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第38話(目を付けられるレイ)

昨日、考えごとの途中で、気がついたら寝ていた。


「おかしいな……。教会に行ったら何を聞かれても答えられるようにって考えてたのに、記憶が途中で途切れてる。なぁ、アル。何かした?」


(はい。あのままだと、また眠らずに考え続けると思ったので、鎮静効果のある薬で眠っていただきました)


「えっ、それって……オレ、アルに眠らされたの? 二回目だよねぇ」


レイは指を二本立てて見せた。


(はい、二回目です。司祭様のことを一晩中考え続けても埒が明かないと思いまして)

「いや、それは分かるけどさ……。夜中に何かあったら、危なくない?」


(確かに。将来的にはナノボットを脳内に送って、神経伝達物質の分泌を制御する方法が安全でしょう。自然な睡眠誘導もできますし、常時監視による“24時間安全サポート”が実現できます)


「その“24時間安全サポート”ってのが、逆に怖いんだけど……」


そんなやりとりをしつつ、朝食を食堂で済ませたレイは、昼前までに終わる依頼を探すため、ギルドへ向かった。


「やっぱり、Dランクになると依頼の幅が広がるな……」

依頼ボードを眺めながら、レイは感嘆の声を漏らす。


(ランクが上がったこともありますが、“祈りの洞窟”に行くようになったのも大きいかと)


「え? どういうこと?」


(吸血コウモリ、スケルトン、エメラルドの泉のフロッグ――どれもF〜Eランク指定です。実力的には、ランクアップ前から対応可能だったのでは?)


「いやいや、吸血コウモリは高いところにいて攻撃が届かないし、スケルトンは……見た目がちょっとキツくて……」


声がだんだん小さくなるレイ。


(でも、先日は「スケルトン楽勝だった」って言ってましたが?)

「うん、まぁね……アルのおかげかもしれないけど」

照れくさそうに言いながら、レイは依頼ボードに視線を戻した。


「地下一階の依頼だと、アーマードセンチピードの甲殻の入手、ポイズンスパイダーの糸の入手、あとはキラーアントの蟻酸だって。ケイブスネークの革もあるな」


レイは依頼を列挙していく。


(レイ、午前中で切り上げて教会まで行くのであれば、一番近いキラーアントの蟻酸でも厳しいです)

アルは時間がないことを主張する。


「じゃあ、依頼は諦めて魔石集めにするか」


と言って、レイはセリアのいる受付の方に向かって行った。

依頼を受注するわけではないから、本来行かなくても良いのだが。


「あら、レイ君、また一人でダンジョンに行くの?」


受付で他の仕事をこなしながらも、いつも気にかけてくれるセリア。

相変わらず優しい人だと思う。


レイは苦笑いを浮かべながら返す。

「ええ、スケルトンでも狩ってこようかと」


「そうなのね。でも、今のレイ君なら大丈夫かもね」

セリアは安心したように微笑み、軽く手を振って送り出してくれた。

レイも手を振り返し、ギルドを後にする。


だが――


ギルドの片隅で、誰かがじっとレイを睨んでいた。


「アイツ、なんか気に入らねぇ……!」

槍を持った男が、歯を食いしばりながら呟く。


「ああ、俺たちのセリアちゃんに気安く声かけやがって」

斥候タイプの男もムスッとした表情で続く。


「ちょっと痛い目に遭わねえと、俺たちのセリアちゃんだって事がわかんねぇんじゃねぇか?」

ナイフを舐める男が、ニヤリと笑った。


……いや、ナイフを舐める時点でセリアから危険だとアウト判定をもらうだろう。


「いやいや、直接手ぇ出すのはマズイだろ」

斥候男が理性を保とうとするが…


「だったら“直接じゃなきゃ”いいんだろ?」

槍男が不穏な提案を投げる。


「そういや、アイツ、スケルトン狩りに行くって言ってたな」

ナイフ男も目を細めて笑う。


「フッ……“冒険者の洗礼”ってやつを、受けてもらおうぜ」

「直接じゃねぇしな。オレたち、関係ねぇってことで」


「グヘヘ……」

「グフフ……」

「グヒヒ……」


低く濁った笑いが、ギルドの片隅にこだまする。

まるで悪戯好きの小鬼が群れているような、嫌な気配だ。


一方、レイは何も知らず、陽射しを浴びながらギルドを後にしていた。

目指すは〈祈りの洞窟〉西門を抜け、小麦畑の脇を通ってまっすぐ進んだ先にある。

もともとあの洞窟は、畑の開墾中に鍬を入れたところ、突然、大穴が開いてダンジョンが出てきたのだとか。


「見つけた人、腰抜かしただろうな……」

レイは呑気に想像しながら、セリンの町を歩いていた。


西門へ向かう途中、ふと昨日の会話を思い出す。

フィオナとサラが話していた「赤い屋根の大きなお屋敷」のことだ。


「せっかくだし、ちょっと寄り道してみようかな」


ダンジョンへ向かう足を一旦止め、レイは図書館を過ぎたあたりで左に視線を向けた。

そこには、生垣で囲まれた大きな敷地が、町並みの中にしっかりと根を下ろしていた。

土留めの石積みもきれいに整えられ、手入れの行き届いた緑が、どこまでも続いている。


「うへぇ……でっかい家だな。玄関はどこだ?」


思わず口をついて出たその言葉に、自分でも笑ってしまう。

しばらく進むと、生垣の切れ間から中が見える場所に出た。


あった。


石畳がまっすぐ延びる先に、白い壁と二枚扉の大きな玄関。赤い屋根が朝日に映えて、落ち着いた威厳を漂わせている。


レイはその光景をじっと見つめた。


「……うーん、ちょっと違うけど、大きさの感じは、なんとなく似てるかも」


記憶の奥底から引き上げた、ぼんやりとした景色と照らし合わせる。


「実際に見ると、“ここが違う”とか“これは似てる”って、少しずつわかってくるんだな」

(そうですね。“記憶の再構成”といって、人は思い出すたびに記憶を再編集するのだそうです。目にした風景や体験が、欠けた記憶を補う手がかりになるかもしれません)


アルの静かな声が脳内に響く。


「そっか……思い出そうとばかりしてたけど、もっと外を歩いたり、見たりする方がいいのかもな」


寄り道はここまでだ。レイはひとつ頷くと、再び歩き出した。


トマトゥルのこと。フィオナの治療。

自分にできることが一段落したら、レイも旅に出てみたい。


この世界を、自分の目で、足で――もっと知りたくなっていた。


読んでくださり、ありがとうございます。

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