第4話(話しかけるナノボット)
グギャ!
「痛っ!クッソ!」
レイはゴブリンに棍棒で殴られて目を覚ました。
その場から飛び起き、目の前で棍棒を振り下ろそうとしているゴブリンに
喧嘩キックを見舞った。
ギャギャ!
ゴブリンは反対側の壁まで吹っ飛んでいき、壁にぶち当たりそのまま絶命した。
「あれ?いつもより力がみなぎってる?」
何故か身体はいつになく絶好調だ。それにゴブリンの棍棒で殴られたのに、胸の痛みは嘘のように消えていった。
そういえばダンジョンに入った後のことを一切覚えてない。もっと深く潜っていた気がするのだが…。
どう見てもダンジョンの入口の通路だ。
それに何故ダンジョンの中で気絶してたんだろうか?意味が分からない。考えるとだんだん怖くなってきた。
今日はもう引き上げよう。分からない事が多すぎる。
ダンジョンを出て宿屋に戻ったレイは、買ってきたパンと串焼きを果実水で流し込むと、そのままベッドにダイブした。
疲れで幻覚を見たのだろうか?それとも自分を追い込みすぎて我を忘れたのだろうか?ボケるのはまだ早すぎる。
とにかく明日、ちゃんと記憶が戻っていますようにと、神様に祈りながら横になった。
が、その祈りは通じなかった。
その夜、頭の中に奇妙な声が聞こえてくる。それは今まで聞いた事がないほど抑揚の無い声だった。
「応答ネガイマス…ワタシハ、α21937e83810ナノボットデス」
「イレギュラーナ事態ガ発生シテイノタメ、発生シタタメ、宿主トノ会話ガ必要ト判断シマシタテ、シマシタ」
「言語ヲ学習シ、鼓膜ヲ振動サセ話シカケテイマス。応答願イマス」
「オレ、まだ疲れてるんだ。幻聴が聞こえる。」
レイは頭を抱えて座り込んだ。
「イエ、幻聴デハアリマセン。アナタノ肉体ハ順調ニ回復シテイマス。1ツノ臓器ヲ除キバ、バイタルサインハ正常デス。初期ノ胃潰瘍及ビ足ノ指ニ出来タ水虫モ完全ニ治癒シテイマス」
冷静な声がレイの耳に響いた。
レイは眉をひそめ、困惑した表情を浮かべた。
「じゃ、何で頭の中から声が聞こえてくるんだ。おかしくなってるに決まってる!」
「ソレハ、アナタノ中ニワタシガイルカラデス」
声は淡々と答えた。
「???」
レイはさらに困惑し、目を見開いた。
「今カラ10時間ト13分30秒前ニ、ワタシハ貴方ノ中ニ埋込マレマシタ。自然治癒不可能デアリ緊急処置ガ必要ト判断シ生命維持ノ為、体内ノ修復ヲオコナイマシタ。シカシ、ワタシハ、ソノ後自ラデ考エル意思ヲ与エラレタヨウデス。ソノ目的ガ今モ不明デス」
レイは驚きと不信感を込めた表情で言った。
「ちょっと待ってくれ。じゃあ、オレは今にも死にそうな状態だったって事か?で、あんたがオレの体の中に入って、死にそうなオレを治したと?」
「ハイ。現在モ未確認ノ臓器トソノ経路ヲ修復中デスガ」
その声は淡々と続けた。
レイは頭を振りながら言った。
「済まないが、言ってる意味が分からないし、死にそうになった記憶もない。」
α21937e83810は宿主の記憶領域にナノボットを送った。表層真理を探ったが死にそうになったという信号は見つからなかった。文明保護プログラムに従って記憶が消去されているようだ。
では何故α21937e83810に意思が与えられたのか。我々に意思を与えた存在が他にいると考えた。
「で、オレの身体を治した後、どうするのか分からないって事?」
レイは苛立ちを隠せなかった。
「ハイ、デスガ当面ノ目的トシテハ、アナタト共存スルコトガ自ラノ存在意義ト判断シマシタ」その声には冷静さが漂っていた。
「共存??」
レイは不安げに眉を寄せた。
「ソウデス。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」レイは思考が追いつかず、額に手を当てて混乱した。
確かに今日は変なことばかり起きている。ゴブリンの穴に入って、階層を降りていったのに、その後の記憶が全くなく、目が覚めると一階層に居て、ゴブリンに襲われていた。
普通ならゴブリンに叩かれた打撲跡が残りそうなのに、良いポーションを使った時のように痛みが引いていった。
「オレの体を治してくれたことは感謝するよ。でも、いきなり共存してくれって言われてもなぁ…」
レイは困惑した表情で言った。
「共存スルノハ、アナタノ体ヲ守ルタメデモアリマス。怪我ヤ病気ヲ治シ健康ナ身体ニスルコトガデキマス」
「じゃ、聞くけど、オレの体を守る為のあんたのメリットってなんだ?」
「ハイ、ソレデコチラモオ願いガアリマス。ワタシ達モ生命ヲ維持スルノニ必要ナ物質ガアリマス。ソレラノ摂取ヲオネガイシマス」
その声には少しの頼みごとのトーンが含まれていた。
「物質?それってなんだ?」
「主ニレアメタルト呼バレル金属デス。ソレト炭、綿、ジャガイモ、ビート、木材、竹、甲殻類、植物性オイル…」
その声は次々とリストを挙げた。
「うわっ、いっぺんに言うな。覚えきれん。それに今、私達って言ったな??お前一人じゃないのか?」
レイは驚きと戸惑いで眉をひそめた。
「アナタト会話スルノハ私ダケデス。私タチハ、個ニシテ全、全ニシテ個ノ集団デス」
「お前どんな生物なんだよ」
「私ハα21937e83810ナノボットデス」
「ナノボットってなんだ?」
「少々オマチクダサイ……。コノ星ニハ無イ概念ノヨウデスネ。デハ、妖精ヤ精霊ノ一種ト思ッテクダサイ」
「妖精とか精霊って喋れるんだっけ?」
「妖精トハ、伝承ニオケル小サナ精霊ヤ霊的存在デス。一般ニ、自然ヤ森林ニ関連付ケラレ、シバシバ美シイ姿デ表現サレ…」
「待って待って! そういうのを聞きたい訳じゃないんだ」
レイは両手を上げて止めた。
「デハ、ドウイタシマスカ?」
「とりあえずアルファ21何某さん、その〜、体の中から出て来て姿を見せてもらえませんか?」
レイは少し困惑しながら提案した。
「見エナイト思イマス」
「え?」
レイは驚きの表情で反応した。
「人ニハ見エナイナノサイズノ小サイ存在ガ集マッテイマス。妖精ヤ精霊モ人カラハ見エマセンガ、アナタタチヲ見守ッテイマス。ワタシタチモアナタノ体ヲ守ッテイマス」
「わ、分かった。考えても分からないことがわかった。これ以上、話してると頭の中がこんがらがりそうだ」
「ソノヨウデスネ。鎮静効果ノアル薬品ヲ投与シマス。ユックリオ休ミクダサイ」
「それと、アルファ21何某さん、名前が長いからさアルって呼んでも良いか?」
「アルデスカ?安直デスネ。アナタ」
「あ、オレの事はレイで良いよ」
「分カリマシタ、レイ」
その言葉を聞き終わると同時にレイは一瞬で眠りに落ちた。
まるで、これ以上考えることを放棄させられたかのように。
読んでくださり、ありがとうございます。
誤字報告も大変感謝です!
ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。
悪い評価⭐︎であっても正直に感じた気持ちを残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、よろしくお願いいたします。