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第308話(少将の罠)

レイたちが証拠の品をいくつか持って教会まで戻ると、グレコ司祭が教会の前で待っていた。


「レイ様、礼拝堂の中でバガン様がお待ちしています。こちらへどうぞ」


案内された壊れかけの教会に足を踏み入れると、礼拝堂の椅子はすべて取り払われ、中央には粗雑な大テーブルが据えられていた。一見、簡素な会議場のようだが、空間に踏み込んだ瞬間、レイたちの耳に不快な耳鳴りが走る。


頭の奥が重く、呼吸が浅くなる。空気は澄んでいるのに、なぜか肺が拒むような違和感があった。人間の身体には致命的な害はないが、魔力に敏感な者ほど強い苦痛を覚える――そんな感覚だ。


(……アル、耳鳴りがするんだけど。何が起きてるんだろう?)

レイが眉をひそめると、アルが落ち着いた声で答えた。


(落ち着いてください、レイ……テーブルの下に、何か仕掛けられているようです。微細な振動が広がっています)


耳の奥で高い金属音のような響きがする。魔力に敏感な者ならたまらなく不快に感じるだろう。サティとフィオナが小さく顔をしかめ、セリアも肩を震わせる。リリーやサラも息を浅くしている。誰も口には出さないが、全員が微妙な違和感に気づいていた。


(……大丈夫です、レイ。ナノボットで耳鳴りを抑えます)


アルの声に従い、瞬時に微細な振動が和らぎ、耳鳴りは薄れていく。呼吸も少し楽になり、身体の感覚も戻った。



グレコ司祭に案内され、レイは用意された席に腰を下ろした。

テーブルの中央にはバガン少将が座り、その背後には帝国兵がずらりと控えている。


レイの両脇にはセリアとフィオナが並び、その隣にリリー、サラ、サティが続いた。背後にはカイルを含む護衛六名とイーサンが立ち、周囲を警戒している。

仲間たちは席につく前から微かな耳の違和感を気にしており、呼吸を整えつつ周囲を見回していた。


一方で、案内役のグレコ司祭はレイを席に導いただけで、礼拝堂から姿を消してしまった。

なぜ立ち会わないのか――そのことが、レイの胸に小さな引っかかりを残した。


上座に座ったエリーシャとジョリーンも、静かに腰を下ろしながら同じ違和感を覚えていた。二人の表情はわずかに引き締まり、緊張が漂う。


バガン少将の穏やかだが威圧的な声が響く。


「この部屋では、魔法を封じさせてもらっている。会談に魔法は必要ないからな」


テーブルの下からわずかに伝わる微振動が、レイたちの体に再びじわりと不快感を走らせる。息を整えようとしても、まだ心地よく呼吸できない――魔封じの影響は確実に広がっていた。


レイは気を取り直し、席に座って村の破壊の様子を報告する。声は落ち着いていたが、心の中では微振動と違和感が常に意識されていた。


「……このように刃物で切り込みを入れた形跡があり、これは人が壊したものと推測します」


静かな間。仲間たちは息を呑み、エリーシャが目を細め、ジョリーンが唇を噛む。


バガンはゆっくりと口角を上げ、低く笑った。

「ほう、大聖者殿は、この村は人が壊したと…それでは、いったい誰がそのようなことをしたのだろうな? エヴァルニア国か? それとも…」


その笑みの奥には、計り知れない意図が隠されている気配――空気はさらに重く、張り詰めた。


次の説明に移ろうとしたレイの視線の先で、少将の足がわずかに動いた。何気ない姿勢の調整にも見えたが、テーブル下の魔封じ装置が微かに揺れるのをレイは捉えた。直後、白い霧がゆっくりと立ち上がる。

空気の温度や匂いの変化はほとんどない。だが、金属臭が警告のように鼻をかすめた。


「――!」


セリアは手で口元を押さえ、フィオナは必死に立ち上がろうとするが力が抜けていく。リリーやサラ、サティも声を上げ、後ろの護衛兵士たちは支えようと手を伸ばすが、力が入り切らなかった。イーサンも後ろから手を伸ばすが、仲間を支えるには力が足りない。


アルは即座にガスの成分を解析した。そこには、この世界の薬学では存在すら知られていない「ジアゼパム誘導体」が含まれていた。


(……やはり、帝国はこの文明の知識を超えた何かを持っていますね)


アルはナノボットに指示を出し、レイをすぐには起こさないようにした。その代わり、眠っている彼の視覚と聴覚を借りて、バガン少将と帝国兵たちがマスクを装着するのを確認する。どうやら、こちらを傷つけることなく、意識だけを奪って無力化する作戦らしい。


その様子を見届けながら、アルは周囲の動きを探り、仲間たちの状態を把握していった。


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