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第333話(洞窟の魚)

アイスケの詰問に、場の空気はさらに険しくなった。

チャソリ村の者たちも口々に叫ぶ。


「盗みを隠すための口実だろう!」


マツコは青ざめた顔でしばし黙っていたが、やがて決意したように口を開いた。


「……言い争っていても埒が明かん。洞窟に魚がいたと言うのなら、その洞窟を確かめに行けばよい。そうすれば白黒もはっきりする」


その言葉に村人たちはざわめき、互いに顔を見合わせる。

しばしの沈黙のあと、不満げながらもうなずく者が出始めた。


レイが一歩前に出た。

「洞窟の場所は私が知っています。案内します」


こうして、一行は魚を持ち、洞窟へと向かうことになった。


だんだん暗くなり、森の道には夜光虫が淡く光を放ち始めていた。

レイに導かれ、一行は森の道を抜け、レイが付けておいたハンカチの目印まで来ると、再び木々の影に入った。

しばらく歩くと、洞窟の前にたどり着く。


「これは……階段?」

アイスケが目を見張った。岩肌に沿って、きちんとした段が下へと伸びている。


「これは自然に出来たものなのか?」


「いえ、私が島に入るときに作ったものです」

レイが答えると、マツコは目を丸くした。


「なんと……これがレイ殿が言っていた魔法で作ったものなのですか」


アイスケは階段の端に手をかけ、慎重に指先で表面をなぞった。

岩や土の質感に見えるが、その整然とした形から、確かに人工の手が加えられていることが分かる。


「……まさか、魔法でここまで正確に作れるとはな」

小さく息をつき、驚きとともに呟く。

「岩や土のように見えて、でも整い方は人の手そのものだ……。これが、魔法の力か」


アイスケは思わず階段を見上げた。自然に存在する岩にはあり得ない精緻さ。魔法とは、こういうことも可能なのか、と感心と戸惑いが入り混じった表情を浮かべた。


やがて二人はゆっくりと降りていく。小舟が目の前に現れると、アイスケは再び息を呑んだ。

「なっ……この舟は?」


「それは、私たちが乗ってきたものです。海の先に大きな船が浮かんでいると思いますが、あの船でこの島の近くまで来ました」


「……そうか。お前たちの見慣れぬ服装は、外界のものだったのか」

アイスケの声には、驚きと畏れが入り混じっていた。


そのとき、洞窟の奥から声が響いた。

「おい、魚がいるぞ!」


振り返ると、潮が満ち始めた洞窟の中で、水面に魚の群れがきらめきながら泳いでいた。

魚たちは潮の動きに合わせて軽やかに跳ね、夕暮れの光を受けて銀から橙、そして青紫へと色を変えながら輝く。


アイスケとマツコは思わず顔を見合わせ、息を飲んだ。

「す、すごい……」

「こんな光景、見たことがない……」

マツコの声には、驚きと感動が混ざっていた。


村人たちも次第に洞窟を見渡す。

波が打ち寄せる水面、そのきらめきに反射する魚の群れ。それが外の海と繋がっていることを、誰もが悟った。


「え……あの魚、盗まれたんじゃないのか?」

「違うよ、この池で獲れたんだろう」

「こんなところに池があったなんて……」

「これ、腹いっぱい食えそうだな」


ざわめきは次第に沈静化し、疑いの色は薄れていった。


アイスケは深く頭を下げる。

「…し…失礼した。疑ってしまったことを、深く謝ります。この魚はここで獲れたもので間違いない。こんな場所が、この島の中にあったとは……」


だが、その安堵は長くは続かなかった。

アイスケの眉がふとひそめられる。

「しかし……そうなると、奉魚は誰が持ち去ったのでしょうな?」


その声に場が静まり返る。誰が、どうして、魚を……。広場に集まった村人たちも言葉を失い、互いに顔を見合わせた。


レイは額に手を当て、考え込む。

(持ち去った者が分かれば、村の混乱を解決できるかもしれない……でも手がかりはまだ何もない)


(アル、このままじゃ埒が開かないんだけど、魚を持ち去られた痕跡を追える?)

(レイ、その魚の匂いで追えるかもしれません。ただ、時間が経てば匂いが薄くなります。行動するなら早いほうが良いです)

(分かった)


レイは深く息をつき、アイスケに向き直った。落ち着いた声で告げる。

「もしかしたら、私の魔法で奉魚の場所を突き止めるお手伝いができるかもしれません」


アイスケの目がわずかに輝きを取り戻す。

「そんなことも出来るのですか?」

「はい。ただし、時間が経てば経つほど、追跡できなくなってしまいます」


一瞬の沈黙の後、アイスケは覚悟を決めたように頷く。

「では、すぐにでもお願いしたい。村に案内します」

「では、チャソリ村まで同行します」


レイはアルのアバターが小さく頷くのを確認した。


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