で緊張していたせいか、空腹感がじわじわと染み込んでくる。


「ソロだと戦闘中も時間管理しなくちゃならないし、難しいんじゃないか?」

キリアンが言うと、サリクが肩を揺らして笑った。

「そうだよね、戦ってる時は短く感じるし、休憩中は逆に長く感じる。アッハッハ」


「ダンジョン内だから陽の光もないしな」

ラーヴァが付け加えた。


「いや、そこまで狩りに夢中になれるなんて流石だよ。凄いねぇ」

ヴィーゴが感心し、レイの緊張が少しだけ解けたのを感じ取った。


レイが困った顔をしていると、キリアンが提案してくれた。


「ふむ、じゃあここで一晩明かしてから帰ったらどうだ?見張りも全員交代でやれば少しは休めるだろう?」

と言い、全員の顔を見回す。


「皆も良いか?」

問いかける声に、パーティメンバーは互いに視線を交わす。

リーダーのラーヴァが中心に立ってはいるものの、実質はキリアンが調整役として場をまとめているようだ。


「見張りが一人増えれば、その分休める時間も増えるしな」

他のメンバーも頷き、素直に賛成した。


「でもさ、このダンジョンの奥まで一人で来て、まだ野営したことがないっていうのも凄い話だよね。やっぱり立派なランク詐欺だよ。アッハッハ」

と笑うサリク。どうやら彼は笑い上戸らしい。


「その、野営をしなきゃならなくなったのでマントとバックパックを買おうとして金策のためにダンジョンに潜ったんです」

レイは少し照れくさそうに答えた。


「それで野営する羽目に遭うんだから、本末転倒だな。いや流石だ」と笑いだすヴィーゴ。いや、全員が笑っていた。


「でもついこの間までEランクだったんだから、護衛依頼も無いし、野営が初めてだっていうのもおかしくは無いのかな。アッハッハ」とサリクが付け加える。


「そうだな。でも、いくら金策だと言っても、糸巻きはポイズンスパイダーの蜘蛛の糸の採取にしか使わないよな。それってギルドの貸出品だろ?よくダンジョンの奥に行くのをセリアさんが許したと思うな」

キリアンが言いながら、荷車の上に載っている糸巻きを指差した。


「あれ、オレがギルドに行った時、セリアさんは居ませんでしたよ」

レイが答えると、キリアンは眉をひそめる。


「そう?朝にギルドに寄った時は普通に仕事をしてたから挨拶してきたんだけどな」


「そうなんですか?」

レイは思わず声を上げた。


「うん、朝はいたよ」

ラーヴァも頷いた。


「じゃあ、オレが行った時はたまたま席を外してたんですね。それでバランさんにお願いして借りてきたんです」レイは少しだけ気になったが、無理に自分を納得させた。


「なるほど、バラン氏か。じゃあ、あり得るな。流石流石」

ヴィーゴが笑いながら頷く。どうやら「流石」が口癖らしい。


「じゃあ見張りの順番だが、サリク、ラーヴァ、俺、ヴィーゴ、レイの順でいく」

キリアンが手際よく仕切ると、皆も異論なく頷いた。


レイは静かにその順番を頭に刻む。――何か意味があるのだろうか、とわずかに引っかかりを覚えながら。


(レイ、野営の見張りで一番きついのは睡眠が分断される真ん中の人でしょう。あなたを最後にしたのは、このメンバーの中で一番勝手が分からないからではないでしょうか)


「じゃあ、皆で砂を集めてくれ」

キリアンが声を掛け、パーティはそれぞれ動き始めた。


「えっ?砂?」

レイが思わず聞き返す。


「ああ、砂をこの袋に入れるんだ。角に小さな穴が開いてるだろ? 砂が全部落ち切った時に見張りを交代する仕組みさ」

そう説明しながら、キリアンは手にした砂袋を皆に見せてみせた。


(簡易的な砂時計のようですね)とアルが補足する。


「この砂袋が今のところ一番公平かな。他には松明が燃える時間とか、小さい魔石を入れてランタンが

 消える時間とか、ろうそくの燃える時間とか色々試したんだけど、上手くいかなかったんだよ。アッハッハ」


「松明の時は燃え尽きるまでだって話だったのに、その前に松明が消えちゃうし、ランタンもちょうど良い時間で切れる魔石を探して一日中角ウサギを狩る羽目になるし、ろうそくは野営の度に銅貨六枚徴収されるしさぁ」とヴィーゴが続けた。


「一番ひどいのはヴィーゴ、お前だろう?やっとの思いでこの方法に辿り着いたのに、お前がこっそり砂袋から砂を抜き取ろうとするから、皆んながそれを阻止しようと寝ずに砂袋を見張り出したんだからな」

キリアンが笑いながら言った。


「そうだよ、あの時は本当にひどかった!」

ラーヴァが思い出したように言った。


「ヴィーゴが砂袋をこっそり弄ろうとするたびに、皆んな飛び起きたからな」


「いやいや、中に石が紛れ込んで砂が落ちなくなったんだよ。それを取ろうとしただけなのに……皆んなして血相を変えて起きてくるし」

ヴィーゴは恥ずかしそうに頭をかく。


「おかげで翌日は全員、目の下にクマを作ってゾンビみたいだったな。しかも本物のゾンビと戦う前にな」

キリアンが肩をすくめた。


なんとも本末転倒である。


「野営って、大変なんですね……」

レイは遠い目をして呟いたのだった。


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