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第337話(フウガンの策)

「ふむ、なるほどな。奉魚を盗んだのはお前か、ユウキ……妹のためにやったとはいえ、拙いんじゃないか」


ユウキの目が見開かれる。

「フウガン、な、何を言って……!」


フウガンは肩をすくめ、挑発するように続けた。

「いや、俺は生け簀に魚を入れておいてやるから妹に食べさせてやれと言ったが、奉魚を持って行けとは言わなかったぞ!」


「なっ!」ユウキの胸に熱いものが込み上げる。


フウガンはにやりと笑い、さらに言葉を重ねる。

「それにしても、まさか本当に持って行くとは……お前、本当に妹を思いやる心はあるのだろうけど、行動があまりにも無鉄砲だな」


「お前の言い方に騙されただけだ!」

ユウキは反論するも、フウガンは顔を歪めて笑ったまま、冷ややかに畳みかける。


「ふん、嘘をついちゃいけないな。誰も止めなかったのはお前の責任だ。妹のため? 善意? だが事実はお前が奉魚を手にしているよな」


ユウキは喉の奥が詰まり、言葉が出なかった。


その時、村長の目が鋭く光った。

「フウガン、お前……。わしが何も分からぬと思ったか?」


「親父……何のことを言ってるんだ?」


「黙れ!」

村長の声が夜の空気を切り裂く。


「レイ殿と一緒にさっき古い倉庫の中を見て来た。奉魚として生け簀に入れておいた四匹が何者かに食い散らかされていたことも知っているぞ!まさかあれもユウキのせいだと言いたいのか?」


フウガンはとっさに笑みを作ろうとするが、震える肩がそれを否定していた。

「いや……それは、ちょ、ちょっと俺も知らないかな…」


「あの倉庫の鍵を扱えるのはこの家に出入りする者だけだ。お前にはそれができる。違うか?それに倉庫の中には四人が出入りした痕跡もあったそうだ。いつも一緒にいる四人組であろう、これでもシラを切るか?」


フウガンの顔から血の気が引いた。


「……っ」

唇が震え、言葉が出てこない。


村長は一歩前に踏み込み、怒気を含んだ声を響かせた。

「フウガン、お前はユウキを利用し、曖昧な言葉で奉魚を盗ませた! そのうえ残りの魚まで持ち去り、仲間と一緒に食い荒らした……違うとは言わせん!」


「ち、違っ……そんなつもりじゃ……!」

フウガンの言葉は弱々しく、もはや開き直る余地もなかった。


「黙れと言っておる!」村長の叱責が重く響く。

「己の欲のために村を裏切り、同じ村の仲間を陥れるなど……父としても村長としても、到底許せぬ!」


その場の空気が張りつめ、ユウキは拳を握りしめたまま、胸の奥に熱いものが込み上げる。自分が弱さゆえにフウガンの言葉に乗せられ、奉魚を盗んでしまったのは事実。けれど――。


村長の鋭い視線が、ユウキへと向けられる。

「ユウキ、お前の罪は消えぬ。しかし妹を思っての行いであったことは分かっている。罰は与えるが、情はかけよう」


ユウキはうつむきながら、震える声で答えた。

「……はい。償います」


村長は深く息をつき、静かに告げる。

「レイ殿が教えてくれた洞窟に、奉魚の代わりとなる魚がいるだろう。それを捕ってきて村に納めよ。それが償いだ」


ユウキは強くうなずいた。

「……分かりました。必ず」


ユキノは布団から起き上がり、ふらつく足取りで玄関まで出てきた。

玄関先に立つ兄と村長、そしてその横で立ち尽くすフウガンを見つめ、涙をこらえきれず声を震わせる。


「ごめんなさい……兄さんを、許してくださって……」


小さな身体を折り曲げるようにして頭を下げるユキノ。

その姿に、ユウキの胸は締め付けられるように痛んだ。


村長はその姿にしばし言葉を失ったが、やがて静かに息を吐き、表情を和らげた。

「ユキノ、お前は気に病むな。今は養生することが務めだ」


「……でも、兄さんが……」


「案ずるな」村長は首を振る。

「ユウキの行いは罰せられる。だが、お前を想ってのことでもあった。だからこそ、わしは情をかけようと決めた」


ユウキはその言葉に、堪えきれず声をあげた。

「……村長……ありがとうございます」


重苦しい緊張が少しだけ解け、ユキノの目から大粒の涙が零れ落ちた。

その傍らで、フウガンだけが顔を引きつらせ、焦燥を隠しきれずにいた。


フウガンは歯ぎしりをしながら視線を逸らし、肩を震わせた。

「クソっ……こんな茶番、やってられるか」


吐き捨てるように呟くと、背を向けて走り出した。取り巻きの三人も慌てて後を追う。


「フウガン!」

村長が叫んだが、彼らは振り返らなかった。


フウガンたちの姿が闇に消えたあと、場には重苦しい沈黙が残った。

誰もが動揺していたが、追いかける者は出なかった。


村長が深く息を吐き、レイ達に向け低い声で口を開く。

「……お見苦しいところを見せてしまいましたな」


その顔には、父としての悔恨と村長としての苦渋が滲んでいた。


「本来あの子は、あんな乱暴な性格ではなかった。素直で、母親想いの子だったのです。だが……十一歳の頃、母親が神社で行方知れずとなり、さらにユウキ達の両親まで同じ神隠しに巻き込まれてから……人が変わってしまったのです」


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