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第321話(新型船の弱点)

アルの助言のおかげで、やるべきことが整理できたレイたちは、まず教会本部の混乱を鎮めることに全力を注いだ。


各地から溢れかえるように届いていた寄付や物資の窓口を「南方探索基金」として一本化し、各国や商業ギルドへも正式に通達を出した。

これでようやく支援の流れは整い、混乱は落ち着きを取り戻した。


「……次は、船ですね」

レイが小さく呟くと、仲間たちも頷く。


「箱の大きさが分からないと積める荷物の量もわからないもんね」

「それに船員も手配したと言っていたし、それも確認だな」


アルディアが「船と船員を送った」と言っていた以上、それを確かめる必要がある。


レイたちは支度を整え、公都の港へ向かうため馬車に乗り込んだ。


***


石畳の大通りを抜け、潮の匂いが漂い始める。

やがて視界に広がる港の先――そこに、異彩を放つ船影が見えた。

マストの帆を備えながら、中央には見慣れぬ煙突が突き出している。


他の船が静かに水面を割るのに対し、その船だけは水しぶきを上げて、白い航跡をくっきりと残していた。


「……あれは、アルディアから送られてきた船?じゃなさそうね…」

セリアが目を見張る。


その甲板の上で、見覚えのある屈強な背中が作業の指揮を執っていた。

振り返ったその顔に、レイは思わず声を上げた。


「……ボルグルさん!」


レイが大きく手を振ると、甲板に立っていた小柄ながらも頑丈そうなドワーフの姿が気づいたようで、片腕を高く振り返した。

すぐに隣の船員へ何やら短く指示を飛ばす。


大きな帆を部分的に畳み、舷側から白い蒸気が吹き上がる。

ゴォォォと低い音を響かせながら、その船はゆっくりと港の方へと舵を切り始めた。


港に着くと、ボルグルはずん、と重い足取りでタラップを降り、分厚い手を大きく振った。


「レイ! 本当にお前たちか! ははっ、久しぶりだぞい!」


「お久しぶりです。ボルグルさん」


ボルグルは満足げに腕を組み、後ろの船をあごで指した。

「どうじゃ、見たか? お前さんに教えてもらった蒸気タービン船じゃわい。外輪船なんぞ陳腐に見えるくらいカッコええじゃろ。速度もすごいんじゃぞい、並の帆船の倍は出るわい!」


レイは思わず笑みをこぼした。

「まさか、もう形にしてしまったんですか……本当にすごいです」


「ふん、わしを誰じゃと思うとる。お前さんの助言と、あの時の話があったからこそじゃ。感謝しとるぞい」


そう言うと、ボルグルはレイの肩を軽くたたいた。

「で、公都に来たってことは、またアルディアに行くんかのぅ?」


「いや、違うんです」

レイは首を振り、

「南方探索用の船が必要になったのですが、アルディアから“船が届く”って聞いたから、それを確認しに来たんです」


「南方探索、じゃと……?」

ボルクルは目を瞬かせ、髭をいじりながら首を傾げる。


レイは一息に、帝国からの依頼、アルディアからの支援、各国や商業ギルドからの援助、そして教会本部を拠点に探索の準備を進めていることを話した。


話を聞き終えたボルグルは、しばらく顎髭を撫でたあと、にやりと笑う。

「なるほどのぅ……そういうことなら、ちょうど良いわい。この蒸気船もその南方探索に使ってみんかのぅ?」


「わしがこの船を作った理由の一つは天候じゃぞい。東のアルディアや西のファルコナーに向かうなら帆船でも問題ないんじゃが、南に行こうとすると、途中で風が全く吹かない日が続くんじゃぞい。それでイシリアより南の地域は危なくて誰も行けんのじゃわい」


ボルグルはそこでニヤリと笑うと船の側板を軽く叩きながら、得意げに胸を張った。

「この船の強みはな、まず速さじゃわい。風待ちせんでも動けるから、天候に左右されにくいんだぞい。安定して長距離を進めるのも利点なんじゃわい」


「風に頼らず進めるのか……それは大きいですね」


「じゃが弱点もある」

ボルグルは指を三本立てる。


「ひとつは燃費じゃ。この魔道蒸気タービンは魔石を燃料にして蒸気を起こす仕組みなんじゃが……それなりに魔石を食う。安くは済まんぞい。ゴブリンの魔石ぐらいじゃトルクが足りず、スクリューがまともに回らん」


レイは小さくうなずいた。

「つまり、大きな魔石を大量に確保しておかないと航海そのものが成り立たない、ということですか?」


「そうじゃ。オークやトロル級の魔石を山ほど用意せんと、長い航海はもたんぞい。それと二つ目はは修理じゃ」

ボルグルは自らの胸を親指で叩く。


「新しい仕組みゆえ、何かあったとき直せる奴は限られとる。わしが同行すりゃ、ある程度の故障には対応できるじゃろうが……完全に未知の故障は、正直保証できんぞい」


「未知の故障……確かに心配ですね」


「今までにも、シャフトが折れたり羽根が歪んだり、軸受けが焼き付いたり、いろいろあったんじゃわい。そういう壊れ方なら、改良した部品に換えれば済むんじゃが……思いもよらん不具合が出たら、海の上じゃどうにもならんぞい。必要な部品も道具も手に入らんからのう」


「その場合は……」


「港まで引き返すしかあるまい。じゃが、外洋の真ん中で止まったらえらいことじゃぞ。風まかせで漂う羽目になる」


「……それは避けたいですね」


「で、最後の一つは船員じゃぞい。今は港の近くで実験してるだけだから問題ないが、外洋に出るなら経験豊富な船員は必須じゃわい。星や太陽を見て航路を決められる者、風や潮を読んで嵐を避けられる者……そういう連中が揃わにゃ、海の真ん中で迷子になるわい」


ボルグルは手を腰に当て、大きく息を吐いた。

「ま、準備さえきっちりすりゃ、乗り切れるだろう、ガハハ」



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