表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

311/336

第300話(村へ向かう両者)

レイは、エヴァルニアの教会から《メールバード》を飛ばしてもらっていた。


この通信手段は、スカイホークと呼ばれる鳥型の魔物の帰巣本能を利用したもので、

訓練さえされていれば、どれだけ遠く離れた場所にも確実に手紙を届けてくれる。


教会の裏庭で、スカイホークの世話をしている助祭に手紙を託すと、助祭は慣れた手つきで手紙が入った筒を

スカイホークの足に結びつけた。


以前にアルディアから届いた手紙には、中立の第三者として小国家の教会に立ち会いを依頼する案が

記されていた。それを受けて、レイは各国宛に立ち会いのお願いを書き上げ、アルディアに送付を依頼した。


同時に、帝国の教会支部宛の手紙もアルディア経由で送ることにした。


壊滅した村へ向かう予定であること、立場上護衛を同行させること、

第三者の立会人を置くつもりであること――必要事項を淡々と記した。


今のところ直通の通信手段がないため、すべてをアルディア経由に頼らざるを得ない。

直送できる仕組みを作りたい、という考えが頭をよぎるが、それは今は脇に置くしかなかった。



***


数日後、アルディア経由でマルカンド共和国から返事が届く。

派遣されるのはエリーシャ司祭――知恵と温厚さで知られる女性で、アルディアが最も信頼を寄せる

人物のひとりらしい。


さらに、ラムセリア公国からも「ジョリーン司祭を向かわせる」との連絡が入った。

物腰は柔らかいが、芯は鋼のように強く、正義感あふれる人物だという。こうして二人の立会人が

現地に向かうことが決まった。


準備は整った――そう思った矢先、送られてきた筒の中に、もう一通手紙が入っていた。

差出人はアルディアにいる側近のアレクシアだ。


その短い文面を読んで、レイは目を瞬いた。


『カイルが、マルカンド経由でそちらに向かっている』


カイル――それは、アルディアに預けていた護衛騎士の名だ。

本来は大聖者の護衛として同行すべきところを、今回は「旅にはイーサンだけを連れて行く」と言って

断った相手だった。


(まあ、大聖者の護衛騎士となっている以上、拒めないよな……)


そう思いつつも、胸の奥に小さなため息がこぼれる。


魔物討伐の余波を巡る真相を確かめるだけのつもりだった。

それがいつの間にか、教会や、複数の国を巻き込み、ことは大きく膨らんでいる。

その空のどこかを、すでにカイルを乗せた船が、東へ向かって進んでいるのだろう。



***


帝国の首都、ラドリアッチ城。重厚な石造りの書斎で、皇帝は書類を手に側近と向かい合っていた。


皇帝は書類を手にしながら側近に問いかけた。


「村の惨状は想像以上だな。バガンめ……自国の村を壊滅させてまで口実を作るとは、あいつも

 なかなかの悪党よ。だが、実に巧妙に動いておる。


 ――まあ、よくやりおる、というところだが、それはどうでもよい。重要なのは、大聖者が

 私の期待通りの者なのかどうかを見極めることだ」


側近は戸惑いを隠せず言った。


「陛下、しかし村を壊滅させた少将の策略もあります。事実確認は必要かと」


皇帝は冷たく目を細めた。


「くだらぬ。真実などどうでもよいわ。大聖者こそが鍵だ。

 選ばれし者か、ただの駒か、それを確かめねばならん」


「それよりも、大聖者の持つ道具についての調査はどうなっている?」


側近は眉をひそめ、苦渋の表情を浮かべる。


「陛下、つい先日、この件について指示を受けたばかりでございます。

 現在、密偵を放ったところですが、まだ具体的な成果は報告されておりません」


皇帝は短く吐息をつき、拳を軽く握りしめる。


「時間がないのだ。大聖者に関する情報は早急に必要だ。何としても手掛かりを掴め」


側近はうなずき、深い覚悟を込めて答えた。


「かしこまりました、陛下。全力を尽くします」



皇帝は視線を鋭く側近に向け直し、冷たく言い切った。


「大聖者をこの村に呼び寄せたのは僥倖だ。名目はどうあれ構わぬ。

 計画を進めるため、必ず直接会話を交わす。誰の同席も許さぬ」


その言葉に、側近の顔が青ざめた。


「陛下……それは、あまりにも危険です。大聖者と陛下が二人きりで会うなど、予期せぬ事態が起きる可能性は

 計り知れません。護衛や第三者を同席させずに話すのは、賢明とは言えません!」


慌てて側近は言葉を重ねる。


「どうか再考を──」


だが皇帝は、鋭い視線を向けて言葉を遮った。


「言葉は終わりだ。私の決断は揺るがぬ。危険を冒してでも、この目で確かめねばならぬのだ。

 すぐに村へ向かう!」


重々しい足音が廊下に響き、皇帝は部屋を後にした。


側近はしばらく動けずに立ち尽くし、深いため息を漏らした。


村の壊滅の策略は彼にとってただの舞台装置に過ぎず、大聖者レイこそが最大の鍵であり、

その存在が帝国の運命を左右するものだと、否応なく理解せざるを得なかったのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ