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第293話(守りたいものを守るために)

レイが作り上げた土壁が激しい打撃音とともに揺れ、ついに音を立てて崩れ始めた。

その瞬間、オークソルジャーたちが壁の隙間をこじ開け、咆哮とともに内部へと雪崩れ込んできた。


「まずいっ!」


レイが叫び、咄嗟に防御姿勢を取る。


だが、魔物たちの猛攻はあまりにも早かった。

オークナイトが巨大な槌で最後の土壁を粉砕し、後ろに控えていたゴブリンやコボルトたちが

一斉に突撃を開始した。

数の暴力で次々に押し寄せる魔物たちに、レイたちの陣形は瞬く間に崩れていった。


「後ろに下がれ!」


フィオナが叫びながら、弓を素早く引き絞り、魔物たちを狙い撃つ。

しかし、押し寄せる敵の数が圧倒的で、一瞬の隙を突かれて彼女も後退を強いられる。


セリアも強化された身体で奮戦するものの、数の前に次第に押されていった。


「くそ……これじゃ、全員がやられちゃう!」


セリアは焦燥の色を隠せなかった。


レイは必死にライズで土槍を次々と生み出し、迫り来る魔物たちに対抗していた。

しかし、次々と槍を作り出しても、魔物たちはその数の暴力で槍を押し倒し、すぐに突破してくる。

魔力が限界に近づいていることを感じながら、レイの焦りは次第に増していた。


「このままじゃ……」


心の中で不安が募る瞬間、突然、地面が爆発したような衝撃音が響き渡った。

土埃が舞い上がり、レイは一瞬、何が起きたのか分からずに目を見張った。

目の前に広がる土煙の中から、巨大なシルエットが浮かび上がる。


土けむりがゆっくりと晴れると、その中心に立っていたのはシルバーだった。


強靭な脚力で地面を砕き、圧倒的な存在感を放ちながら、シルバーは堂々と立っていた。

彼の鋭い目が魔物たちを一瞥し、力強い蹄を地面に打ち付けると、その衝撃で魔物たちは一瞬ひるんだ。


「シルバーーッ!」


レイは驚きと安堵が入り混じった声を上げた。

シルバーはここぞという時に必ず打開してくれる。

その巨体と圧倒的な力は、魔物たちに立ち向かう絶対的な壁となり、レイたちを守る盾となっていた。


オークソルジャーやゴブリンが群れを成してシルバーに襲いかかろうとしたが、

シルバーはその巨体を生かして突進し、巨大な体で押し返した。


オークたちは巨体に圧倒され、次々と地面に叩きつけられ、立ち上がれなくなっていった。


「シルバーが守ってくれてる今のうちニャ!逃げるニャ!」


サラが叫び、素早くサティを担ぎ上げると、彼女たちは急いで撤退を開始した。


戦場が荒れ狂う中、サラは必死にサティを担ぎながら、魔物の群れから逃げようと必死に駆けていた。

だが、彼女の動きは制限され、あまりにも多くの敵が迫っていた。

サラの肩にかかるサティの体重も重く、前進するのが困難な状況だった。


「くっ…こんなとき、どうするニャ!」


サラは冷静さを欠きそうになりながらも、何とかして進まなければならないと必死に考えた。

その時、リリーが背後で大鎌を振り回し、魔物たちの進行を食い止めながらサラの前に立つ。


「サラ、先に行って!こっちのことは心配しなくていいから!」


リリーが言うと、サラはその言葉を聞いて、少しだけ顔を上げて頷いた。


リリーはその瞬間、広がる魔物の群れを切り裂きながら、道を作り出す。

大鎌がホブゴブリンの大きな盾を弾き飛ばし、魔物たちの隙間を作ると、

サラはその隙間を抜けるように前に進んだ。


「ありがとうニャ、リリーッ!」


その背後で、セリアが身体強化の魔法を発動し、猛スピードで走りながら魔物の前に立ちふさがる。


「サラ、ついて来て!私が引きつけるから、早く!」


セリアは筋肉を膨らませ、力強く拳を握りしめて突進し、押し寄せてくる

オークソルジャーを一時的に引き寄せた。


シルバーも魔物たちに向かって突進した。

巨大な蹄が地面を揺らし、その衝撃でオークナイトを吹き飛ばす。

シルバーはその巨体を生かし、魔物の群れを押し返す。その姿に魔物たちは一瞬、戦意を失い、

後退を余儀なくされる。


「今だ、サラさん!急いで!」


レイが叫びながら、後方に向かって土壁を作り上げ始めた。

彼が作り出した土壁は魔物たちを一時的に足止めし、サラとリリーの逃走時間を稼ぐことに成功した。


「サラ!こっちだ!」


フィオナの弓が、遠くから魔物たちを狙い撃ち、サラの前に障害物を作り出すことで道を切り開いていた。

ホブゴブリンの肩をかすめて倒れた瞬間、サラはその隙間を全速力で駆け抜ける。


「防御塔まですぐそこよ!」


リリーが叫び、サラに手を伸ばした。

サラは必死にリリーの手を掴み、サティを担いだまま何とか引き寄せられる。

二人は迫る魔物の群れを振り切りながら防御塔へと後退していった。


防御塔は、魔物の背を大きく超える高さに設計されていたが、その高さゆえ、登るのが難しく、

時間がかかりそうだった。


すぐに状況を見たレイは、魔物たちがまだ届いていない隙を狙い、塔の側面に簡単な足場となる

土壁を作り出した。


「これを使って登って!早く!」


レイが土壁を指さすと、リリーはその言葉に応じ、土壁を素早く駆け上がった。

足元をしっかりと踏みしめ、頂上近くまでたどり着いたリリーは、今度はサラに向かって手を差し伸べた。


「サラ、こっちよ!早く!」


リリーが叫びながら、サラの手を強く握った。

サラは担いでいたサティを一旦リリーに預け、再び手を取りながら、自分の体重をかけて土壁をよじ登った。


レイの土壁は魔物たちの攻撃を受け始めていたが、まだしばらくは持ちこたえそうだった。

サラがようやく土壁を登りきると、リリーがサティを抱き上げ、三人は防御塔の中へと逃げ込むことに成功した。


「ありがとうニャ、レイ、リリー!」

息を切らしながらサラが言うと、リリーは息を整えながらも微笑んだ。


さあ、次は塔を守らないと!」とリリーが言うと、サラは急いで背中のサティを確認する。


「サティ、大丈夫ニャ?」


サラの声に、サティは微かに反応したが、傷だらけの体で意識はもうろうとしていた。


「持ちこたえられそうだニャ……」


サラは安堵の表情を浮かべたが、その余裕もつかの間だった。

防御塔の外からは、終わることのない魔物たちの咆哮が響き渡っていた。

まるで地獄の光景のように、オークナイトが巨大な槌で塔を打ちつけるたびに、北側の壁が大きく揺れ、

ひび割れが広がっていく。


「やばい、北側が崩れるニャ!」


サラは声を上げ、外の状況に焦りが募る。塔の周りでは、ゴブリンやコボルトが波のように押し寄せ、

隙あらば這い登ろうとする。


そんな中、フィオナとセリアが土壁を使って素早く防御塔に接近していた。

フィオナは敵を狙いながら後退し、弓矢で魔物たちを撃ち抜いている。

彼女の背後から突進してくるコボルトを一撃で倒し、セリアが声を張り上げた。


「フィオナ、急いで!追いつかれる!」


セリアはそのまま土壁を駆け上がり、フィオナに手を差し伸べる。


「早く!」


フィオナは矢を放つ手を止め、セリアの手を掴むと、土壁を使って防御塔に飛び込んだ。

二人はほっと息をつきながらも、緊迫した表情を崩さず、塔の中に避難した。


最後に残ったのはレイだった。

彼は外で土槍や土壁を駆使して魔物たちの足止めをしていたが、もはや時間がなかった。

迫るオークナイトの槌がさらに壁を揺らし、土壁も崩れ始めていた。


「ここまでか……!」


レイは土壁を蹴り、力強くそれを破壊した。土壁が崩れると同時に、彼はその反動で跳躍し、

全力で防御塔に向かって駆け上がっていく。

魔物たちの群れが押し寄せてくるが、レイは一瞬の隙をついて、塔に飛び込み、なんとか中へと滑り込んだ。


レイが息を切らしながらも、土埃を払いながら立ち上がった。

防御塔の内部は一時的に安全だったが、外ではますます魔物たちが集まり、状況は悪化の一途を辿っていた。


「全員、無事?」


レイは塔内の仲間たちを見渡し、状況を確認する。


「シルバーがまだ、下で暴れているわ!」


セリアがシルバーが居るところを指差した。

見るとシルバーは、またも強靭な脚力で地面を砕き魔物を弾き飛ばしていた。

レイはシルバーに向かって叫んだ。


「シルバーこっちだ!上に登ってきて!」


シルバーは魔物を弾き飛ばすと防御塔に向かって走り出し、塔の壁を越えて着地した。


「ヒヒーン、ブルルルッ!」


嘶きながら塔の下を見据える。

その声に応えるように、イーサンが塔内から駆け寄ってきた。


「皆様もご無事で何よりですが、北側の壁がそろそろ限界です!」


彼は周囲を見渡しながら、指揮をとり始める。


「みんな、魔物を壁に近づけさせるな。持ちこたえろ!」


塔内の冒険者たちは、イーサンの指示に従い必死に防衛線を固めた。


レイは胸壁から外の状況を見下ろし、絶望的な光景に息を呑んだ。

自ら作り上げた土槍や土壁は、魔物たちによって次々と壊されていった。

オークやゴブリンたちはその壊れた土壁を踏み台にし、さらに上へとよじ登ってくる。

彼らの背中を踏みつけて、さらに別の魔物が塔の上に向かって這い上がってくる姿が恐ろしかった。


「くそっ、あいつら、自分たちで道を作ってやがる!」


レイは冷静さを失いそうになりながらも、土槍をもう一度作り出して阻止しようと試みたが、

数の圧力にはどうしても対抗しきれなかった。


魔物同士が互いの背中を踏み台にし、次々と高く積み上がっていく様子はまさに恐怖そのものだった。

オークナイトやゴブリンの群れが、踏みつぶされた仲間の上に乗り、まるで壁を這う虫のように

防御塔へと接近してくる。塔の壁を叩き、よじ登ろうとする無数の魔物たちの手が、まるで波のように

塔に押し寄せていた。


「下から侵入される!」


一人の冒険者が叫ぶと、塔内の兵士たちが弓や剣を持って応戦し始めた。

しかし、魔物たちは倒されても次々と湧き出してくる。


「フィオナ、弓で押さえ込んで!セリア、登ってくるやつらを叩き落として!」


リリーが叫びながら指示を飛ばし、魔物たちがさらに塔へ登ろうとするのを阻止しようとした。


フィオナは塔の上から矢を放ち、ゴブリンの頭部を狙い撃つ。

一体が倒れるとその下にいた魔物たちがバランスを崩し、塔から滑り落ちていく。

しかし、それでも次々と上がってくる魔物の勢いは止まらなかった。


セリアも身体強化の魔法を使い、塔の縁に張り付いてくる魔物を拳で叩き落とした。

彼女の力強い一撃でオークの一体が壁から転げ落ち、地面に叩きつけられる。

しかし、魔物たちはその仲間を踏み越え、さらに上へと登ろうとする。


「くそ……!」


レイは焦りを感じながら、次の手を考えなければならなかった。

防御塔の壁を突破されるのも時間の問題になりそうであり、魔物たちの波はまだ

止む気配を見せなかったのだった。


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