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第339話(地下への扉)

階段を降りきると、澄んだ水を湛えた泉が静かに広がっていた。

天井の丸い穴から朝の光が差し込み、水面に反射して揺らめき、地下を淡く照らしている。


泉の中央には石でできた通路が真っ直ぐに伸びていた。表面は人工的に削り整えられ、まるでランウェイのように一直線に続いている。

その先は円形の広場になっており、ここで魚を奉納していたのだとレイたちは理解した。


「多分、あそこの中央の円形の部分が祭壇なんだろうね」

「いかにも祭壇ですって感じで、一段高くなって円柱があるもんね」

「あそこに魚を置くんだニャ!」


セリアとリリーとサラは中央の祭壇と思われる方に向かった。


一方、レイとフィオナは祭壇まで伸びる石の通路の壁に、紋章が描かれたレリーフを見つけた。壁に立てかけられているだけで、簡単に外せそうだ。

レイがレリーフを手に取る。


「これ、裏面で光を反射させて、祭壇の中央を照らしたら、転移するのかな?」

「うむ、どうなんだろうな。置いてあった場所も確認したが、一ヶ所穴が空いている以外は何もなかったな」

「試しにやってみますね」


レイは天井の丸い穴から入る光をレリーフの裏面で反射させ、祭壇の中央を照らしてみた。


「全く反応しないな」

「別の方法があるのだろうか…」


レイは祭壇を見ながらフィオナと話していた。するとアルから呼びかけがあった。


(レイ、祭壇の一段盛り上がっている部分の側面に何か書いてあるようです。一周回って確認してみてもらえませんか?)


「了解、これ、古代語?確かに何か文字が書かれてるね」


(かなり欠けているので、歯抜けになっていますが読めると思います)

アルが欠けた部分を補いながら文章を組み立てていく。


「レイ、これは緊急時の脱出手順のようです」

「えっ、脱出?」

(はい。この島の近くの海底火山の爆発や、それに伴う地震等の災害が起きる場合、この場所から島の外に逃げられる装置があるようですね)


アルはさらに続けた。

「ちなみに、島の周りがすべて崖になっているのは、津波で島の中に波が押し寄せないように設計されているためのようです。……この島は自然のものではなく、人工的に加工された島のようですね」


「人工島……? じゃあ、何のために?」

レイが小声でつぶやく。


(おそらく海底火山の観測のために造られた島だと思われます。火山活動や地殻の動きを記録し、必要に応じて観測者自身が避難できるよう設計されているのでしょう。島そのものが、巨大な観測装置の一部だった可能性があります)


「じゃあこの島に住んでいた人って観測者だったの?」


(そうかもしれません。その観測者たちの末裔が、今もこの島で暮らしているのでしょう。ただし彼らはすでに、当時の役割や知識を失ってしまっています。文字すら忘れ去り、今ではただの島の民として暮らしているに過ぎないのかもしれません)


「さっき“脱出手順”って言ってたよね。具体的に、どうすれば脱出できるんだ?」


(火山の噴火や大地震など、島に壊滅的な被害が予測されたときに自動で起動するようです。残念ながら、手動では操作できない仕組みのようですね)


「じゃあ、お手上げか?」


(完全に、とは言い切れません。観測システムに異常を与えれば、強制的に稼働する可能性もあります)


「テラ・クエイクなら動くかもしれない……!」

しかし、下手をすれば脱出どころか閉じ込められる危険もある。


「どうしたんだ、レイ!」

「大声をあげて、何か見つかったの?」

「ニャ!」


レイの声を聞いて全員がレイの方を振り向いた。そこでレイはアルと話していた事を説明した。


「じゃあ神隠しって、その脱出装置が働いたってこと?」


「断定は出来ないけど、それが神隠しの原因かも知れません」


「ふむ、それでテラ・クエイクで強制的に地震のような現象を起こして脱出装置をか…」

フィオナは顎に手を当て、考え込む。


「やってみていいですか?」


レイは少し考え込み、口を開いた。

「さすがにいきなり島全体を揺らすのは危険ですが、この神社……いや、祭壇の部分を揺らすくらいからなら問題ないと思います」


フィオナが腕を組んで短く言った。

「レイ、神社を壊さない程度にな。生き埋めになったら洒落にならん」


レイは仲間たちの顔を見渡して、ゆっくりとうなずいた。

「わかりました。念のため、まずは最小限に抑えて試してみます。みんなは外に出ていたください」


セリアが不安げに眉を寄せる。

「本当に大丈夫なのよね?」


「無茶はしません」


フィオナ、セリア、リリー、サラはゆっくりと後ずさり、神社の入り口の外へと移動していった。


「外で待ってるからね」

リリーが階段の上から声をかける。


「外に出たニャ! やりすぎ注意だニャ!」

サラも続けて声を上げた。


レイは仲間たちが十分に距離を取ったことを確認し、祭壇の前に立ち直った。


レイは祭壇の前に立ち、深く息をついた。

まずは地面に魔力を浸透させる。土魔法を用いて、手のひらから流れる力を祭壇の石やその下の地盤に送り込んだ。


「土の精霊よ、我が声に応え、大地の力を目覚めさせよ!」


やがて、地面の中に魔力の残滓がうっすらと現れる。それを確認した瞬間、レイは魔法を打つ準備が整ったことを理解する。残滓の部分が反応すれば、そこが一気に揺れる――これがテラ・クエイクという魔法だ。


「大地を動かし、大河を裂き、すべてを揺るがす力を解き放て!」


レイは力を一点に集中させ、祭壇の部分に魔力を浸透させる。揺れを最小限に抑えつつ、確実に反応させる。準備は完了。あとは魔力の流れを解き放つだけだった。


「テラ・クエイクッ!」



ゴゴゴゴゴゴゴッ——


祭壇の周囲の泉の水面が小さく波打ち、光が揺らめいてきらきらと反射する。石の通路も微かに震え、まるで大地そのものが目覚めたかのようだ。


そして、祭壇の円柱部分がゆっくりとせり上がり、地下への入り口が姿を現した。


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