第291話(絶望の中で)
「シルバー、ありがとう!」
レイは愛馬の首筋を軽く撫で、安堵の一瞬をかみしめた。
だが戦場の危機は続いている。
シルバーの助けで一瞬の猶予を得たものの、魔物の数は圧倒的で劣勢は変わらない。
防御塔の方では、セリア、リリー、フィオナ、サラが魔法使いたちと共に必死に魔物の群れを食い止めている。
援護を求める余裕はない。
レイはシルバーの胴を軽く蹴り、馬を動かした。
オークソルジャーやホブゴブリンが立ちはだかる中、馬上から剣を振り回して敵を切り裂く。
シルバーは鋭く動いて魔物の攻撃をかわし、レイは隙を逃さず敵の脇腹を鋭く斬りつけた。
ホブゴブリンが体を揺らしながら襲いかかるが、シルバーは軽快に方向を変え、レイは素早く攻撃を叩き込んだ。
「これ以上深追いしても無駄か…!」
レイはシルバーを操りながら後退を始めた。
彼は次々に現れる魔物を斬り倒しつつ、冷静に退路を確保する。
「この数、どうすればいいんだ?」
状況の厳しさに頭を抱えながら、レイは思考を巡らせていた。
敵の数はあまりにも多く、魔法を使い続けても波を押し返すのは難しい。
決定的な一手が必要だ。
だが、どの策も無謀に思え、答えが見つからない。
汗が額を伝い、焦りが心に広がっていく。
「これじゃ、時間を稼ぐことしかできないよ…」
状況は悪化し、選択肢は減っていった。
その時、後方から轟音とともに炎の壁が現れた。
その中から一人の人影がゆっくりと歩いてきた。
サティだった。
レイはやはりどこか見覚えのある顔に感じたが、今は戦場だ。
彼女を守りつつ戦えるのかという考えが頭をよぎる。
その瞬間に、魔物がレイに襲いかかってきた。
レイが手を伸ばすより先に、サティが素早くレイの前に立ち塞がった。
「ファイヤランスッ!」
サティが叫びながら腕を振るうと、炎の槍が魔物に向かって飛び、あっさりと倒した。
「まだ、戦えるんですか?」
レイは目の前の女性、サティに声をかけた。
「小さい魔法なら、まだ平気よ」
サティは短く答え、息を整えながら構えを取った。
その直後、周囲の魔物たちが二人に向かって襲いかかってくる。
サティは両手を大きく広げ、ゆっくりと円を描く動作を始めた。
「フレイムヴォルテックス!」
彼女が叫ぶと、手のひらから渦巻く炎の柱が巻き起こり、前方のホブゴブリン数体を包み込んだ。
「バチバチッ」と燃え盛る音が響き、魔物たちは炎に焼かれて次々と倒れていく。
レイは驚きを隠せず、すぐにシルバーに跨って走り出した。
馬を巧みに操りながら、前方のオークソルジャーに向けて叫ぶ。
「ライズッ!」
大地から鋭い土の槍が次々と伸び上がり、何体もの魔物を貫いた。
背後からサティが追いかけるように進み、両手で炎の刃を繰り出す。
疲弊していたが、その炎は鋭く、襲いかかるホブゴブリンやオークメイジを次々と焼き尽くしていった。
「来るぞ!」
ホブゴブリンが数体レイに飛びかかる。
シルバーが素早く方向を変え、蹴りを叩き込んで魔物たちを蹴散らした。
レイはその隙に剣を振り抜き、襲いかかる敵の首筋や脇腹を切り裂く。
同時にサティは、大柄なオークナイトに狙いを定めた。
両手で大きく円を描くように炎の渦を放つ。
「フレイムヴォルテックス!」
炎はオークナイトを包み込み、激しく燃え上がった。
「よし、まだ行ける!」
レイはサティに声をかけ、次の敵に向かって突進する。
サティも相当疲れている筈だが、その疲労を感じさせない動きで追いかけて来る。
二人はまるで長年の戦友のように、息の合った連携で次々と敵を討ち取っていった。
その時、黒いローブの男が魔物に再び指示を出したのか、サティの周囲に魔物が集まり始めた。
彼女は魔法で応戦したが、やはり数が多すぎた。
オークソルジャーの巨大な棍棒が振り下ろされ、それをサティは咄嗟に手で受け止めたが、
衝撃で腕に大きなダメージを負った。
彼女は痛みに耐えながら魔法を放とうとしたが、魔物の動きが一瞬早かった。
コボルトが素早く彼女の足に噛みつき、サティは地面に引き倒された。
すぐさまオークソルジャーが棍棒を振り下ろそうとしたが、
レイが即座にライズで土の壁を作り、棍棒とサティの間に差し込んだ。
辛うじて致命傷は避けられたものの、サティの魔力は尽きていた。
彼女は意識を手放し、その場に倒れ込んだ。
レイはすぐにシルバーの背にサティを引き上げて後退した。
しかし、サティの様子が明らかにおかしいことに気づいた。「大丈夫ですか?」と声をかけるも、
返事はなかった。体を揺すろうとしたその時、彼の手にべっとりと血がついた。
「どこか怪我をしている…アル、この人を助けられるか?」
(出来ると思います)
「じゃあ、頼む!」レイはサティの手を握り、ナノボットを送り込んだ。
彼女の命を救うため、レイはアルに治癒を任せることにした。
(レイ、平なところにこの方を眠らせてください)
「分かった。少し後退するよ」そういうとレイはシルバーを翻らせ、国境の奥に向かって行った。
そこでサティを降ろすと、レイも降りて土魔法で平らな台を作った。
また、すぐ外にはライズを使って壁を作り始めた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。
⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。