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第319話 第十一章(穏やかな朝?)

南方探索編スタートです。

朝日が屋敷の窓から差し込み、長い旅路で疲れた体を優しく包む。


レイは目を覚まし、寝室の広さや木の床のぬくもりに少し戸惑った。孤児院で育ち、銅貨十枚で泊まれる狭い宿屋での生活が当たり前だった日々を思い出すと、今ここにある実家の居心地の良さが、妙に贅沢に感じられた。


ゆっくりと顔を洗い、朝食の香りに誘われてキッチンへ向かう。


窓から差し込む光が庭を照らし、木製のテーブルには焼きたてのパンと湯気を立てるスープが並んでいた。椅子に腰を下ろすと、長い旅の緊張が解けていくような安らぎが胸に広がり、レイは思わず小さく微笑んだ。


やがて仲間たちも次々と姿を見せる。


サラは眠気を引きずった様子で椅子に腰を落とし、テーブルの上のパンを見つめて言った。

「いい匂いするニャ」


セリアは湯気の立つスープを見て、穏やかに口にする。

「体が温まりそう」


フィオナは焼き色のついたパンを手に取り、小さく微笑んだ。

「この香ばしさはやはりイシリア産だな。懐かしい」


リリーは席に着き、彩りよく盛られた果物を見て言った。

「朝からご馳走ね」


すでに座っていたサティが皆に勧める。

「たくさん作ってあるから、遠慮なく食べてちょうだい」


セドリックもパンをちぎりながら一言添えた。

「旅の間はまともな食事を取れなかっただろう。今はゆっくり味わうといい」


焼きたてのパンをかじる音、スープをすする音が食卓に重なり、久しく味わえなかった家庭のぬくもりが広がっていく。


レイは椅子に座り、にこやかに声をかけた。

「今朝は少しゆっくりして……そのあと、次の行動について話し合おう」


やがて食事を終えると、一行はリビングへ移動した。

窓からの光が差し込む広い空間には、革張りのソファや木製のテーブルが並び、暖炉のそばには静かな火が揺れている。椅子に腰を下ろすと、自然と場に緊張感が戻ってきた。


レイは姿勢を正し、皆を見渡す。


「南の島を探すなら、地理的には公都まで行って、そこを拠点に南方に眠る古代の遺物を探す準備を進めたいと思ってるんだけど。何か意見はありますか?」


セリアが身を乗り出して口を開いた。

「とにかく南方の島に向かうなら、船は必須よね」


「その通りね」リリーが頷く。

「公都で船を借りるのが現実的だと思う。ただし、探索に出ることになるから、ある程度大きな船じゃないと遠方まで行けない。荷物や人数のことも考えると、小型船では難しいと思うわ」


フィオナが慎重な目つきで続ける。

「それに、帝国の罠の可能性もある。海路を安易に選ぶと、敵に見つかるリスクが高まる。行くなら細心の注意が必要だ」


サティは眉をひそめ、言葉を選びながら口を開いた。

「船を借りるのはそう簡単じゃないわ。公都の港では、危険な航路に出る船には貸さない場合も多いし、借りられても船主が途中で怖じ気づくことだって考えられるわ」


「そうなの?母さん」

レイは不安げに訊ねた。


「海路がちゃんと決まっている場所なら、船を出してくれる人もいると思うわ」サティは慎重に言葉を続ける。

「でも今回の帝国の依頼って、海図も整備されていない未知の海域に向かうことになるんじゃないかしら。そんな場所に船を出してくれる人がいるかしら」


レイの後ろに控えていたイーサンが横から補足するように言った。

「確かに。南の海を縦断するとなると、天候や潮流の変化も激しいし、遭難のリスクや、船の航行性能や耐久性も問題になりそうです」


サラが少し顔をしかめる。

「未知の海か……。正直、危なそうニャ。でも、そういうところに遺物が眠ってるんだろうニャ」


「それに、補給地点も限られるわ」セリアが付け加える。

「途中で食料や水が尽きたら、自力でなんとかするしかない。長距離航海の経験がある船員でなければ、とても安心して進められない」


「つまりまとめると……」リリーが手帳に書き込みながら整理する。

「船の大きさ、航路の安全性、船員の経験、補給、帝国の干渉、そして未知海域の危険性――すべてクリアにしないと、南方への航海はかなりリスクが高いということね」


「……分かった。これは思っていたより相当難易度が高いな」

レイはゆっくり頷いた。


そこでイーサンが手を挙げる。

「レイ様、アルディアには帝国から南方探索の依頼を受けたと報告しましたが、教会からの正式な指示はまだ届いておりません。大聖者であるあなたが動く以上、教会も必ず何らかの意向を示すはずです」


レイは椅子に腰を下ろし、軽く息をついた。

「そっか。エヴァルニア国の申し出もあるし、教会の意向も聞かないと、話は進められないね」


そこに玄関の方から、ノックをする音が響いた。来客の気配に、テテンがすぐに立ち上がり、玄関へ向かう。


扉の向こうに立っていたのは、デラサイス大司教だった。

「レイ殿がこちらに来ていると伺い、すぐに参りました」と大司教は柔らかく微笑むが、その瞳には緊張が走っていた。


レイはリビングで立ち上がり、静かに玄関へ歩み出る。

玄関前で大司教の前に立ち、教会の礼をする。


「お久しぶりです、大司教様」

そして自然に笑みを浮かべる。


大司教は深く息をつき、すぐに本題に入った。

「レイ殿、良かった。今、南方探索の件で大変なことが起きています」


その言葉に、場の空気が一瞬で引き締まった。


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