第298話(帝国の覇者と眠れる古代兵器)
その頃、ラドリア帝国皇帝ゼルファス・ヴァルドール・ニャアン・ラドリアは、エヴァルニアで
第一軍として当たらせていた魔物軍が敗戦したという報告をバガン少将から送られてきた
メッセージバードで報告を受けた。
「魔物は全滅か…」
「ふむ、その大聖者とやらは、一体何者なのだ?」
「半年前までは無名のEランク冒険者だったと報告を受けています。
しかし、神殿の聖なる核を修復し聖者となり、火・水・土の魔法に加えて治癒魔法も習得。
瞬く間に教会の全試練を突破し、大聖者の地位に上り詰めたということです。
「枢機卿も彼の若さを疑い厳しい試練を課しましたが、すべて克服しました。
知恵も優れており、枢機卿の問いかけにもすべて応じています。
今では文武両道の大聖者として知られています」
「ふむ、その大聖者、何を企んでいるのだろうな?」
「現状、特に政治的な動きはありません。ただ民の守護に専念している模様です」
ゼルファスは眉を寄せ、重々しい声で言った。
「成り上がりが、わずか半年で大聖者の座に昇り詰めたのか。
そのような者が、我が計画にどのような影響を及ぼすか、看過できぬ。
火、水、土、そして治癒の魔法すべてを使いこなすとは厄介な存在だ…だが…」
鋭い眼光で部下を見据え、静かに命じる。
「確認せよ。その大聖者は本当に半年前までEランクの冒険者だったのか?」
「はい、その通りです。落ちこぼれのEランク冒険者だったとの報告を受けております。」
ゼルファスはふっと笑みを漏らす。
「そうか…そうか……フハハハハハ!」
側近が躊躇しつつ呼びかける。
「陛下?」
ゼルファスは冷徹に言い放つ。
「人はそう簡単に変われるものか?その変貌ぶりは、尋常ではない。疑う余地はない」
「なるほど、確かに稀有な例でしょう…」
「よかろう。決断した。その大聖者は生かし、帝国の都へ招こう。
暗殺に失敗したことが、今となっては幸運に思えるな」
側近が再確認する。
「陛下…?」
ゼルファスは断固として告げた。
「エヴァルニアへの侵攻は一時見送る。今はその大聖者と正面から争う時ではない。
この旨、理解したか。
加えて、大聖者に関する情報を徹底的に集めろ。特に彼の所持品に注目せよ。
何か特別な品があるかもしれぬ。それが我が手掛かりとなるだろう。
何か判明すれば即座に報告せよ」
「はっ、承知しました、陛下」
側近が答えると、ゼルファスは仮面越しに冷徹な視線を向けた。
「うむ、それでよい。全ては帝国の未来のためだ。一切の失敗は許されぬ」
側近が退出する足音が遠ざかる中、ゼルファスは玉座に深く腰を下ろし、仮面越しに静かな笑みを浮かべた。
「ここで鍵を掴むとはな…」
その言葉が玉座の間に低く響いた。
新たな計画の輪郭が、彼の胸に確かに浮かび上がりつつあった。
***
七十年前、ゼルファスが初めてこの星に降り立った時のことだ。
彼は異星の者であり、その出自は隠されたままだった。
しかし、誰もが知らぬうちに彼はその知恵と力を駆使し、帝国の頂点に立つこととなった。
その出発点は、この星に来てからすぐに訪れた。
ゼルファスは現地民の祭壇に描かれた絵文字に興味を抱き、それがかつて別の星で見たものと
同じであることに気づいた。
それは古代兵器に関する象形文字であり、銀河を滅ぼしたとされる文明の痕跡だった。
「なぜこの星にそのようなものが…?」
ゼルファスはその時、初めてこの星に何か大きな秘密が隠されていることを感じ取った。
そして、それが自分が求める「鍵」だと確信したのだ。
ゼルファスは祭壇の絵を端末に記録し、その後解析を始めたが、思ったようには進まなかった。
端末の処理能力では、その象形文字を完全に解読するには限界があった。
「しかし、こんなものがただの偶然であるはずがない…」
ゼルファスは意を決して、現地の言語を集中的に学び始めた。
端末での翻訳を頼りにしつつ、実際に現地民の言葉を脳に直接ダウンロードしていった。
彼の驚異的な知能と記憶力がそれを可能にし、ついには言語の習得を完了させた。
その頃、ゼルファスは現地民との接触を続ける中で、さらに驚くべき事実を発見する。
現地民が持っていたのは、単なる言語だけではなく、異常とも言える能力を秘めていたのだ。
ある日、ゼルファスの乗組員が現地民の一人と軽く口論をした。
状況はすぐにエスカレートし、乗組員が短気を起こしてフォトンレーザーを発射した。
しかし、その現地民は驚くべき速さでそれをかわし、風を操り、フォトンレーザーを避けた上で
乗組員を吹き飛ばすことに成功した。
「@$&!?」
「何をした?」
「風を起こして倒しただけだ」
「#%@面白いじゃないか!」
「こんなもの、誰でもできる」
「#%%@$&!本当か?@$本当に出来るのか?」
「ああ、本当だ」
「すごいぞ、これはまさに奇跡だ!この星の者はみんなこんな力を持っているのか!」
別の乗組員も声をあげ「本当か?そうしたらコイツら全員、魔法使いなのか!」と叫んだ。
彼らの中でケスラの民を連れ帰る計画が立ち上がったが、船に乗せて成層圏から離脱しようとした瞬間、
ケスラの民が突如魔法による攻撃を開始した。
これまで全くその気配を見せなかった彼らが、なぜ突然反乱を起こしたのかはわからない。
そして、誰かが放ったフォトンレーザーが船の制御システムに当たり、船は傾き始めた。
手動で制御しようとした乗組員は、魔法の炎に焼かれてしまった。
その後、何人の乗組員が脱出ポッドに乗れたかは定かではない。
気づくと、彼のポッドは雪山に突っ込んでいた。
脱出時にコールドスリープ状態に入った彼は、約二十年後、脱出ポッドの電源が切れたことで目覚めた。
SOS信号は発信されていたが、誰も助けに来ることはなかった。
コールドスリープ中に、端末の電源は切れていたが光充電で端末を復活させると
古代兵器に関する象形文字の解析はすでに完了していた。
「星々を揺るがし、時をも越える力を持つ。創造の力を宿し、滅びと再生を繰り返す。
太陽の息を何度も奪い去り、全ての生命を裁く力である」
ここまでは古代文明の兵器に関する記録と一致していた。そしてその解析結果には続きがあった。
「地を行き交う五つの道を辿らなければ、その力に近づくことはできない。
神の力をその身に託された者が五枚の光を宿す盾を纏う時、その道が現れるだろう。
その道が現れる時、世界の均衡が揺らぎ、創造と滅亡の選択が迫られる」
そして、星の道の位置を示す端末は、遥か南方を示していた。
「この星には、古代兵器が眠っている!」
その瞬間、彼の一生の目的が定まったのだった。
第九章 完
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