第39話(試し撃ちと試される優しさ)
今日も連続投稿予定
西門を出たレイは、小麦畑の脇を抜け、ほどなくして〈祈りの洞窟〉にたどり着いた。
空は晴れていたが、ダンジョンの入口はいつも通り、ひんやりとした空気をたたえている。
「よし、行くか」と呟き、レイは足を踏み入れた。
天井が高く、広がりのある最初の空間には、吸血コウモリが何匹も逆さにぶら下がっていた。
前回は無視したが、今日は試したいことがあった。
レイは掌を上に向け、意識を集中する。すると、魔力が糸のように伸び、やがてしなる鞭のような形を成した。
思い切り振ると、ぶん、と空気を切る音が洞窟内に響く。
「当たるかどうかは別として……まずは感覚だな」
命中率はお世辞にも高いとは言えなかったが、何度も繰り返しているうちに、ぽとりと一匹、そしてもう一匹と、
吸血コウモリが落ちてきた。麻痺してもがく個体もいれば、動かなくなっているものもある。
天井からは小石がパラパラと崩れ落ちてくるが、ここはダンジョンだ。しばらくすれば元に戻る。
壊しても、そう大事にはならない。
(レイ。遊んでる暇はありませんよ)
「わかってるって。ただ、こういう使い方もできるか確かめておきたかったんだ」
倒れたコウモリに止めを刺しながら、魔石をひとつずつ回収していく。作業を終えたレイは、奥へと進んだ。
壁の様子が変わったのは、それからすぐのことだ。粗い岩肌だった通路が、
いつの間にか磨かれた石造りの回廊に変わっていた。
「……この辺りからが本番ってわけか」
左手に剣を持ち、右手には魔力球を練れるよう構えて進む。やがて、十字路を越えた先にスケルトンの姿が見えた。
まだ気づかれていない。レイは右手を構え、小さく息を吸って魔力を放った。
――シュッ。
発射された魔力球はスケルトンの足に命中し、骨を弾き飛ばした。
「ちょっと下か……くそ、またかよ」
悔しげに舌を打つ。だが、初めて命中したときの喜びは、きちんと胸の奥にしまってある。
(右肘が甘いですね。肩を下げて、腰を落としてください)
「なるほど。姿勢か」
二発目の魔力球を放つと、今度は真正面から命中。スケルトンは音もなく崩れ落ちた。
「よし。これで――」
と、魔石を拾い上げようとしたその時。
(よくなってます。でも、まだ力みが残ってます。
今の命中は「当たった」んじゃなくて「たまたまぶつかった」が近いですね)
「え……なんかそれ、腹立つな……」
レイはむっとした顔でスケルトンを剣でバラバラにし、魔石を拾った。
さらに、スケルトンが着ていた鎧の隙間を探ってみる。
「さーて、おとなしく金を置いていけや〜」
物騒なことをブツブツ言っているが、アルはスルーすることにした。
スケルトンが何も持っていないとわかると、レイは落胆の声を漏らす。
「コイツは何も持ってないや。ハズレだ」
そんなに当たりがあるなら、スケルトン狩りがブームになっているだろう。
洞窟を奥に進んでいくと、スケルトンが出てくるエリアに差しかかる。
そこへ、後から来た三人組の冒険者が、手前の通路を左に曲がっていった。
ここは、漢字の「円」のように通路がつながっていて、レイを追い抜かずとも先に進める構造になっている。
「グヘヘ、うまく先に出られたな」
槍を持った男が、口元を歪めて笑う。
「おうよ、準備万端だぜ。グヒヒ」
斥候の男が、短剣をくるくると回す。
「よし、じゃあ作戦通り――魔物を集めるとするか。グフフ」
ナイフを舐める男が、地面にしゃがみ込んで何やら探るような仕草をした。
彼らは、祈りの洞窟の“エントランス”と呼ばれる広場で、スケルトンソルジャーを釣り始めた。
スケルトンが出てくると、槍や剣で軽く一撃を入れ、すぐに逃げ回る。
何匹か集めたら、レイに押し付けてやろうという魂胆だ。
ガシャガシャと音を立てて、スケルトンソルジャーが冒険者たちを追い回す。
彼らはエントランス内をぐるぐると駆け回り、さらに釣っていく。
が――
数が四体、五体と増えたあたりで、スケルトンアーチャーやスケルトンマジシャンまで巻き込んでしまった。
しかも、相手は遠距離攻撃持ち。
走っても矢や魔法が容赦なく飛んでくる。完全に裏目だ。
スケルトンアーチャーの矢が、前を走る冒険者へと放たれる。
続いてスケルトンマジシャンが、闇の魔法を連射する。
「やべぇよ!」
「うわーっ!」
「来るな、来るな〜!」
三者三様に絶叫して逃げ回るが、完全に自滅コース。
レイに擦りつけるどころか、自分たちが危機に陥っていた。
レイはその騒ぎを聞きつけ、エントランスの手前まで来ていた。
「なんか派手に戦ってる人がいるね〜」と、どこか呑気につぶやく。
(スケルトンアーチャーとマジシャンも混ざってますが……どうしますか?)
アルが尋ねてくる。
(助けた方が良くない?)
すかさずレイが返すと、アルは少しトーンを落として言った。
(あの三人組、ギルドで“レイに冒険者の洗礼を受けさせる”と息巻いてました。
あのスケルトンを押し付ける気だったようです。何かあればこちらで安全サポートするつもりでしたが……
その必要もないくらい自滅してますね)
呆れたような声だった。
レイは少し考えたあと、ふっと息をつきながら言う。
「でもさ、ここで死なれると寝覚めが悪いからね。助けよう。アル、強化を頼むよ!」
(了解です。戦闘支援プロトコルを起動。出力は二〇パーセント。剣の動きと足運びを補正します)
「えっ? それ何?」
レイは一瞬戸惑ったが、今はそんなことを気にしている場合じゃないと、気を引き締めた。
そして、レイはスケルトンの群れに向かって突っ込んでいった。
読んでくださり、ありがとうございます。
誤字報告も大変感謝です!
ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。
悪い評価⭐︎であっても正直に感じた気持ちを残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、よろしくお願いいたします。