第353話(球体の入口)
球体の島が見つかって三日目になるが、いまだに中に入る方法は見つかっていなかった。
レイは海中に潜り、入り口らしきものがあるかを調べた。
他のメンバーは、船上から観察したり、シルバーで外周を回って調べたりした。
やがて調べる場所がなくなり、仕方なく金槌で叩いたり、剣で切りつけたり、魔法をぶつけてみたりもしたが、壊して中に入れる気配はまったくなかった。
甲板から島を見つめ、レイたちは悩みを抱え込んでいた。
「古代遺跡であることは間違いないですよね。なら二枚目の盾がここに眠ってる可能性は高いと思う」
「でも、このままだと時間切れになりそうじゃない?停泊してるから魔石は使わないけど、保存食とかは減って来てるし」
レイは黙って球体の表面を見つめた。
海上に浮かぶ島は、まるで巨大なガラスの球のようで、表面には傷ひとつなかった。波が打ち寄せるたびに淡い光を放ち、内部には建物の影がちらちらと見え隠れしている。
「……外からの物理的な衝撃も全部弾かれてましたね。魔法も同じで、効いてる気がしませんし、壊して入るのも無理そうです」
「まるで盾みたいね。あの盾と同じ材質なのかな?」
セリアは表面を見つめて言った。
「そうだな。色の違いはあるが、ガラスっぽくて盾の材質によく似ている」
フィオナも同意見のようだ。
「そうですね」
アルは計算を行いながら解析結果をまとめた。
(レイ、材質は似ていますが、球体は盾より密度がかなり低いです。用途が異なるのでしょう)
(そうなの?)
ただしレイも、セリアやフィオナと同じく直感では盾と同じ材質に見えると感じていた。本当に、あの球体も盾と同じ材質に見えるな、と心の中で思う。
「少年、盾の説明って、なんだったかニャ?」
「えっと、五枚の盾は、聖水で起動して、稼働すると魔素を取り込み、魔法と物理攻撃を跳ね返す……。個別にも使えるし、五枚全部を鎧のように纏うこともできる、でしたね」
「じゃあ、聖水を掛けてみればいいニャ。稼働するかもしれないニャ」
「サラ、聖水なんて持ってないでしょ」
「いや、オレ……多分、聖水持ってます」
「えっ?どこで手にれたの」
「アルディアの大樹林の中にある聖なる泉ですね。あの時、枢機卿が『湧き出る聖水を持ち帰れ』って言ってたので、多分聖水だと思います。ちょっと待っててください」
レイは走って自分の部屋に戻ると、バックパックから聖水の入った瓶を取り出した。
「この瓶、不思議だなって思ってたけど、これがセイクリッドボトルなのかもしれないな」
(レイ、その推測は正しいと思います。瓶の材質は、神器の盾と同じ反応を示しています。おそらく同系統の古代素材で作られています)
「あの球体も同じ素材のように思えるんだけどな?」
透明で精緻なカットが施された瓶の中には、アルディアの聖なる泉で汲んだ水が入っていた。レイはそれを持って甲板まで戻った。
「これが聖水だと思います」
レイは瓶に入った液体をリリーに渡した。
「それを球体に掛ければ良いニャ」
「サラ、その根拠は?」
リリーは、瓶の中を覗き込みながら問い返した。
「勘だニャ!直感が働いたニャ!」
「中は聖水なのよ、そんな根拠で聖水を使えないでしょう?」
「いや、その聖水ですが、多分、セリンのレストランにも置いてあります」
「はぁ?」
リリーは目を丸くした。
「前にアルが成分分析したんですが、祈りの洞窟ダンジョンの礼拝堂の泉、迷いの森ダンジョンの温泉、アルディアの大樹林の中にある聖なる泉は、同じ鉱物が混じっている同様のものって言ってました」
「あの温泉も聖水なのか?」
フィオナは目を丸くして信じられない様子で確認した。
「じゃあ、私たちって聖水の温泉に入ってたの?」
セリアは状況を理解しかねていた。
「ちょっと何?その聖水の大安売りみたいなの…」
リリーは頭を抱えた。
レイは苦笑しながら瓶を受け取った。
「なので、今はこれしかありませんが、セリンに戻ればすぐに取って来れます」
「じゃあやってみるニャ」
サラが手を出し、慎重に瓶を受け取った。
「少しづつね」
リリーが念を押した。
サラはシルバーに乗り、球体の島に近づくと、聖水の瓶の蓋を開けて慎重に振りかけた。
すると球体の表面に黄色の光の線が走り出し、あちこちに細い光の筋が跳ねるように広がった。
「ニャ、ニャンだこれは!?」
サラは息を呑み、目を大きく見開いた。
光は渦巻き、交差し、絡み合いながら球体に複雑な模様を描き始める。
やがてそれらの光がまとまり、魔法陣の形を浮かび上がらせ、中心に向かって渦を巻くように集まった。
最後に魔法陣の中央が膨らみ、扉のように静かに開かれていった。
仲間たちも思わず息を呑み、その光の魔法陣に目を奪われていた。
サラは我に返り、驚きが落ち着くとドヤ顔で胸を張った。
「いっ、言った通りになったニャ!」
みんなは、あんなに大声で一番驚いていたのに、そこでドヤ顔なのか、とジトッとした目で見返した。
サラの驚きも落ち着き、レイは黙って球体の扉を見つめた。
「とりあえず、開きました。中に入ってみましょう」
レイがそう言うと、船の甲板から板を一本渡して扉へ道を作った。
一行は慎重に板を渡り、静かに球体の中へ足を踏み入れた。
内部は淡い緑の光に包まれ、外から見えた建物の影が徐々に姿を現した。
サラもシルバーと一緒に中に入った。
シルバーは軽くジャンプして板に乗り、それを渡り、そのまま球体の内部へ飛び込んだ。
中に入ると、そこは街のようだった。
外周部には小規模な住宅や倉庫のような建物が並び、中心に向かうにつれて建物は次第に大きくなっていった。
放射状の通りがいくつも中心部へ伸び、その中央には尖塔の建物が並ぶ城のような構造が広がっていた。
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