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第348話(龍の背に)

神器を手にしたレイは、仲間たちと共に龍神の背に乗っていた。

まずは、ふもとの村に行き、チャソリ村からこの帰らずの島に来てしまった三人を元の島に返したいと龍神にお願いした。


(雑作もないことよ)

龍神の低い声が、思念を通じて流暢に届く。


その巨体がゆっくりと持ち上がると、谷全体を包む霧が一気に動いた。

風が渦を巻き、足元の岩肌が光に溶けていく。


(掴まれ、揺れるぞ)

龍神の声に従い、レイたちはしっかりと龍神の背に身を委ねた。


一瞬、視界が白に染まった。

熱と光が入り混じる中、身体がふわりと浮かび上がる。


――そして、霧が晴れる。


眼下に広がったのは、見覚えのある村の輪郭だった。

草屋根の家々、静まり返った通り、そして村の中央にそびえる長の家。


「ここは……あの村だ。あっという間に戻ってきちゃった」

レイが息をつくと、フィオナも周囲を見渡した。


龍神の背には、セリアとリリー、そしてサラの三人がしがみついている。レイとフィオナはその後ろにしっかりと腰を据えていた。

セリアとリリーは高所が苦手なようで、目をぎゅっと閉じている。サラは、尻尾の先が完治するまでは元気が出ないようで、うつ伏せのまま乗っていた。



ふもとの村に近づくと、村人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

慌てる村人たちの姿に、レイとフィオナは声を張り上げる。


「大丈夫です! 龍神様は誰にも攻撃しませんから!」


風に乗ってその声が村中に響く。

逃げ惑っていた人々の動きが徐々に止まり、視線がレイたちへ向いた。

おっかなびっくりで顔を覗かせ、龍神が降りてくる様子を見守る村人たち。


「レンカさん、ユウタロウさん、ユカリさん、いますか? 龍神様がチャソリ村まで送ってくれるそうです!」

レイが大声で叫ぶと、三人はようやく姿を現した。


レイは長に、龍神様と会話できたこと、そしてこうなった経緯を簡単に説明した。

三人をチャソリ村に送る旨を伝えると、長も村人も思わずレイと龍神を拝み始めた。

レイはものすごく既視感を覚えたが、とにかく三人を乗せ、龍神は大空へと飛び立った。


龍神にしがみつく人数は六人に増えたが、それも致し方ないことだった。


(レイ、他の島を探すのに良いかもしれません)

アルが声をかけると、龍神も反応した。


(なんだ?島を見つけたいのか?)

そう言うと、角度をつけ、龍神が右に旋回する。


「キャーーッ!」


六人の悲鳴が風にかき消され、髪や服が激しく揺れ動く。

眼下の村や木々は瞬く間に小さくなり、青い海と遠くの島々が姿を現す。

風が耳をつんざき、体を押しつける。全員が必死にしがみついた。


(しっかり掴まっておれ、落ちるぞ!)

龍神の声に、レイたちは背にしっかり腰を据えた。


アルは遠くに見える島の方向を確認したようだ。

(他の島の位置を確認しました。次はピポピ村とチャソリ村がある島を探しましょう)


旋回を続ける龍神の背で、レイは視線を凝らした。

しばらくは青い海しか見えず、孤立した島影はどこにも見当たらない。何度か方向を変え、遠くを探すうちに、ようやく周囲を崖で囲まれた小さな島を確認できた。

その沖合には、一隻の船が静かに停泊しているのも見えた。


「龍神様、あの島です!」

レイが声を張ると、龍神は低く唸り、翼を広げて島に向かって進路を取った。


巨大な翼が海風を切り、龍神の体がゆっくりと高度を下げる。

崖に囲まれた島に近づくと、海面に反射する光が眩しく跳ねた。


風に押され、髪や服が揺れる。

背に腰を据えたレイたちは、迫る岩肌と青い海を見つめた。


こうして、レイたちは無事にチャソリ村に戻ってきた。


龍神がチャソリ村に降り立つと、やはり村人たちは驚きの声を上げ逃げ惑った。

その中で、龍の背に立つレイたちの姿を目にした人々の中には、指を差しながら何かを叫ぶ者もいた。


どうやら、龍の背に乗る三人に見覚えがあるらしい。


五年前、この村から忽然と姿を消した三人を、今、こうして無事に目にするとは誰も思っていなかったのだ。

歓声が上がり、駆け寄ろうとする村人たちの足取りは早い。笑顔と涙が入り混じり、村全体に安堵の空気が広がった。


大人たちは目を見開き、指を指して声を漏らす。

「おいレンカさんがいるぞ!……ユウタロウさんとユカリさんも……」


駆け寄ろうとする者、手を口に当てて驚きを押し殺す者、涙を浮かべて静かに見守る者もいる。


村長は手を合わせ、声を震わせた。

「生きておったのか……本当に、生きて……!」


ユウキはユキノを抱き、二人のもとへ駆け寄った。

フウガンもレンカに近づき、目に熱いものを浮かべた。


レイが、村長やフウガン、ユウキ、ユキノの家族が無事に戻れた様子を見守っていると、ボルグルとイーサン、それにプリクエルやルーク船長も駆け寄ってきた。


プリクエルとルーク船長は、すでに島に上陸していたようだった。


「レイ、急に居なくなってみんな心配したんだぞい! 他の船員も交代で探してたんだわい」

ボルグルが声を上げる。


「レイ様、おかえりなさいませ。皆がずっと心配しておりましたので、戻られて本当に安心いたしました」

イーサンは丁寧に頭を下げた。


レイは深く息をつき、仲間たちを見渡す。

「みんなごめん。神社を調べてたら、地下に通じる階段を見つけて、中に入ったら閉じ込められちゃったんだ」


ルーク船長が首をかしげて問いかける。

「それがどうして、龍の背に乗って戻ってくることになったのですか?」


レイは肩をすくめ、言葉を濁した。

「いや、その後、色々ありまして…後で詳しく説明します」


プリクエルは目を見開き、しばらく龍神を見つめた。

「……すげぇな、龍なんて初めて見たぜ」


そんな話をしていると、アイスケ村長とレンカ、ユウタロウ、ユカリが、フウガンやユウキ、ユキノを伴ってレイのもとまでやってきた。


村長が一歩前に出て、声を震わせながら礼を述べる。

「皆さん、家族を無事に戻してくださり……本当にありがとうございます。レイ殿、フィオナ殿、セリア殿、リリー殿、サラ殿、皆さんのおかげです」


レイは仲間と目配せした後、軽く頷き、静かに答えた。

「いいえ、無事に戻れて何よりです。オレたちも神隠しに遭ってしまいましたから…」


素直に感謝され、レイは少し照れくさそうに微笑んだ。


レイは村の外れにいる龍神へ視線を向け、静かに魔力鞭を伸ばした。

思念が繋がると、低く穏やかな声が心に響く。


(色々教えていただき、ありがとうございました。それにここまで載せてもらって助かりました)

(礼は要らぬ。また話をしに来るがよい。千年ぶりに言葉を交わせたのだ)

(ええ、また来ます)

(待っておるぞ、ではな)

(あ、龍神様っ!)


レイはもう少し話を聞きたいと思っていたが、龍神は翼を広げると、あっという間に空へと消えていった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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