第45話(気功術と旅の準備)
レイが突然、奇妙に叫んだ。
「なんでそれで成分が分かっちゃうんだよ!」
隣にいたセルデンは一瞬目を見開いたが、直感的に深入りせずやり過ごす。
最近、幼馴染のレイが妙な独り言を言い出し、ものすごい力を見せるようになったため、セルデンは「怪しい薬でも使っているのでは」と心配していた。
そんな心配をよそに、レイはアルと硫黄の話を始める。
「アル、硫黄ってどこで採れるんだ?」
(火山地帯か地下鉱脈でしょうか?)
「火山地帯は近くにあるか分からないけど、地下鉱脈ならシルバーホルムじゃないか?」
(そうですね。あそこでも硫黄は採れると分かっていますが、この畑で使う分だけでもキロ単位が必要です。前回のズリ山で採るのは難しいです)
レイは顎に手を当てて考え込む。
「ふむ、じゃあ今回は鉱山に入らなきゃダメってことか」
(そうなりますね)
「シルバーホルムに行くなら、フィオナさんの治療も今日で終わらせないとな」
(はい)
今日はフィオナの治療も最終日。
アルによれば、“修復”という処置で、最初の三日間に二割ずつ、続いて一割ずつ減らしながら三回行ったという。
じっくり時間をかけたおかげで、誰もフィオナの足が突然治ったとは思わないだろう。
「しばらくセリンの町を留守にすることも伝えた方がいいかな」
とレイは考えた。
夕方の鐘が鳴り、レイは赤レンガ亭へ向かう。
最近、すっかり慣れてしまった場所だ。個性的な人が多いけど、気にならなくなったのが少し怖い。
二階に上がり、フィオナが泊まっている部屋をノックする。
「フィオナさん、サラさん、こんばんは」
「おお、レイ殿、今日もよろしく頼む」
「おお、来たニャ、少年」
二人の出迎えに、レイはほっと安心した。
部屋の空気は和やかで、どこか心地よい。
「はい、それでですね」
レイは話を切り出した。
「今回でフィオナさんの怪我も完治すると思います。足を動かしてみて、違和感はありますか?」
フィオナはゆっくり足を動かし、何度も蹴りのポーズを見せる。
その軽やかな動きに、思わずレイも目を見張った。
「ふむ、以前と変わらず動けるな。これなら走っても問題なさそうだ」
レイはほっと息をついた。
「それでレイ殿、今日で完治するとのことだが、見ず知らずの私にここまでしてくれた。何かお礼をしたいのだが?」
フィオナが真剣な表情で言う。
「お礼って、この前レストランに連れて行ってくれたじゃないですか?」
レイは笑顔で返した。
「いや、それはジェネラルから救ってくれたお礼で、怪我の治療とは別だ。前にも言った通り、この傷を完全に治すには霊薬か高位神官の魔法が必要なのだぞ」
フィオナは不満げだが、レイはやんわりと断った。
「自分がしたくてやったことですから」
「それでもそれくらいのことをしてもらったと思っているんだがな」
フィオナは頬を膨らませる。
「そうニャ、少年。フィオナはこうなったら聞かないニャ。おとなしくお縄につくニャ」
横で笑うサラも加わった。
「なんでそこで捕まらなきゃいけないんですか」
「ただの冗談だニャ!」
軽いやり取りのあと、ようやくフィオナの治療を始めることができた。
今回は完全修復とナノボットの回収だ。
レイはゆっくり患部に手を当て、数を数え始める。
(カウントしてるけど、今回は触った瞬間に終わるんだよなぁ)
そして、微笑みながら言った。
「はい、これで治療はすべて完了です」
フィオナは自分の足を見つめる。
「ふむ、やはり気功術は素晴らしいな。でもこの術は秘術ではないのか? 何か魔力とも関係がありそうだが?」
レイは首をかしげる。
「ん? 何のことですか?」
フィオナはじっと見つめた。
「レイ殿は気功術を使うとき、少しだけ魔力を流していると思ったのだが……」
「えっ、そんなの分かるんですか?」
レイは驚きの目を見開いた。
「ああ、一応だが私も少し魔法が使えるんだ。短剣に纏わせる風魔法を少しだけな」
フィオナは控えめに微笑む。
(レイ、本当です。フィオナさんの中にも魔力があるのを確認しています)
突然、アルが頭の中で話しかけてきた。
(え、そうだったの?)
(はい。二日目にナノボットを入れ替えた際に情報を得ています)
(なんで黙ってたのさ)
(本人が口にしない限り、私から言うべきではないと思いました)
(……まあ、それもそうか)
思考のやり取りをしていたレイに、フィオナが声をかける。
「……い、おーい、レイ殿。大丈夫か?」
「ニャ、今ので放心したニャ?」
サラが茶々を入れる。
「あ、ごめんなさい。ちょっと頭がごちゃついてて」
レイは慌てて頭をかいた。
「それならいいが。自分で魔力を流していることに気づいてなかったのか?」
「いえ、魔力はあると分かってます。ただ、魔力を流しても魔法にはならなくて……」
レイは肩をすくめた。
「ああ、そうだったか。すまん」
フィオナは少し申し訳なさそうに笑う。
レイは、大人になってから魔力があると分かり、魔法に変えられないことや、気功術に魔力を使うと効率が良くなることから、気功術を使うときは魔力を流していると伝えた。内緒にしておいてほしいとも頼む。
さらに、シルバーホルムに行くため、しばらくこの町を離れることも告げた。
「ふむ、気功術のことは了承した。たとえこの身が焼かれても口外はしない。それに、シルバーホルムでまた会えるかもしれないのだな」
フィオナは満面の笑みを浮かべる。
レイの表情は「そんな大げさな!」から「ん?」へと変わった。
「以前も話したと思うが、この町の後にシルバーホルムとファルコナーに行く予定だ。このセリンもだいたい調べたから、いくつか依頼を片付けてからシルバーホルムに向かおうと思っている」
「そうだったんですね」
レイも納得した。
そこでレイは「あっ!」と思った。
自分もいつかは両親を探す旅に出たいと思っていた。
ならば、最初はファルコナーに行くのもいいかもしれない。
「フィオナさん、サラさん。もしファルコナーに行くなら、オレも一緒に連れて行ってもらえませんか?」
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