第336話(ユキノの告白)
「奉魚が持ち去られた場所は分かりましたが、誰が食べたのまでは分かりません。ただ、ここに頻繁に出入りしている人間は四人居たようです」
レイが倉庫の痕跡から村長に説明した。
「ふむ……四人ですか。なるほど、これで十分でしょうな。これをやれる人間は限られますからな」
村長は眉をひそめ、短くうなずいた。
「犯人はおおよそ検討がつきました。しかし、今日はもう遅い。家に戻りましょう」
村長とレイ、サラが村長宅に戻ると、リリーが出てきた。ユキノが村長に話があると呼んでいたらしい。三人は顔を見合わせて、静かにユキノの寝ている部屋へ向かった。
布団に横たわるユキノは、二人の姿を見つけるとゆっくり体を起こし、思わず両手を床につき、深々と頭を下げた。
「村長…奉魚を盗んだのは兄のユウキです……でも、それは私の病を治したくてやったことなんです。…奉魚を…奉魚を食べたのも私です。兄を許してやってください……!」
その言葉に、村長は眉をひそめつつも、じっとユキノを見つめる。
「そうか……それで、ユウキの小屋にも……」
「ごめんなさい……私のせいなんです……!」
ユキノの声は震え、病の体で必死に謝ろうとする。レイはそっと頷き、サラもリリーも小さく目を細める。
村長は深く息をつき、ユキノの頭を軽く撫でた。
「ユキノ、事情は分かった。もう少し休んでいなさい」
「…でも…」
「悪いようにはせん。今は安心して休め」
ユキノはようやく小さく頷き、布団に体を預けた。部屋には静寂が戻り、四人はそっと退出する。
廊下を進む途中で、リリーがレイを呼んだ。
「レイ君、それで……この犯人って、ユキノさんのお兄さんなの?」
レイは首を振る。
「いや、全ての奉魚がお兄さんの仕業ってわけじゃないみたいだ」
「じゃあ、誰が犯人なの?」
リリーの瞳が好奇心で輝く。
「村長さんは目星をつけてるみたいだよ」
レイが答えると、リリーは少し微笑んだ。
「そうなんだ……あんな良い子のお兄さんだから、救われてほしいな」
そのとき、サラがぴょんと飛び出して、得意げに言った。
「犯人は複数で、魚をいっぱい食べてた奴だニャ! 現場も押さえたニャ!」
リリーは笑って感心する。
「さすが、猫人の鼻は魚の匂いを逃さないわね」
サラは鼻をヒクヒクさせ、さらに続ける。
「ここの家からも魚の良い匂いがするニャ!」
その瞬間、奥の部屋からフィオナが顔を出した。
「レイ、サラ、戻ったのだな」
サラが鼻をひくひくさせて目を輝かせる。
「すごく良い匂いニャ」
フィオナは微笑みながら答えた。
「この島の調味料はどれも変わっていてな。少しずつ味見をしながら入れてみたのだが、風味がとても良くなったのだ」
セリアも手際よく作業を終え、にこりと笑った。
「ユキノさんのスープも、私たちの夕食も出来るわ。村長も呼んで、夕食にしましょう」
香ばしい匂いが部屋に満ち、夜の島にひとときの温もりが広がった。
夕食が終わる頃、村長宅の玄関から扉を叩く音が響く。
「村長、いますか? ユウキです。妹が居なくなったんです!」
村長が扉を開けると、血まみれのユウキが立っていた。
「どうしたんだ、その血は!」
ユウキは少し焦った表情で答える。
「あっ、すみません。これはボアを解体した時の血なので問題ないです。それより妹のユキノが居なくなったんです」
村長は落ち着いて言った。
「それなら、問題ない。ユキノはウチで預かっている」
「そうなんですか…」
ユウキは安心したように、ヘナヘナと玄関に座り込んだ。
「ユウキよ。なぜユキノがここに居るか分かるか?ユキノは自分のせいでお前が奉魚を盗んでユキノに食べさせたと言って謝りに来たんだ。自分の病をおしてな」
その言葉を聞き、ユウキの胸にぐっと熱いものが込み上げる。
妹は、自分のためにつらさをこらえ、謝りに来たのだ――。
「ユキノ…そんなこと、させてしまったのか…」
無意識に拳を握りしめ、ユウキは深く息をついた。
「俺がバカでした……奉魚の分は、きちんと償わせてください」
「そうだな。一言くらい相談して欲しかったぞ、ユウキ」
その時、玄関の影の方から微かに笑い声が聞こえた。
ユウキと村長は顔を見合わせ、そっと視線を向ける。
にやりと笑うフウガンが、影から姿を現した。
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