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第46話(天職かもしれない)

レイはフィオナたちとシルバーホルムで再会する約束を交わし、一足先に町へと足を運んでいた。

フォルスナー行きに同行することについて、フィオナは快く承諾してくれたものの、どうやらそれでは礼として相応しくないと考えているようだった。

そこでレイは、言葉を尽くして説き伏せる。同行してくれることこそ、十分すぎるほどの礼になるのだと。

やがて彼の真剣な言葉に、フィオナもようやく頷いてみせた。


そして今回は硫黄採取のため鉱山内に入らなければならない。シルバーホルムに入ると、坑夫に変装するためのヘルメットやチュニックを買った。


* アーマードセンチピードヘルメット: 銀貨一枚

* ラッド革のチュニック: 銅貨三十五枚

* ツイル生地の作業用ズボン: 銀貨一枚

* アーマードセンチピード甲殻入り作業用ブーツ: 銀貨一枚

* オーク革のグローブ: 銅貨八枚

* ツールベルト: 銅貨六枚

* 防塵マスク: 銅貨二枚

* エプロン: 銅貨五枚

* 硫黄用の保管袋: 銅貨十枚


合計: 銀貨三枚と銅貨七十一枚 三万七千百ゴルドの出費になった。


(レイ、私は思うのですが、鉱山内に入るのにこれだけの出費をして大丈夫なのですか?

 前回のダンジョンの魔石代の半分のゴルドが一気に消えました)


(いや〜だってこれくらいしないと、モグリの坑夫だってバレちゃうかもしれないと思ってさ)


(なら、なぜ、安い革製のヘルメットにしなかったのですか?)


(だって店員さんが、アーマードセンチピードの甲殻は軽くて丈夫だって…)

レイは店員のせいにした。


(頭がちょっとくらい陥没する怪我なんて五つ数える間に治ります)


(いやいや、それって普通、死んじゃうだろ!)


と、いつもの会話をしながら鉱山の門を通り抜けたレイは、労働者たちの列に加わって無事に鉱山内に潜り込むことができた。既に気分はスパイである。子供の頃、シスターに読み聞かせてもらった物語に登場する影の密偵を思い出しながら、次のミッションは何にしようかとワクワクしていた。


ミッションは、最初から鉱山内での硫黄の発掘なのだが、変装した事で自分が本当に“影の密偵”になったような気分になっていた。


その鉱山だが、最初、レイには、どの通路がどこに通じているのかも、何をどうすればいいのかも、さっぱり分からなかった。鉱山内で石につまずいたり、ツルハシを蹴飛ばしたり、間違ったトンネルに迷い込んだりしていた。

その様子を見ていた坑夫たちは、笑いをこらえながらレイに声をかけた。


「おい、新人!そこで何やってるんだ?」

「あ、これは、えっと……ちょっとお花摘みに。あはは……」とレイは苦笑いを浮かべた。


それでも、ある出来事を境に、周囲の見る目が少し変わる。

作業中、頭上の岩がガラリと音を立て、今にも崩れ落ちそうになった。ちょうどその下を通ろうとしていた

若い坑夫を、レイがとっさに引き寄せて救った。


「うわっ……お、おい新人!ありがとな!」

「お前、目がいいな……よく見てたぜ、あの高さの石を!」


驚き混じりの声が坑道にこだまする。レイ自身は反射的に動いただけだったが、まぐれにしてもよく分かったもんだと、坑夫たちの間で噂が立ち始めていた。


そして、次第にレイは地下での生活に慣れていった。過酷な作業もアルの肉体強化のおかげで何のそのである。

レイは坑夫たちと協力し、昼は石炭や鉱石を運び、夜は炭坑夫の宿舎で食べて飲んでの大騒ぎを楽しんだ。

地下深くでの採掘作業にも積極的に参加し始めたが、当初の目的は完全に見失っていた。


ある日、坑夫たちが苦労して動かそうとしていた巨大な岩が、作業の進行を妨げていた。何人がかりでも動かないその岩を、レイが両手で抱え込み、力任せに持ち上げて見せた。


岩はまるで羽のように軽々と持ち上がり、レイはそれを坑道の端へと運び、難なく置いてしまった。


「新人、お前それ一人で持てる重さじゃねえぞ!」

「どうやったらあんなに重いもの持ち上げられるんだよ?」


さらに、別の日には、通常ならば四、五人で行うはずの鉱脈掘削作業を、レイがたった一人でやってのけたことがあった。坑夫たちが見守る中、レイはひとつの坑道を掘り進め、わずかの時間でかなりの距離を進んでしまった。


通常ならば一日以上かかる仕事を、半日もかからずに終わらせてしまったのだ。


「新人、お前それ一人分の仕事じゃねえぞ!」

「どうやってあんなに早く作業できるんだよ?」


恐ろしいスピードで掘り進められる坑道は、まるで地中を貫く竜の爪のようだった。

坑道内で使っている手押し車は、砂時計の砂のようにすぐにいっぱいになり、その手押し車を神速の獣のような速さで上まで運び、掘った石を検査場に届けると、また戻って採掘を始めた。


一人採掘マシーンの誕生である。


その日の終わりに、休憩中に一人のベテラン鉱夫がレイに近づいてきた。


「お前、新人か?」

ベテラン坑夫が尋ねると、レイは自然な笑顔で頷いた。


「そうです、最近入ったんです」

レイが答えると、そのベテラン鉱夫は驚きを隠せなかった。


「お前凄いな。普通、あんな勢いで掘ってたら、すぐにバテて使い物にならなくなるってのに、一体どんだけの体力してるんだ?」

ベテラン鉱夫は興味深そうに尋ねてきた。


レイは微笑みながら答えた。

「いやぁ、子供の頃から体を鍛えてて、こういう力仕事は得意なんです」


(あれ? でも、オレ、何をしにここに来たんだっけ…?)


ようやく自分の目的を思い出し、レイはハッと正気に戻った。

その瞬間、アルが頭の中で声をかけてくる。


(レイ。坑夫の仕事は楽しいですか?)


「しまった〜!」

思わず大声をあげてしまう。


その声に、驚いたベテラン鉱夫がこちらを見た。

「どうしたんだ新人、突然大声出してんだ?」


レイは手で髪をかき上げ、慌てて言い訳する。

「いや、その硫黄がですね…」


言葉に詰まり、混乱したまま坑道を見上げるレイ。

ベテラン鉱夫はすぐにピンと来たようだ。

「はぁ? 硫黄? ならここよりもっと下の階だぞ。さては、そっちの現場に行けって言われたの忘れてたんだな」


「はい、すっかり忘れてました〜」

レイは頭をかきながら、苦笑する。


こうしてレイは坑道の下層へと降り、本来の目的だった硫黄を手に入れるのであった。


読んでくださり、ありがとうございます。

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