表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

314/336

第303話(無双する母と愛馬)

「作戦はこうかな。まず、泥濘のない街道で迎え撃ちます。

泥濘の中は足場が悪くて動きにくいから、絶対に入らないように

してくださいね」


レイは静かに話しながら、地面に視線を落とした。


「それに街道で戦うもう一つのメリットは、ワイバーンの進路を

限定できると思うんです。街道の両側に木が生えているせいで、

ワイバーンは側面からの攻撃が制限されると思う」


「で、前方はカイルに任せます。後方は俺たちのパーティが担当かな」


カイルが顔を上げて質問する。


「なるほど……でも、レイ様。それだとそちらのパーティに

盾役がいないのではありませんか?」


レイは軽く笑みを浮かべ、手を掲げて土の方に向けて魔法を放った。


「土魔法があるから問題ないよ」


地面の土が盛り上がり、簡易的な防壁が街道の端に出来上がる。


カイルは顎が外れたような表情で見つめた。


レイはそれを見て続ける。


「そういうわけで、隊は前方と後方に分かれて陣取ります。

馬車の前後に分かれて戦うようにします。

馬車は金属製だから、ワイバーンが持ち上げることもできないと

思うので。


自分たちは馬車を背にするから、前方から来るワイバーンだけに

集中すれば良いと思います」


カイルはまだ土の防壁を見つめながらも、小さくうなずいた。


(アル、勝手に作戦立てちゃったけど、こうした方が良いって案はない?)



(レイ、普通の作戦で行くのですね。

ならパーティのバランスを考えると、ワイバーンにトドメを刺せる

戦力が前後に分かれていたほうがいいですね。

片方に集中しすぎるのは危険です)


レイは心の中で返す。

(ふむ、それがいいね。ほかに何かある?)


(いえ、トドメを刺せる者がいるかどうか、確認してみてください)


(分かった。ありがとう)


レイは顔を上げ、皆に問いかけた。


「みんな、聞いて。土魔法は盾の代わりに防御に使います。

 ワイバーンにトドメを刺せる人、誰かいないですか?」


フィオナが手を挙げた。

「今の私のゲイルブレードなら、接近したワイバーンに刃が届くと思う」


サティもゆっくりと手を挙げる。

「砦にワイバーンが来た時、ファイヤランスで翼を狙って撃ち落とした

ことがあるわ」


レイは頷いた。

「じゃあ、その二人を前方後方に分けて戦力に組み込んで戦いましょう」


カイルは少し俯きながら、声を潜めて言った。

「私たち護衛騎士は……役に立っていない気がしてしまいます」


レイはカイルを見て言った。

「カイルの役目って、ワイバーンにトドメを刺すことじゃないですよね。

背中を預けられれば、それ以上に頼もしいことはないと思います」


カイルは小さく息を吐き、少しだけ笑みを浮かべた。

「そう言ってもらえるなら、胸を張って戦えそうです」


レイはイーサンに向き直り、指示を出した。

「イーサン、なるべく街道の幅が狭いところで馬車を停めて、シルバーを馬車から放してくれ」


イーサンは力強く答えた。

「わかりました、レイ様」


レイは皆に声をかける。

「じゃあ、作戦通りに行きましょう」


サティはユキミと交代し、カイルの護衛隊に加わった。


カイルたちはサティを中央に置き、街道を慎重に前進した。


イーサンが隊列の位置を確認し、街道の木が覆いかぶさる場所に

馬車を停めると、すぐにシルバーを馬車から放した。


すると、シルバーは勢いよく後方へ駆け出していった。


「あれ?シルバー、どこに行くんだ?」


レイが疑問を抱いたその瞬間、前方の空をワイバーンの群れが

旋回しているのが目に入った。


すでに彼らに見つかってしまったようだ。


鋭い爪と尾が空中から襲いかかり、仲間の連携を断ち切ろうと

狙っていた。


「盾を固めろ!まずは防御を優先だ」


ハロルドは大盾を構え、重く地面を踏みしめながら仲間に指示を出した。


最初のワイバーンが急降下し、盾に「バンッ」「ガンッ」と連続して鋭い攻撃を叩きつける。


「ふんっ!」


ハロルドは息を吐き、筋肉をこわばらせて耐え続けた。


盾の陰で、カイルやポンコたちが攻撃の機会を窺うが、ワイバーンの

素早い動きに矢は何度も命中しているものの、硬い皮膚が急所への

命中を防いでいた。


「矢が急所に当たらない……奴らの動き、速すぎる」


ポンコは苛立ちを隠せず呟いた。それでも、ハロルドの盾のおかげで

仲間は身を守りながら反撃の隙をじっと待ち続けるしかなかった。


ワイバーンは旋回し、レイ達の方にも向かってきた。

レイは素早くライズを使って防壁になるよう土を盛り上げる。


鍵爪でレイたちを捕まえようとするワイバーン。

だが、サラはジャンプシューズを使い、防壁のすぐそばまで飛んできた

ワイバーンの顔のあたりまで跳び上がった。


そして、双剣を振りかざした。


「これを待ってたニャ!」


ワイバーンは攻撃を嫌い、上空へ逃げようとした。

しかしサラはさらにジャンプシューズで宙を蹴り、ワイバーンを

追いかけ、空中戦に持ち込んでしまった。


「サラ、後ろ!」 フィオナが叫ぶ。


もう一匹のワイバーンが背後から襲いかかろうとしていたのだ。

サラは空中で蹴りを入れて方向を変え、着地する。


「卑怯だニャ!背中から来るニャんて!」

サラはワイバーンに向かって怒鳴るが、魔物との戦いに卑怯は通じない。


サラに迫るワイバーン――その瞬間、銀色の影が飛び出した。

シルバーの大ジャンプだ。ドンッという衝撃音と共に、向かってきた

ワイバーンを勢いのまま弾き飛ばす。


巨体は空を切り裂きながら落下し、ドシャアッと地面に叩きつけられて

動きを止めた。


「すごいっ!」


歓声が上がったが、まだ数匹のワイバーンが空を舞っている。


油断はできない――そう思ったレイの背後で、



――ドゴォォォォンッ!――



と爆発音が轟いた。


続いて、熱い空気の塊がゴォォォッと押し寄せ、レイは咄嗟に振り返る。


炎の壁が街道を覆い尽くし、その中でワイバーンの胸部が

内側から裂け、黒煙を上げながら燃え落ちていた。


それはサティのエクスプロージョンだった。


「……ちょっと出しすぎたかもしれない」

サティはそう呟き、振り返って息子に笑みを向けた。


「これが母さんの本気よ」


息子はぽかんと口を開けたまま、燃え落ちる巨影と母の姿を

目に焼き付けていた。


「反則だろ……こんなにあっさりワイバーンを倒すなんて」


(レイ、サティさんが前回見せたインフェルノフレアを撃てば、

多分ワイバーンは全滅していたでしょう)


(アルが…“普通の作戦”って言ったから違和感があったけど、

そういうことなら先に言って欲しかった……)


その後、ワイバーンはフィオナ、サティ、そしてシルバーによって一匹ずつ倒され、

あっさりと退散したのだった……


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ