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第35話(誰もそんな言い方をしていない)

赤レンガ亭でトマトゥルの種と苗を手に入れた。

セルデンに持ち帰ってもらったので、保管は任せて大丈夫だろう。


次は、ブランドンとの話し合いの日時決め。

といっても、厨房とフロアを行ったり来たりの忙しい店だ。

合間を縫っての、立ち話になる。


レイはカウンターに腰を下ろし、夕食をいただいていた。

メニューを見て思う。料理の質に対して、値段は良心的。


……ただし、ネーミングは別問題だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

本日のメニュー


•地元の野菜をふんだんに使った煮込み料理 - 銅貨十二枚

•しっとりふわふわ柔らかロゥゥストオォーク - 銅貨五十枚

•かなりがっつりグェーリックマァッシュポティト - 銅貨十八枚

•気合いを入れて絞ったフルゥッツジュゥース - 銅貨七枚


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「読みながら噴き出しそうになるってば……」


レイは心の中でツッコみながら、昼に食べた煮込み料理の“味変”を試してもらうことにした。


アルの話によれば、スープにトマトを潰して入れ、さらに小麦粉と水を捏ねて団子状にして投入すると、

とろみのあるスープになるらしい。その名も、ペレグリーノ。


この名前を伝えたら、厨房で生地をこねていたブランドンが叫び出した。


「ペレグゥゥリィィィィィノォォッ!!」


即座に厨房から、「スパーン!」と良い音が響いた。

相変わらずメリサンドさんのツッコミは今日も冴えているとレイは思った。


これはブランドンさんより、メリサンドさんと直接話した方が絶対に早い!と判断したレイは、

メリサンドさんに予定を確認した。そして来週初め、十五日の昼前に時間をもらえることになった。


そのやり取りが終わってほっとしていると、ブランドンと助手をしていた息子がやって来た。

それぞれ一皿ずつ、定番の野菜煮込みと、トマトゥル+ペレグリーノ入りの特製版を手にしている。


「これで良いと思うんだが、ちょっと食べてみてくれ」


レイは木匙ですくって口に運んだ。


「……うまい!」


トマトゥルの酸味とペレグリーノのとろみが、スープ全体を格上げしている。


素材を足しただけで、まるで別物だ。


ブランドンも満足げにうなずく。


「これなら、ウチの看板メニューにできる!」


ジュニア君も嬉しそうにしていた。


が、その次の瞬間、ブランドンが、いきなり九十度の角度で頭を下げた。


「このレシピ、ぜひ私に譲って欲しい。お願いします!」


「ええっ!?」


レイはあっけにとられる。


(なあアル、これって元のスープにちょっと足しただけだよな?)


(料理人にとっては、その“ちょっと”が命なんです。

 有名なレシピなら、料理人同士で争いになることもあったとか)


(うーん、でもお金もらうのは気が引けるなぁ……)


(ならば、次の話し合いで“便宜”を図ってもらっては?)


(便宜かぁ……)


レイは考えた。そして閃いた。


「分かりました。そのレシピ、無料でお譲りします!」


ブランドンさんは顔を上げる。


「……本当ですか!?」


「ただし!」とレイは続けた。


「トマト農園に、資金援助をお願いできませんか?」


一瞬、間が空いたあと、ブランドンさんは破顔一笑した。


「お安い御用です! こんな美味しいスープなら、町の名物になりますよ!」


レイは笑顔で手を差し出す。ブランドンはそれをガシッと握り返した。


「ありがとうはこちらの方ですよ! こんな宝を手に入れられるとはね!」


「ところで、このスープの名前、何にしましょう?」


「えーと……ミネストローネスープ、だったと思います」


ブランドンさんは満面の笑みで、厨房に向かって叫んだ。


「よし、メニューに追加だぁ!その名も、ミィネスゥトロォォォネ スゥゥ〜プ!!」


「……だから誰もそんな言い方してないってば」


レイは思わずテーブルに突っ伏した。

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