第29話(ギャフンと言わせてやる)
資料室を出た後、受付が空いてくるのを待って、セリアのところに行った。
緊急依頼の報酬を貰うのと依頼の相談のためだ。
ギルドマスターから受けた依頼がDランクへのランクアップ試験になること。
ポイズンフロッグの毒腺採取が試験内容であることを話した。
「なるほどねぇ。マスターが面白がってたし、レイ君から質問されない限り情報を渡すなって言われてたんだけど、そういうことだったんだ」
「セリアさんも口止めされてたんですね」
「そう、こっちからは進んで情報を与えないようにね」
「じゃあ、教えてください。自分じゃ解体は無理そうなんですけど、ポイズンフロッグを持ち込めばギルドで解体してもらえますか?」
「それなら大丈夫だ。フロッグの固定具もあるし、密閉容器も揃ってる。だから気にせずバンバン持ってこい!」
換金受付にいたバランも話に乗ってきた。
「マスターが地団駄を踏みそうね」
セリアもノリノリだ。
「それでポイズンフロッグを生け捕りにしてギルドに持ち帰りたいんですが、専用の袋とか、どこで手に入れるんですか?」
「それならギルド内に備品としてあるのよ。ポイズンフロッグの依頼がある時は貸出するようになってるの」
とセリアが言う。
「やはり、ギルドマスターは確信犯ですね。じゃあ捕まえる時の網とかは?」
「それもバッチリ用意があるわ」
とセリアはニコニコしながら答えた。
「じゃ、ここからは普通の手続きね。まずは報酬だけど……ジェネラル討伐の頭割報酬と、荷物運搬で銀貨二枚と銅貨四十枚ね」
彼女は帳簿を手早くめくると、軽快に続ける。
「で、次は貸出手続き。貸出票があるから、必要なものを書いてバランさんに渡してね」
「貸出料だけど、網は銅貨一枚、袋は銅貨五枚。だから報酬から銅貨六枚引いておくわね。それと破損の場合だけは実費がかかるから、気をつけて」
「よし、じゃあサクッと依頼を終わらせて、ギルドマスターをギャフンと言わせてやります」
と言ってレイは親指を立てた。
セリアも親指を立ててお返ししてくれたが、人差し指で二階のギルドマスターの部屋を指さすと、親指を首の前で横に引いた。お茶目な人だ。
バランのところで採取道具を揃えたレイは、祈りの洞窟ダンジョンに向かった。
祈りの洞窟ダンジョンは、ゴブリンの穴とは反対側にある西のグリムホルト方面へ向かう途中に位置するダンジョンだ。階層ごとに広大な空間が広がっており、多種多様な魔物が出現する。
一階層の奥には礼拝堂があり、そこに二階層へ降りるための扉が設置されている。
広さは圧倒的で、一階層の奥まで探索しようとすると、ほぼ一日を費やすほどの規模だ。
入り口は洞窟なのに、中にはいると大理石を切り出したかのような壁に変わる。
遺跡のようなと表現すれば良いのだろうか?その遺跡を更に奥に進むと、礼拝堂が出てくるから「祈りの洞窟」という名前になったらしい。
礼拝堂はガーゴイルが扉の番をしているため、C級冒険者パーティでないと次の階層に進めないほどの難易度だ。
二階層はまだ全てのマップが埋まっていないが、ラミアやオーガが出るという。Bランクパーティの主戦場がそのフロアとなる。
ポイズンフロッグの生息場所は、入り口から中央の回廊を進むか、入り口からまっすぐ進んだところにある
エメラルドの泉という場所になる。
吸血コウモリが鬱陶しいが、高いところを飛んでいるため剣は届かず、倒してもゴブリン以下の魔石しか手に入らないので無視して進んだ。
ダンジョンの奥に進むと、回廊のような通路に出た。
ここでは、スケルトンが現れるらしい。今後、このダンジョンが主戦場になりそうなのでダンジョン内の地図も買った。魔物の配置もある程度書かれているので予習もバッチリである。
回廊のような通路にはスケルトンが居た。カタカタカタカタと音がするので不意打ちは無さそうだ。
骨だけの体に古びた鎧を纏い、錆びた剣を持っている。なんだか弱そうだ。
「スケルトンか。なんか骨だけで動いてるのって気持ち悪いんだよな。まあ、これもEランクだし楽勝だろう」
レイは試しに魔力球を撃ってみた。魔力球はスケルトンに掠りもせず見当違いの方向に飛んでいった。
「やっぱ、当たらない…」
(実戦には早すぎます。まずは練習あるのみですね)とアルは厳しい。
レイは腰の剣を抜き、スケルトンに向かって一歩を踏み出した。スケルトンもこちらに向かって歩き出し、剣を振りかざす。レイは横にステップを踏んでスケルトンの攻撃を避けた。
「遅いなぁ」
レイは即座に反撃し、スケルトンの剣を弾き飛ばすと、隙をついて胴体を斬りつけた。スケルトンはバラバラに崩れ落ち、その骨が床に散らばった。
「やっぱり弱かったな」
(レイの剣の練習にはちょうど良さそうな相手ですが、剣で倒すと、剣の方が傷みそうですね)
「殴って倒した方が良かったかな?でも触りたくないしなぁ。しかしこんな遅いのになんで魔力球当たらないんだろ」
(それは、レイが魔力球を投げると同時に目をつぶっているからですよ。いくらなんでも力み過ぎです。
次回はしっかり目を開けて投げてみてください。驚くほど当たる確率が上がりますよ)
「マジか〜」
レイは周囲を警戒しながら、散らばった骨の中から戦利品を探し始めた。まず見つけたのは小さな魔石だ。
ギルドで換金できる。さらに、スケルトンが身に着けていた古びた鎧の隙間から小さな革袋が見つかった。
その中には数枚の古い銀貨が入っていた。
「たまに財布を持ってるスケルトンがいるって聞いたけど、今回は大当たりかも」
レイは他にもスケルトンが居ないかと、耳を澄ませて聞いてみたが、
骨のなる音の代わりに、わずかに水音が聞こえてきた。
どうやらこの通路の向こうに、エメラルドの泉があるようだ。
水際まで来ると、ポイズンフロッグが潜んでいるのが見える。
彼らの毒腺は非常に貴重だが、殺してしまうと体内に毒が回り、使い物にならなくなるため、
今回は生け捕りが必須だ。
「ギルドマスターもいやらしいことを考えるよな。普通に討伐して持ち帰ったら毒腺が使えなくなるなんて一言も言ってなかった」
(資料室で読んだ本が役に立ちましたね)
「アルが気づいてくれて助かったよ」
レイは慎重にポイズンフロッグに近づき、素早く網を使って捕獲した。
フロッグが暴れないように注意しながら、特殊な袋を取り出す。
これは、ポイズンフロッグが暴れても傷つかないように、袋が二重になっている。
二重構造の隙間にはスライムが入っており、外からの衝撃が中に伝わらない設計だ。
内側の袋は、防水加工が施されており、生け捕りにしたポイズンフロッグと一緒に水も入れておける。
「さて、この中に入ってもらうよ」
レイは慎重に袋を開き、ポイズンフロッグをその中に収めた。袋の口をしっかりと閉じれば捕獲完了である。
「これで大丈夫だ。毒腺を無事に持ち帰ることができる」
レイは満足そうに袋を確認し、ダンジョンの出口に向けて足を進めた。
読んでくださり、ありがとうございます。
誤字報告も大変感謝です!
ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。
悪い評価⭐︎であっても正直に感じた気持ちを残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、よろしくお願いいたします。