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第323話(南方探索、いざ出航!)

箱の大きさが分かり、船員の確保や人数も割り出せた。あとは、食料と水の積み込みの話に移るだけだ。


そこにルーク船長が声をかけてくる。

「レイ様、食料の備蓄品なら『天翔ける聖翼』の中にもかなりの量を積んであります。二十五人での探索であれば、そこから食料と水を積み替えるだけで十分です」


そこにボルクルが口を挟んだ。

「水なら少しあれば十分じゃわい。船の中で作れるぞい」


「えっ、どうやって?」


ボルクルは笑いながら答える。

「タービンの排熱で海水を沸かして、三度、四度と熱を使い回すんじゃ。蒸気の圧力はバルブで調整すれば、火傷せんくらいの温度で湯気が上がるぞい。ついでに塩も出来るわい」


「それはすごいですね」


「その分を食料の備蓄に回せば、余裕で二月くらいは補給無しで航海できるぞい」


レイが肩をすくめて笑った。

「でも、船の中にずっといるのは、正直あまり気が進まないですね」


そこでシルバーが小さくいななく。


サラも笑いながら言った。

「シルバーも同じ意見みたいニャ。船の中に閉じこもるのは、あまり得意じゃないニャ」


セリアも頷いて付け加えた。

「ほんとね、あの子には自由に動き回れる方が合ってるわ」


こうして、補給物資の積み込みは『天翔ける聖翼』から行い、船員の訓練には二週間を当てることが決まった。その他の装具や道具も順調に積み込み、準備は着々と進んでいった。


一通りの打ち合わせを終え、レイたちは公都の宿に戻った。港での慌ただしさは落ち着き、仲間たちも安堵の表情を浮かべていた。


「もっと時間がかかると思っていたが、これならあっという間に南方探索に出られそうだな」

フィオナがテーブルに肘をつき、にこりと笑う。


「そうですね。まさかボルグルさんが蒸気タービン船を作ってたなんて知りませんでしたから」


「とはいえ、ボルグルの船を借りるなら手続きはキッチリやらないとね」

リリーが手帳を開きながら付け加える。


セリアがうなずき、少し真面目な顔で続けた。

「寄付金で賄う以上、使い道をしっかり残しておかないと、トラブルの原因になるわ」


「具体的に何時出発するニャ?」

サラが興味津々に尋ねる。


「訓練もあるし、船の予備部品や消耗品も見直さないとですね。それを揃えるとなると三週間後くらいですか」

レイが肩をすくめて答えた。


「なるほど……じゃあ、その間に準備と確認をしっかりやれば安心ね」

セリアがうなずく。


レイは頭の中でアルに問いかける。

(アル、まさか、こうなることを想定して蒸気タービンの話をボルグルさんにした、なんてことは……ないよね?)


(はい、偶然です。先を見通す力を持っているのは、むしろフィオナさんでしょう)

アルの声が頭の中に響く。


レイは小さく肩をすくめ、少し安心したように息をついた。


翌日も、メンバーたちは出航準備に奔走していた。


セリアとフィオナは港で船の賃貸契約書を作り、ボルグルと交渉しながら明細や費用の管理も行った。

レイは教会でメールバードを飛ばし、その後イーサンとギルドで魔石の買取依頼を提出した。

サラとリリーは街で松明やロープ、医療用の薬草など探索用品を揃え、費用を管理しつつ準備を進めている。


こうして三週間をかけ、出航の準備は着々と整えられていった。



***


三週間後、港には出港を見送ろうと多くの人々が集まった。

グラフィア・イシリア公爵に、教会のデラサイス大司教。レイの両親、セドリックとサティも来ている。冒険者ギルドや商業ギルドの顔ぶれも揃い、旗や紋章が風にはためき、船体は波間に揺れていた。


「大聖者殿、無事に帰ってくるのじゃぞ」

公爵の笑顔に、レイは少し胸を熱くした。


「レイ殿、遠征が安全でありますように」

デラサイス大司教は手を合わせ、祈るように言った。


「皆さん、お見送りありがとうございます。じゃ、父さん、母さん……行ってきます」


視線を向ければ、セドリックは少し険しい顔をしながらも誇らしげに息子を見つめた。

「気をつけろよ、無茶はするなよ」

サティは柔らかく微笑みながら、手をそっと差し出した。

「レイ、必ず帰ってきてね」


レイは二人に深く頭を下げた後、隣に立つテテンに視線を向ける。

「テテン、父さんと母さんのこと、お願いします。オレが無事に帰るまで、二人をよろしく頼みます」

テテンは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに小さくうなずいた。

「任せてください、レイ様。しっかり守ります」


その言葉に少し安心し、レイは仲間たちの方へ目を向けた。港の喧騒と見送りの人々の声が耳に入り、いよいよ出航の瞬間が近いことを実感する。


「怒涛のような一ヶ月だったが、準備は整ったのだな」

フィオナが小声で尋ねる。


「魔石も揃ったし、人も物資も準備万端よね」

セリアが頷いた。


船員たちは甲板で最後の点検を終え、帆やロープを確認した。互いに小声で声を掛け合いながら、最終準備を進めていた。


「全員準備はいいか! マストを立てろ!」

「はい、船長!」

力を合わせてロープを引く音が甲板に響いた。滑車のきしむ音、帆が風に揺れる音。まるで船が生きているようだった。


ルーク船長が指揮位置から声をかける。

「全員、最終確認を終えました。これより出航します!」


見送りの人々が手を振った。旗がはためき、波の光が船体に反射する。

レイは深呼吸し、仲間たちと視線を交わした。


「よし……行こう!」

レイの声に仲間も頷く。シルバーが軽くいなないて、甲板をぴょんと跳ねた。


「よし、蒸気タービン全開じゃぞい! 度肝を抜いてやるわい!」

ボルグルの声と共に、船は軽く震えた。プロペラが水を切る音が響き、船底から白波が巻き上がる。


船は港を飛び出すように加速した。


「は、早いニャ!」

サラが叫び、シルバーも鼻を鳴らして踏み鳴らした。


岸に立っていた見送りの人々は目を丸くした。

「えっ、あの速度……!? こんなに出せるのか!?」

商業ギルドの役員が口を押さえ、デラサイス大司教も思わず手を合わせた。


「まさか、あのドワーフたち……!」

公爵は驚きを隠せなかった。旗が波風にはためき、白波の間から船がぐんぐん遠ざかっていった。


「うわっ、楽しいニャ!」

サラは手を振りながら声を上げ、レイも仲間たちと笑顔を交わした。


船は外洋へ向かい、冒険の幕が華やかに上がった。


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