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第309話(囚われの倉庫で)

「レイ、起きてください」

アルの声に導かれ、レイは重いまぶたを開けた。頭の奥はまだぼんやりとしている。


「……アル? ん? ……あっ、みんなは……!」

勢いよく身体を起こしたレイの視線が、周囲を彷徨う。


そこは石壁に囲まれた広い空間だった。木箱が雑然と積まれ、天井は低く湿っぽい。地下の倉庫のように見える。


仲間たちもそこに居た。しかし全員、鎖で繋がれたままぐったりと倒れている。まだ意識を取り戻していない。


「…オレ、あの後どうなったの?…」

小さく呟くと、アルが応じた。


(その話をするため、催眠ガスを中和しました。他の皆さんは……まだ眠っています)


立ち上がろうとした瞬間、ジャラリ、と鎖が鳴った。

手首と足首には無骨な鉄環。冷たい鉄の感触が皮膚に食い込み、自由を奪っていた。


「なるほどね。してやられたって訳だ。武器も取られちゃったし…さて、アル分かったことを聞かせてよ」


(分かりました)


レイが眠らされた後、アルは彼の耳や目を通して情報を集めていた。

前回も確か、眠らされた際にアルが情報収集してくれたが、あの時の録画は映像が荒く、声も遠く微かなノイズが混じっていた。今回は格段にバージョンアップしていた。


目の前の光景は鮮明で、少将の表情や側近たちの小さな動きまで克明に見える。声も息遣いや鎖の金属音まで正確に届き、まるで自分がその場に立っているかのようだった。

魔封じ装置からガスが吹き出す様子も、倒れたレイの視点で鮮明に映る。


レイが倒れた後、ガスマスクを外した少将とその側近の声が、微かだがはっきりと耳に届いた。


「『陛下の秘薬』はやはり効きますね。驚くほどです」


「ふむ……量産体制が整わないのが惜しいところだな。これさえあれば、戦局が根本から変わるというのに」


「本当にそう思います」


「今回は陛下の命令だから、奴を生かして捕らえたが、こうも簡単に行くとはな。やはり陛下の知識は素晴らしいとしか言えんな」


「はい、その通りかと。ところで、大聖者以外はどういたしますか?」


「仲間については、有効に使える駒になるかもしれん。しかし、面倒が起きそうなら処分して構わん」


「はっ」


側近たちはそれぞれ頷き、レイとその仲間たちを順に鎖で縛り上げていった。


レイは、少将の言葉からバガンが単に陛下の命令を遂行しているだけだと理解した。少将自身は皇帝の真意を知らない。しかし、命令の背後にある意図を考えれば、この結末の行方を左右するのはやはり皇帝なのだと気づいた。


仲間たちは全員、鎖付きの錠で縛られ、村の近くの丘を掘り抜いた倉庫のような場所に連れ込まれた。


シルバーは異変を察したらしい。連れ出されるレイを目にしたシルバーは、馬車ごと猛スピードで村を離れていった。賢いシルバーは、レイが眠らされただけと察したのかもしれない。


映像の情報を見終え、レイは深く息をついた。


「なるほど、下手に騒ぐより次の展開を待った方が得なのかもしれないな。アル、本当ならこの薬はどれくらい効いてたの?」


(レイ、この薬の効果はあと一刻は続くと思います)


「そうか。じゃあ騒ぐとまずいかな。ドアの外に見張りがいるし…。気付かれないように、みんなを静かに起こして伝えておこう」


レイはぐったりと横たわっている仲間たちを前に息を整え、アルに声をかけた。


「アル、量を調整して、まだ完全には起こさないで。騒がれないように」


(了解です。呼吸と意識をコントロールしながら、少しずつ覚醒させます)


準備を整えたレイは、まずセリアの肩に手をかけ、軽く触れる。触れた瞬間、ナノボットが体内を流れ、催眠ガスの効果を徐々に打ち消す。セリアのまぶたがゆっくりと開き、微かに息をついた。


そのままレイは仲間たちに順に手を添え、ナノボットを送り込む。フィオナ、リリー、サラ、サティ、イーサン、護衛騎士たち、そして立ち会っていた二人の上級司祭──全員の呼吸が安定し、意識が少しずつ戻っていく。ぐったりしていた表情も、次第に落ち着きを取り戻した。


全員のまぶたは完全には開かないものの、警戒できる程度まで意識が戻った。眠気の残る視線でレイを見上げる仲間たちを前に、彼は小さく頷いた。


倉庫の中で、眠りから覚めた仲間たちはまだ警戒心を解けないまま、体を起こそうとしていた。


「みんな…落ち着いて…」

レイは小声で仲間たちに呼びかけた。


「……ここは?」

「捕まってしまったのか?」

鎖に繋がれた仲間たちが戸惑いを隠せず、視線を交わす。


レイは小さく頷いて口を開いた。

「手短に言うと──僕たちは捕らわれています。武器もすべて没収され、外には見張りが立っているようです。そして、縛られている時に耳にした少将たちの会話では……狙いはオレひとりのようでした」


「えっ、レイ様は意識があったのですか?」

カイルが思わず声を上げる。


「しっ──カイル、もう少し声を落として」

レイが小声で制した。


「……あのガスで平気なんて、本当にすごい」

ユキミが驚きを抑えた声で呟いた。


ポンコやスタマイン、エリーシャやジョリーンも、信じられないというように目を丸くしていた。


「……あぁ、それを話すと長くなるんだ」

レイは苦笑して肩をすくめる。


「まぁ、大聖者様の特技だもんね」

セリアが茶々を入れる。


「いつもの事ニャ!」

サラが元気に続いた。


「いつも、こんな危険なことをしてるの? レイ」

サティが心配そうに問いかける。


「母さん、いつもじゃないよ」

レイは軽く返したあと、真剣な眼差しで言った。


「……それと、外にいる見張りに気づかれる前に、これからどう動くかを決めておきたいんだ。みんな、いいかな?」


仲間たちは小さく頷き、鎖の音を鳴らしながらレイの言葉を待つ。

そこでレイは、気絶した後に耳にした少将たちの会話や、この倉庫のような場所がどこにあるのか──アルを通して得た情報を手短に語り始めた。

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