第340話(現れた階段)
祭壇の円柱部分がゆっくりとせり上がり、地下への入り口が姿を現した。階段がその下に伸び、静かに地下へと続いている。
外にいる仲間たちに、レイは声をかけた。
「入り口が開きました。戻って来ても大丈夫です」
フィオナ、セリア、リリー、サラは慎重に祭壇の場所に出来た階段の近くまで寄り、地下の入り口を覗き込む。泉の揺らめきと光の反射が、静かに不思議な雰囲気を作っていた。
「中に入ってみますか?」
「危なくない?」
リリーが不安そうに眉を寄せる。
「まぁ、脱出装置ですからね。ただし古代文明のものですが……」
レイが説明を加える。
「じゃあ、残る組と進む組に分かれますか?」
「それがいいかな」
「そうしましょう」
こうして、レイ、フィオナ、セリアの三人が地下への階段を降り、リリーとサラは上で待つことになった。
地下階段に足を踏み入れると、徐々に陽の光が届かなくなり、さすがに暗くなってきた。松明をつけないと無理そうだな…。そんなことを考えた瞬間、天井の板がポッと光った。
「魔法……?」
(いや、天井の板に、特殊な液体が封入されているようです)
アルの声に、レイは目を見張る。液体は微弱に自己発光し、内部で光の粒子が漂っている。見た目は柔らかく、ぼんやりと階段を照らしていた。
「何か、見た事があるような光だな」
フィオナがつぶやく。
「そうですね、ちょっと気になるけど、サラさんとリリーさんを待たせちゃってるし、とりあえず進みますか」
レイはそう言って階段を降りていく。その後ろにセリアとフィオナも続いた。
一方、階段の上で待っていたリリーとサラは、天井に急に灯りがついたことに気づいた。
「これは何ニャ?」
「何かの液体が天井に流れてるわね」
「面白い装置だニャ」
「本当にすごいわね。何が使われているのかしら?」
気になった二人は、少しだけ階段の中に入って天井を見上げた。
「天井が光ってるニャ」
「夜光虫の光に似てるわね」
「そうニャ、夜光虫と同じ色の光だニャ」
興味を持ちすぎたのがまずかったのか、二人が中に入った途端、階段の入り口がプシュッという音を立て、突然閉じてしまった。
「えっ?」
「何ニャ?」
二人は思わず扉を押してみたり、手で開けようと試みる。
しかし、びくともしない。扉は完全に閉ざされていた。
「失敗したわね……これじゃ別れた意味がないわ」
「仕方がないニャ。先に進むしかないニャ!」
二人は諦めたように顔を見合わせ、階段をゆっくり降りていった。
一方、レイたちは階段をさらに進み、地下の奥へと向かっていった。
階段はかなり深くまで伸びており、「どこまで下に降りるのだろう」と思っていたところで、ようやく終わりが見えた。
階段を降りきると、広い空間に出た。天井は高く、ところどころに小さな光源が配置されていて、淡く足元を照らしている。
床は石で平らに整えられ、規則正しく敷かれた溝が奥へと真っ直ぐ伸びていた。壁には古い装飾や符号が刻まれ、時折光を反射してきらりと光る。
天井からは管のようなものが伸びており、向こうの方で何かがゆっくりと動く気配がある。振動と微かな風が伝わってきた。
(レイ、ここは駅のようです)
「駅?乗合馬車の駅のこと?」
(馬が引くわけではありませんが、この施設では、物資や人を乗せた“馬のない馬車”が溝の上を滑るように移動するように設計されています。地下のトンネルを通って先へ運ぶための、出発点のような場所です)
天井の管の奥から、ゴウン……と低い響きが近づいてきた。
やがて、闇の向こうから光が差し込み、金属でできた大きな箱がいくつも連なって滑り込んでくる。
それはまるで、車輪も馬もいないのに動く巨大な馬車の群れのようだった。
「な、何あれ……!」
セリアが驚愕の声を上げ、短剣を抜いた。
「何だ?」
フィオナは弓を構える。
レイも剣に手をかけたその時、耳にアルの声が響いた。
(レイ、これは列車というものです。攻撃してくるわけではありません。安心してください)
「……二人とも、落ち着いて。敵じゃないみたいだ」
「ホント?」
セリアが短剣を構えたまま振り返る。
「アルが知っているようです。列車というらしく、これで人を運ぶ仕組みらしいです」
「そうなのだな……」
フィオナも少しだけ弓を下ろした。
その時、背後から足音が近づいてきた。フィオナが反射的に弓を構える。
「フィオナ!待つニャ!」
サラの声が階段の方から響いた。
続いてリリーも姿を見せ、ほっとしたように微笑んだ。
「良かった、やっと追いつけたわ」
「……二人ともか」
レイは剣から手を離し、肩の力を抜いた。
「どうして降りてきたんです?」
「だって、入口が勝手に閉まっちゃったんだもの」
リリーが苦笑しながら答える。
サラもうなずき、「仕方なくニャ」と付け加えた。
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