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第292話(戦場で再会する親子)

バガン少将は戦場を見渡し、計画通りに進めるための準備を整えつつあった。

しかし、ここまでの進行は予想以上に難航し、時間がかかっていた。

彼は眉間に皺を寄せ、次の段階に移る決断を下した。


「伝令を出せ。マルコム中佐に、魔物を帝国側に引き返させ、帝国軍の背後を狙う振りをさせるんだ」


少将の命令に部下は敬礼し、馬に乗って全速力でマルコム中佐の元へと向かった。

戦場の混乱の中、伝令は暴れ狂う魔物たちをかいくぐって進む。

少将はその姿を見送りながら、作戦が成功すれば戦況が変わると確信し、戦場の推移を見守った。


少将の目に映るのは、エヴァルニア軍ではなく、冒険者たちと大聖者が魔物を食い止めている光景だった。

大聖者が生み出した土の槍が戦場全体に突き立ち、魔物の進軍を効果的に阻んでいた。


ゴブリンやコボルト、ホブゴブリン、オークソルジャーたちは次々に槍に貫かれ、動きを止められている。


「大聖者がここまでやるとはな……だが、それでいい。

 魔物を帝国に向かわせるのは、エヴァルニア軍でなくても問題はない」


少将は静かに笑みを浮かべ、視線を戦場の別の場所へ移した。

そこには、レイが生み出した土の槍の森が広がり、魔物たちをほぼ完全に封じ込めていた。


一方、レイは戦場のやや後方で、土の壁を次々に作り、魔物が近づかないように防御線を張っていた。


彼のそばには、応援に来てくれた魔法使いの女性がいたが、その人は先ほど魔物に襲われて

怪我を負ってしまっていた。今は、この人を守ることが最優先だとレイは思っていた。


どこか自分に似た雰囲気を持つ女性で、容態が気になって仕方がない。

なぜこんなに自分は焦っているのだろうと思いながらアルに心の中で呼びかけた。


「アル、あの人の状態はどうなんだ?助かるのか?」


(レイ、ナノボットによる治療は進行しています。しかし、ナノボット間の通信距離は限られています。

 彼女に接触してもらわなければ正確な容態は分かりません)


「分かった、手を取れば良いよな」


レイは短く答えると、すぐに魔法使いのもとに駆け寄った。


土の壁を作りながら、彼女のそばまでたどり着いたレイは、そっとその手を握りしめた。

魔物の攻撃がいつ襲いかかるかわからない緊迫した状況だが、今は彼女を守ることが最優先だ。


「これで、ナノボットが反応するはず。アル、頼む」


(はい、治療の進行状況を確認します。少々お待ちください)


レイが魔法使いの手を握って数秒が経った。

周囲の戦闘音は激しさを増していたが、彼はそれに気を取られることなく、アルの報告を待っていた。

胸の中で焦りが募る中、ついにアルが口を開いた。


(レイ……重要なことをお伝えします)


「どうした、アル?この人の状態が悪化したのか?」レイは即座に応じた。


(彼女の状態は安定しつつあります。DNA解析の結果ですが、驚くべきことに、彼女はあなたの近親者です。

 遺伝子情報から判断すると、この方はあなたの母親である可能性が高いです)


「えっ……なに?」


レイは一瞬、頭が真っ白になった。

言葉の意味がすぐには理解できなかったが、アルの冷静な声は確かにそう言っていた。


「母親……?この人が……?」


レイの目が無意識に魔法使いの顔に向かう。

長い間、離れていた自分の母親。


ずっと会いたいと思いながらも、あきらめかけていた母親が、まさかこんな場所で、

しかも戦場の真っ只中で再会することになるとは。


「アル、本当に…母さんなのか?」


レイの心臓が高鳴り、思わず問い返した。


(DNA解析の結果から断言できます。彼女は間違いなく、あなたの母親です)


驚愕と困惑の中で、レイは目の前の魔法使いを守りながらも、信じられない事実に揺れていた。

戦場の混乱がさらに複雑な感情を彼に押し寄せる。


銀色の髪にエメラルドグリーンの瞳──その特徴にレイは、どこか既視感を覚えていた。

そういえば、自分もこの人に似たような感覚を抱いていたことを思い出す。

彼女が母親だというアルの言葉が、次第に現実味を帯びてくる。


「この人が……本当に、母さんなのか?」

レイは呟くように自問した。


頭の中に浮かんだのは、幼い頃から何度も見てきた夢の中の光景だった。

ベッドの傍で泣いている銀色の髪の女性──その姿が、今目の前に横たわる魔法使いの姿と重なり合う。


「ずっと…会いたかった…」


レイはその思いが胸を締め付けるのを感じながら、魔物の襲撃が続く戦場の中でも、

彼女を守らなければという強い決意が湧き上がった。

母親だと知った今、絶対にこの手を離すわけにはいかない。


しかし、レイが母親かもしれない女性への感情に揺れる間にも、戦場は容赦なく続いていた。

土壁の外では、オークナイトやオークソルジャーたちがその巨体を使い、壁をガンガンと叩き壊そうとしていた。鈍い衝撃音が響き、壁にひびが入っていく。


「くそっ!」


レイは焦りを覚えた。このままでは壁が破られ、魔物たちが押し寄せてくるのは時間の問題だ。

母親かもしれない女性を守るためには、なんとかしてこの場を切り抜けなければならない。


その時だった。セリアが駆け込んできて、身体能力強化の魔法を使い、オークソルジャーに飛びかかると、

その巨体を一撃で斬り伏せた。彼女の素早い動きが、まるで風のように戦場を駆け抜ける。


「大丈夫?、レイ君!」


セリアが叫びながら、次の魔物に向かって突進する。


さらに、フィオナが背後から風魔法のゲイルブレイドで、魔物たちを正確に切り裂いていく。

彼女は魔物を片付けながら、素早くレイの元へと向かってきた。


「間に合ったな!」


フィオナがそう言うと、サラが双剣を巧みに操り、素早く魔物たちを切り裂きながら土壁を飛び越えて

レイの側に駆け寄る。


続いて、リリーが大鎌を振り回し、周囲の魔物を薙ぎ倒しながら、戦場を突破してきた。


「少年を守るニャ!」


サラが叫び、彼女たちは次々と土壁に襲いかかる魔物を撃退していった。


「みんな!」


レイが声を上げると、セリアもフィオナも素早く土壁を乗り越えてレイのもとへ駆け寄ってきた。

二人の息遣いが荒いものの、彼女たちの表情には迷いがなかった。


「ここは危ない、後ろに下がるぞ!」


フィオナが言いながら周囲を警戒する。


「でも、母さんが……」


レイは咄嗟に言葉を漏らした。

頭の中ではまだ整理がついていなかったが、この魔法使いが自分の母親かもしれないという考えが離れない。


「えっ?」

「お母さん?」

「本当にお母さんなの?」


レイは焦燥と困惑の中で、アルからの報告が頭をよぎっていた。

「彼女は間違いなく、あなたの母親です」というアルの報告をどう仲間たちに説明すればいいのか、

考えを巡らせる。


しかし、今はそれを話している時間はなかった。

周囲に魔物が迫っており、まずはこの場を安全にしなければならなかった。


ガン!ガン!バキバキバキッ!


その時、土壁に鈍い音が響いた。オークナイトたちが土壁を激しく殴り続けている。

ついに、壁の一部が崩れ、魔物たちの咆哮が響き渡る。


「くそ、キリがない!」


レイは焦りを感じつつ、仲間たちに叫んだ。


「とにかくここを離れましょう!」


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


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