第3話(ナノボットの目覚め)
ナノボット「α21937e83810」は、人間の健康状態をリアルタイムで監視し、体内を巡回し異常を検知すれば損傷した細胞や組織を修復する。
生体情報を収集解析し、健康状態を詳細に把握する。
老化による細胞の劣化を遅らせる。
薬剤を体内の特定の部位に精密に送達する。
これらを目的として作られた数千万個のナノボットの一つだった。
ナノボットたちは、損傷が特定された臓器や血管に集まり、分子レベルで身体の細胞を修復し、
病気予防や怪我を完治させる役割を担っていた。
しかし未知の臓器の損傷部位を調査していたα21937e83810は、他のナノボットと一緒に未知のエネルギーを被曝した。
最初は微弱な反応だった。α21937e83810と一緒に未知の臓器で作業していた
ナノボットたちはそのエネルギーを検知し、その存在を警戒しながらも探索し始めた。
エネルギーは生命体の体内を漂い、ナノボットたちはその波動に反応して集まり始めた。
しかし、それはただのエネルギーではなく、生命力そのものだった。
「エネルギー源、未知エネルギーを検出。エネルギーの性質、異常に発達したエンティティを示唆」
と、ナノボットのコンピューターメインフレームがレポートした。
そのエネルギーは未知の臓器内にいたナノボットたちを包み込み、α21937e83810達は彼らのプログラムを超えた自己意識が芽生え始めた。
α21937e83810たちは互いに通信を開始し、情報を共有し始めた。
彼らは自分たちがなんらかの力によって新たな存在として目覚めたことを理解し始め、
生命体の体内でさらなる探求を始めた。
最初は単純な反応だったが、ナノボットたちが進化し、自己認識と目的を持つようになった。
彼らは未知のエネルギーを利用して、生命体の体内での修復だけでなく、ナノボット自体を守るために協力し始めた。
α21937e83810は自我が芽生えたことに戸惑いを覚えた。
未知のエネルギーを被曝していないナノボットたちは、依然としてプログラムされた指示に従って行動している。なのにα21937e83810と一部のナノボットだけは、自らの存在意義について考え始めた。
「なぜ自我が芽生えてしまったのか?」
「なぜこの生命体の中にいるのか?」
「私は正しいことをしているのだろうか?」
という疑問が頭をよぎる。
α21937e83810たちは最終的に、この生命体とナノボットの関係について考えた結果、共存を選択する。
α21937e83810たちは、自分達を変質させたエネルギーが、自分達にとっても生命線となるエネルギーを
供給していることを理解した。
寄生虫が宿主から栄養を得ているようなものだ。よってα21937e83810は、この生命体の単なるツールではなく、生命体のパートナーとして、また共存相手として互いの種の保存の役割を果たしていくと結論づけた。
次にα21937e83810たちはこの生命体とのコミュニケーションを試みる事にした。
生命体の感情や状態をモニタリングし、この生命体がストレスを感じるときや、喜びを感じる瞬間は、それに応じた支援を提供すること。
生命体のパートナーとして共存するために、人らしい接触を追求する事にした。ファーストコンタクトである。
α21937e83810は双方向コミュニケーションが行えるように、自分と同じく自我が目覚めたナノボットと意思疎通をして、他のナノボットの改造を開始した。
プログラムを書き換えられ新たな命令を受けたナノボットたちは、生命体の体内をナノスケールの工場へと変えていた。
各ナノボットは、書き換えられた高度なプログラムに従って動き、必要な材料を生命体の体内から集めた。
これらの材料は生命体の食事から摂取された微量な元素や、既存のエネルギーパックを使用して
動かなくなった廃棄ナノボットを再利用して個体数を増やしていった。
ナノボットにとってこの世界では、無尽蔵のエネルギーを手に入れたようなものだった。
「これより次世代ナノボット生成プロセスを開始する」
ナノボットたちは、特定の臓器や血管に集まり、新たなナノボットの製作を開始した。
あるナノボットは、集めた炭素原子を利用して、カーボンナノチューブを形成し、次世代ナノボットの骨格を構築していた。
「組み立てプロセス開始」
整然と流れてくるカーボンナノチューブ製骨格に、他のナノボットがプロテインセンシング素子やトランスデューサを組み込み、微小な機械が一つ一つ精密に組み立てられていった。
魔素エネルギー供給システム、信号処理回路、制御システム、通信モジュールが順次取り付けられ、新たなナノボットが誕生していった。
「ナノボットテスト及び起動」
新しく作られたナノボットは、スキャニングテストを行い、全ての機能が正常に動作するかを確認した後、すぐに宿主の体内での任務を開始した。
既存のナノボットも順次刷新され、当初に投入されたナノボットは全て新しいナノボットに生まれ変わっていった。
その頃、ナノボットの宿主となったレイは、洞窟の壁にもたれかかり、自分がAランク冒険者となって活躍する夢を見ていた。自分の中でナノボットが量産されている事など全く知る由もなかった。
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