第296話(傷だらけの英雄たちと諦めない帝国軍)
ぬかるんだ湿地帯をようやく抜けたレイは、崩れかけた防御塔の近くまでたどり着いた。
泥まみれの身体を引きずるように進むと、目の前に見慣れた仲間たちの姿が現れた。
リリー、サラ、セリア、そしてフィオナたちが瓦礫の間に集まり、話し込んでいる。
「みんな…無事だったんですね…」
レイが息を切らしながら声をかけると、一斉に彼の方を振り向いた。
「レイ! よかった、無事で!」
セリアが駆け寄り、顔をほころばせた。
「あの魔法、凄かったニャ!」
サラも安堵の表情で感嘆の声を上げる。
フィオナは泥だらけの顔のレイを見て、ふっと笑った。
「見た目はボロボロだが、あれだけの魔法を使ったんだから当然か」
冗談交じりの口調だった。
レイは仲間たちの顔を見渡し、ほっと胸をなで下ろした。
だが、次の瞬間、全身の力が抜けるように膝をつき、そのまま地面に倒れ込んだ。
「レイ!?」
リリーが慌てて駆け寄り、彼の様子を確認する。
「大丈夫、ただの魔力枯渇による気絶ね」
すぐに診断し、セリアに指示を出した。
「フィオナ、手を貸して。近くに寝かせる場所を探しましょう」
「サティさんも同じ状態だよ」
セリアが指差す方向を見ると、サティが崩れた壁際で安らかな寝息を立てているのが見えた。
「ここが一番安全そうね」
リリーが判断し、フィオナとセリアが協力してレイをサティの隣に運んだ。
レイは疲れ果てた表情のまま、静かに横たえられた。
リリーが彼の額に手を当てて微笑む。
「しばらく眠れば回復するわ」
その言葉に皆が安心し、肩の力を抜いた。
瓦礫の影には魔物との戦いの爪痕が色濃く残っていたが、仲間たちの無事を確認した安堵感が
静かにその場を包み込んでいた。
やがてエヴァルニア正規兵の部隊が国境付近に戻ってきた。
彼らは戦いの爪痕を目の当たりにし、大規模な魔法による甚大な被害に驚きを隠せなかった。
崩れた防御塔の近くで動く人影を見つけた兵士たちは急いで駆け寄り、疲労困憊の冒険者たちの姿を確認する。
「なんだ、この光景は……」
一人の兵士が呆然と声を漏らした。
地面には幾重にも重なった瓦礫があり、泥と血の匂いが鼻を刺す。
「これは……大規模な魔法が使われたとしか思えん」
別の兵士が震える声で、大地に刻まれた亀裂を見つめた。
明らかに自然災害とは異なる痕跡がそこにあった。
「防御塔まで崩されているとは……敵襲か?」
隊長が険しい表情でつぶやいたが、誰も答えられなかった。
兵士たちは本能的に事態の深刻さを感じ取り、救助活動に取りかかった。
かろうじて床だけが残った防御塔の上には、泥と埃にまみれながらも意識を保っている冒険者たちがいた。
彼らは辛うじて身を寄せ合い、座り込んでいる。
「おい、大丈夫か?」
「もうダメっす。もう、動けねぇっす」
マークの疲れ切った声が返ってきた。
「この惨事じゃ、生き残っただけでも奇跡だと思うぞ」
「兵隊さん、こっちに魔力枯渇で倒れている仲間がいます……」
セリアが疲れた声で兵士を呼んだ。
「了解した。応急対応を急げ!」
兵士たちは素早くテントや担架を用意し、倒れている冒険者たちを慎重に運び出していく。
特に、動かないまま担架に乗せられたレイとサティを見る兵士の一人が感嘆の声を漏らした。
「大聖者様じゃないか!魔力枯渇で倒れるまで戦ったなんて……」
別の兵士も、防御塔の跡地を見上げながらつぶやいた。
「こんな規模の魔法……これがあの轟音の正体だったのか。
地形が変わるほどの魔法なんて、どれほどの力だ……」
兵士たちは緊迫した中でも救助を続けていた。
「こんな規模の魔法……これがあの轟音の正体だったのか。
地形が変わるほどの魔法なんて、どれほどの力だ……」
セリアたちは苦笑しつつも、救助してくれる兵士たちに感謝していた。
防御塔近くに医療用テントが設置され、簡易な治療や休憩の準備が整えられていく。
兵士たちは手際よく怪我人の応急処置を施し、疲弊した冒険者たちには温かいスープを差し出した。
「少し休んでください。あとは我々に任せてください」
救助にあたる兵士が優しく声をかけた。
その言葉を聞いて、セリアたちはようやく肩の力を抜き、つかの間の安らぎを得た。
テントの中では、疲労しきったレイとサティが静かに眠りについている。
外では兵士たちの救助活動が粛々と続いていた。
***
兵士たちは捜索活動を続け、帝国軍の将校を発見した。
彼は意識を失った状態で土に半分埋もれ、体力が尽きている様子だった。
兵士たちはすぐに彼を引き出し、担架で運びながら隊長に報告を入れた。
隊長は報告を受け、冷静に指示を出す。
「この人物の身なりからすると帝国軍の将校だと思われるが、魔物との戦場にいたのなら、
彼からも事情を聞かなければならない。だが、現在は意識が戻るまで確認できない。
とりあえず軟禁し、回復後に質問をする」
兵士たちは指示に従い、帝国軍将校を安全な場所に運び、慎重に監視しながら軟禁状態にした。
***
夜の闇が国境の村を包む中、バガン少将は兵士たちを集め、冷徹な声で指示を出した。
「村をエヴァルニアの魔法で壊滅したように見せかけろ。
家を破壊し、地面に亀裂を作り、魔法の痕跡を残せ。徹底的にな」
兵士たちは命令に従い、斧や木槌で柱を叩き折り、煙弾で焼け跡を偽装した。
瓦礫を積み上げた。村はみるみる廃墟と化していく。その中で一人の兵士が疑問を口にした。
「少将、これほどの破壊が必要なのですか?」
バガンは冷たい視線を向けた。
「必要だからだ。これは帝国を守るための犠牲だと思え」
兵士は無言で作業を続け、やがて村全体が完全に荒れ果てた姿になった。
バガンは満足げにそれを見渡し、「よし、撤収だ」と命じる。
荒廃した村を背に、彼は静かに呟いた。
「これで国民の怒りを煽り、戦争の準備を行う」
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