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第43話(ふんっふんっふんっふん)




今日はランベール司祭に呼び出されていた。

とはいえ、前回のように手紙での呼び出しではなく、シスターが口頭で伝えただけなので、今回は特にビビらなかった。


内容はトマトゥルの農地の件だろうと、レイはすぐに教会へ向かう。


応接室に通されると、ランベール司祭がすでに待っていた。

いつものように立ち上がり、右手を開き、左手を胸に当てて軽く会釈する。


四大神教会の正式な挨拶だ。レイも同じように礼を返した。


「どうぞ、ソファにお掛けください」

そう言われ、レイは司祭と向かい合う形でソファに腰を下ろす。


早速、本題に入るようだ。ランベール司祭は手元に地図と契約書を置き、指先で軽く触れながら話を始めた。


「まず、農地について説明しましょう。結果から言うと、土地は借りられましたが、開墾が済んでいない場所ですね」


「はぁ、そうなんですか」

レイはあまり気にしていない様子だ。もともと借りるつもりだった孤児院の農地も、開墾前の土地を使う予定だったので、やることに違いはない。


「次に場所ですが…」

ランベール司祭はセリン近辺の簡易地図を取り出し、指で示す。


「孤児院の畑を思い出すと分かりやすいと思います。ここが孤児院の畑で、そして――新しく下賜されるトマトゥル畑はここですね」


レイは指先を追いながら頷いた。

「なるほど、孤児院のすぐ隣くらいですね」


ランベール司祭は微笑み、「ほぼお隣さんのような距離ですね」と付け加えた。


「ああ、これならセルデンも孤児院の連中と顔を合わすことが出来て安心するんじゃないですかね」

レイはホッとした。


「それともう一つあるんだけど、一応、土地の借用の契約でね、その年に採れた作物の売価の三割を税金として収めることになりそうなんだ。それでね、その農地を管理する小作人と、二年間の契約を結びたいんだ。ただし、未成年者は除かれるけどね」


「では、この契約だと、まだセルデンは管理人になれないってことなんですか?」


「まあ、今はね。セルデン君ももうすぐ成人になるだろうから、最初の契約を二年にしておいたんですよ。次の更新でセルデン君に代われるようにね」


「それに実際農地の細かいことは実質的に動いてるセルデン君になると思うから、名目上だけ、レイ君の名前を貸して欲しいかな」


「え? オレが名義人…ですか…?」

レイの目がわずかに見開かれた。思わず返す言葉に間が空く。


土地を借りる話だとは聞いていた。

だが、自分の名で契約を結ぶとは思っていなかった。


(そんな重要なこと、オレが……?)


口をつぐんだまま、ランベール司祭の顔を見る。

まるで冗談ではないかとでも言いたげに。


しかし、返ってきたのはにこやかな笑顔だった。


ランベール司祭は落ち着いた声で言う。

「安心してくださいね。保証人は私ですよ」


「え?ランベール司祭様が保証人なんですか?』


「前にも言ったけど、この町で雇用を生みたいし町の景気を少しでもよくしたいからね」


「分かりました、それなら、しっかりやらないとですね!」


「農地もすでに命令が出てるから、分かるように看板が立てられていると思いますよ」


「はい、では打ち合わせが終わったら見てきます」


そして打ち合わせを終え、少し時間が経ったころ。

レイは東門を出て孤児院の農地のある所へ向かった。


畑が見えてきたあたりで、向こうからセルデンが駆けてくるのが見えた。

どうやら、歩いて来るレイの姿を遠くから確認していたらしい。


「おーい、レイ。トマトゥル畑の場所を見に来たんだろう?」

「そうだよ、どんな感じなのか見ておかなきゃと思ってさ」


二人は孤児院の隣にある農地へと足を踏み入れた。

畑にする予定の場所には石がゴロゴロと転がり、開墾の大変さが一目でわかる。


その少し向こうでは、シスター・イリスが腕を組み、頬をふくらませていた。

どうやらレイがまっすぐ農地に向かってきたのが気に入らないらしい。

けれど今は、彼女のご機嫌より畑の石の山の方が優先だ。


「これ、思ったより大変かも知れないね」

「うん、こんなに石が多いとは思わなかったな」


セルデンは呟きながら計算を始めた。

「えっと、苗の間隔を六十セルにすると……今の種の数なら、十メル四方で足りるかな」


レイはそれを聞いてうなずく。

「それならすぐ終わりそうだな」


心の中で(アル、肉体強化よろしく)と念じ、鍬を構え直す。


深呼吸をひとつ置き、気合いを込めて叫んだ。

「よし、やるか!」


――ザクッ!


鍬の刃が一気に土に潜り込む。

「ふんっ! ふんっ!」と振るうたび、土が裂け、大きな石がゴロッと飛び出した。


――ドスン!

――ゴトン!


石は空中で回転しながら地面に叩きつけられ、その衝撃で土埃が舞った。


「な、な、なんなんだこれ……」

セルデンは目を丸くし、口を半開きにしたまま硬直した。

脳内が真っ白になり、気づけば膝がカクカクと震えていた。


レイは笑顔で石を持ち上げ、畑の外へポイポイと投げ捨てていく。


「おお、こりゃ大物だ! それっ!」


――ドゴォッ!


投げられた石が地面に落ちるたび、大地が揺れた。


セルデンはもはや石像のように立ち尽くし、レイの動きをただ呆然と見つめていた。レイは鍬を振り下ろした手を止め、ちらりと横を見る。


(あれ、セルデンが動いてない?)

固まったままのセルデンに気づき、レイは首をかしげながら声をかけた。


「セルデン、どうしたんだ? 手伝ってくれるんじゃなかったのか?」

「い、い、いや、いや、もう充分だから!」


レイがきょとんと後ろを振り返る。

そこには、すでに百メル四方の土が掘り返され、畑のような光景が広がっていた。


「……あれ?」


レイは武者震いをしながらアルに問いかける。


「オレ、やっちゃった?」


(はい、それはもう盛大に)

この小説を見つけて、ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


感じた気持ちを⭐︎で残していただけると、ありがたいです。

⭐︎一つでも参考になりますので、よろしくお願いいたします。


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