第53話(ヘルメット野朗、現る!)
(とりあえず荷車に載せてしまいましょう)
とアルが言う通り、ここで時間を食ってもしょうがないので、ボスを含め、ラージラットを荷車に載せていった。
アルが荷台を見て、少し考えるように言った。
(次はダークモスとアーマードセンチピードですが……この状態で、どうしますか)
たしかに、ラージラットのボスを含めて二十体も積んでいれば、荷車はもう満杯だった。
(それに時間も厳しいです)とアル。
「でも次の部屋はヘルメットだよね!」と叫び出すレイ。
ヘルメットの思い入れはチュニックよりも上らしい。
仕方がないので大きい順に荷車に載せていき、載せ切らなかった分は段積みせずに置いていくことにした。
アーマードセンチピード優先である。
まあ、すでに倒せると思っている時点で「取らぬ狸の…」なのだが。
回廊を進んで、ダークモスとアーマードセンチピードが出現する部屋にやってきた。
暗い部屋の中、薄明かりが岩壁に反射している。
部屋全体には人の背丈ほどもある大きな岩がいくつも転がっていて、その岩々の間を縫うようにして、
冷たい空気が漂っている。
部屋の奥には、人が匍匐前進をしてやっと入れそうな穴が見える。
おそらくアーマードセンチピードの巣穴だろう。
部屋の至るところで、ダークモスが岩の上に止まったり、飛び回ったりしている。
その翅からは怪しい色の鱗粉が散り、毒を持っていることを暗示していた。
光に反射して虹色に輝くその鱗粉は、一見美しく見えるが、近づけば致命的な危険をはらんでいそうだ。
レイは息を潜め、不気味な部屋を見渡した。
ダークモスの飛行とアーマードセンチピードの巣穴、その両方に注意を払いながら、慎重に足を進める。
部屋の中に響くのは、岩陰からかすかに聞こえる這い回る音と、羽ばたく翅のざわめきだけだった。
(レイ、ダークモスの鱗粉は毒性があります。吸い込みすぎると幻覚を引き起こすため、
布で口と鼻を覆ってください)
「幻覚ってどんなの?」
(世界が虹色に見えるそうです)
「何それ、ちょっと楽しそうなんだけど」
(気を抜くと命取りになりますよ)
「はいはい、分かってるって」
布を巻いたレイが一歩踏み出すと、飛び回るダークモスたちが一斉にこちらを向いた。
まずは距離を取り、レイにだけ見える淡く光る魔力球を構成。そして狙いを定めて放つ。
……だが、魔力球はひらりと舞うダークモスにまるで届かない。
「全然当たらない……こいつら速すぎる!」
二発目も空を切った。
(まだ練習中の魔力球で飛行系を狙うのは無理があります。スケルトン相手でやっと当たる段階でしょう)
「撃つ前に言ってよ、それ!」
魔力の構成をほどき、レイは剣を引き抜く。
再びダークモスたちが迫ってくる。
「うわっ、反応早っ!」
(鱗粉にも注意を。目にも影響があります)
「え、それも!?」
急降下してきた一匹を斬り落とすが、すぐ次が現れる。レイは踏み込まず、止まらず、動きながら戦った。
切り払い、かわし、また切り払い――どこかで見た「虫取り網バトル」のような戦いだ。
「うわ、目にきた! 光が変にチカチカする!」
(軽度の中毒症状です。視界が安定しない間は、動きをシンプルに)
「もうちょっと早く……いや、もういい!」
(全部教えると、レイの成長が止まってしまいますから)
「むぅ……」
その時、アルの緊迫した声が飛ぶ。
(背後、アーマードセンチピードです!)
金属を擦るような音とともに、二匹のアーマードセンチピードが姿を現す。レイは跳ねるようにして回避した。
「あぶねッ! やっぱ出てきたな、ヘルメット野郎!」
剣を構えて斬りかかるも、硬い甲殻に弾かれて火花が散る。
ガィン!
「くっ、硬〜い!くそっ、普通に斬っても効かないよ!」
(甲殻の隙間を狙ってください。あと、ダークモスに意識を持っていかれすぎないように)
「分かってるけど、それが難しいの!」
それでも、呼吸を整えて隙間を見極め、一撃を突き込む。手応えがあった。
「よし、センチピード一体倒した!」
だが、ダークモスはまだしつこく絡みついてくる。斬っても斬っても湧いてくる。
「これ、コンボ練習の相手でもしてる気分だよ!」
(体力管理を忘れずに。次で決められるなら、無理してでも)
「……決めるさ!」
レイは身をひねって回り込み、残るアーマードセンチピードの隙間へ剣を突き立てた。鋼のような手応えの先、刃が深く入り込む。
アーマードセンチピードが崩れ落ちた。
「はぁ……ふぅ……なんなの、この連携……」
(共生関係が成立しているのかもしれません。モスが撹乱し、センチピードが狩る)
「嫌すぎるタッグだな……」
(ええ。戦いづらさで言えば、確実に上位です)
「フィオナさんたちはどう突破したんだろ。あとで聞こう」
(それが良いでしょう)
「さて……次はポイズンスパイダーの部屋だったな」
(準備は?)
「万全。装備も、心構えも」
(ただし情熱の方向は金銭面ですが)
「……そこは触れないでくれって!」
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