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第31話(口を尖らせて)

ギルドマスターをギャフンと言わせるつもりだったレイだが、逆に想定以上の反撃を食らい、ギャフンと言いそうになってしまった。

結局、ギルドマスターに連れられて、ギルド一階の事務所に来ている。


「誰か! こいつをDランクに昇格させるから、手続きをしてやってくれ!」


ギルドマスターの声が、やけに大きく響き渡った。


(ちょっ、そんなに大声で言わなくても……)


嫌な予感がしたが、案の定、周囲の視線が一斉に集まる。


「おい、あいつゴブリンキラーだろ。なんでDランクになれるんだよ!」

「嘘だろ! あいつソロなのに、オレと同じランクになるのか?」


否定的な声が飛び交う中――


「おめでとうございます!」


と称賛の声も混じった。ケントたちの声だ。

(ケント、やっぱり良いやつだな)

レイは軽く親指を上げて応えた。


「レイ君、おめでとう。手続きするからこっちに来て」


セリアが手招きする。


「一応、ギルドの決まりだからね」


そう言って、ランクアップに伴う注意事項を説明し始めた。

Eランク昇格のときにも聞いた内容だが、再確認が必要らしい。


ギルドでは、依頼の成功や失敗に関して、冒険者の怪我や体調不良を理由に責任を負わない――そういう規約がある。

Dランクになると、さらに高難易度の依頼が増えるため、武器や防具のアップグレードを検討するよう勧められた。

防御の硬い魔物や毒を持つ敵も増えてくると考えると、武器の強化も視野に入れるべきだろう。


説明を終えたセリアは、必要事項を入力し、昇格証明を作成した。

レイは首から下げていたEランクのランク票を返却し、真新しいDランク票を受け取る。


「はい、これがレイ君のDランク票です。しっかり大事にしてね」


セリアは笑顔で手渡し、表情を引き締めた。


「あんまりこういう言い方は好きじゃないんだけど……Dランクからが、本当の冒険者と呼ばれるようになるの。依頼の難易度も責任も増えるわ。でも、レイ君ならきっと大丈夫。頑張ってね」


「はい、頑張ります!」


レイが元気よく返事をすると、セリアはにやりと笑って付け加えた。


「それで、ギルドマスターに『意趣返し』は出来た?」


「それが……『分からないことがあったら積極的に質問しろ』って返されちゃいました。ちゃんと『依頼を受ける前に注意すべきことはありますか?』って聞いたんですけどね」


セリアはくすっと笑い、小声でつぶやく。


「あの、タヌキオヤジめ」


レイが眉をひそめる前に、彼女は肩を叩き、明るく言った。


「まぁ、冗談よ。分からないことがあったら何でも相談してね。ワ、タ、シ、に!」


ギルドマスターにも礼を言おうと周囲を見回したが、すでに姿は消えていた。

セリアに礼を告げ、ギルドを後にする。


***


外に出たレイは、アルに魔法の練習を提案したが――


(先に食事を摂ってください)


と、きっぱり返された。

朝から晩まで働く農家は一日に三〜四食取る人もいるらしいが、レイは空腹になったときに食べるだけの生活だった。


(……アルの「ギルドマスター風説教しますよ」には勝てないな)

しぶしぶ昼食を優先することにする。


「昼ごはんか、また大広場に行ってみる?」


(そうですね、幅広く栄養素を摂ってもらえると、レイの継戦能力が向上します)


「そんなもので長く戦えるようになるの?」


(なります。例えばチーズは筋肉の収縮に必要ですし、果物や野菜は筋肉の回復を助けます。持続的なエネルギー源としてはナッツが良いですね)


「ふーん。ナッツなら市場の方が良いのかな?」


(ならば、お任せします)


そのまま西門近くの市場へ向かうことにした。


市場へ歩く途中、向かいの商業ギルド前で、見覚えのある人物が項垂れているのが見えた。


「あれ? あの人、大広場のレストランのコックさんじゃない?」


(そうみたいですね)


「朝、あんなに元気だったのに、どうしたんだろう」


(話しかけてみますか?)


「そうだね」


レイが声をかけると、男は顔を上げた。


「おお、あんたは今朝の冒険者じゃないか!」


「はい、今朝ぶりですね。なんだか元気がなさそうですが、大丈夫ですか?」


「はは、そう見えましたか。いやぁ、今朝の件で光明が見えたと思ったんですがね……」


その男――ブランドンは語り始めた。


宿屋兼レストラン「赤レンガ亭」の主人で、父から店を継いで以来、立地の良さもあり繁盛していたが、近頃は露店や競合店の新メニューに客を奪われているという。

目玉料理を作ろうと試行錯誤していたが、納得のいくものは出来ず、そんな中、今朝レイが食べた料理の赤い実――「トマトゥル」の味と出会ったらしい。


「これだ!これこそが私が探し求めてきた味だっ!」


しかし、そのトマトゥルは元々観賞用扱いの苗で、市場や商業ギルドでは、全く流通していなかった。安定供給の目処が立たず、途方に暮れていたのだという。


「じゃあ、そのトマトゥル、どこで手に入れたんですか?」


「トマトゥルじゃなくて、トマトゥゥゥルね。なんかこう、口の中にトゥゥルルって身が入って来そうな、みずみずしさと、酸味で、口が酸っぱく尖った感じ。それを表現するには、こう口を尖らせて――トマトゥゥゥルって」


「いや、発音の話じゃなくて……」


「ああ、そうだったね。ウチのカミさんが宿泊客からトマトゥゥゥルの実を観賞用にもらったんだけど、一個しかなくてね。その実が萎れたときに種を取って、春に植えたんだよ。それで…」


そこから先も“トマトゥゥゥル“を繰り返しながら説明するブランドン。


(なあ、アル。この人、巻き舌が気に入っちゃったのかな? そっちが気になって話が入ってこないんだが……)


(ご夫人が昨年もらった実を庭先に植えたところ、一株だけ偶然育ったようです)


(……なるほど。安定した仕入れ先か。面倒な話を聞いちゃったなぁ…)


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