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第290話(突如現れた救世主)

インフェルノフレアの魔法の余波は凄まじく、魔法が消えた後も大地はまるでマグマが

吹き出したかのように高熱を帯びていた。


レイが作った三角の壁や肥溜めの一部は、その熱で焦げ付き、じゅうじゅうと音を立てながら

形を変え始めている。


周囲に積もっていた雪はみるみるうち溶け、蒸気がシューッと立ち上って大気中に広がった。

少し離れた場所では、溶けた雪が集まりポチャポチャと水たまりを作っている。

その水たまりは足首ほどの深さがあり、一帯が一時的な湿地帯のようになっていた。


さらに、燃えた肥溜めからは、ムッとする硫黄臭やアンモニア臭がモワッと立ち込めていた。

その臭いは後から来た魔物にも影響し、不快な匂いに動揺して行動が鈍る様子が見て取れた。


それを見たレイは叫んだ。

「今のうちに叩いておきます!」


大地は高熱を帯びているが、その分魔法の制御は容易だった。

硬く踏み固められた地面が熱でジワリと溶け出し、レイの放つライズの魔法で次々と剣山のような槍衾が

ボコボコと形作られていく。


レイは走りながら次々と魔物を阻む槍を生み出した。

防御塔を守るため、魔物を少しでも遠くで縫い止め、魔法使いの攻撃が届くようにしなければならない。

この数を押し切られたら、自分たちの準備した部隊が危うい。


「土よ、盛り上がれ!ライズッ!」

「ライズッ!」

「ライズッ!」


レイは国境沿いの一番狭い部分から防御塔までの広大な距離を、一人で往復しながら槍衾を作り上げていった。

しかし、幾分かの魔物は使役薬の影響が残っているらしく、バリバリと土の槍を壊して突破する者も現れた。


「不味いわね、レイ君一人じゃ押し切られちゃう!」


リリーが焦りの声を上げた。

彼女は魔法使いたちと護衛の冒険者を連れたパーティを編成し、危険な箇所に陣取る。

彼女たちは抜かれそうな場所で魔物を迎え撃ち、魔法と武器で応戦していった。


セリアもすかさず反応し、指の間に挟んだ投げナイフをシュッ、シュッと次々に投げ放った。

オークソルジャーやコボルト、ゴブリンの群れにナイフがザクザクと突き刺さり、魔物が倒れていく。


サラも双剣で相手を翻弄しながら手薄なところに駆け込んでは、魔物を倒していた。

戦況は激しさを増し、魔物たちは止まることを知らないかのように次々と襲いかかってくる。


フィオナは弓を手に取ると、次々に矢を放ち始めた。

彼女の矢は正確に魔物の急所を射抜き、瞬く間に複数の敵を仕留めていく。

フィオナの背後では、冒険者たちが武器を構え、魔法使いは呪文を唱え、次々に迎撃を開始した。

矢が放たれるたび、火球や雷が飛び交い、魔物たちは着実にその数を減らされていく。


「次!こっちに来る魔物を止める!」

フィオナは素早く次の矢を番え、周りの戦況を冷静に見渡しながら指示を飛ばした。

彼女の強力な弓の一撃は、混成部隊の進軍を止め、魔物たちの動きを大きく鈍らせていた。

魔法使いも体力があるうちに遠距離の魔法を使って応戦していた。


やがて、大きな炎の壁の魔法に気づいたエヴァルニア軍の先鋒が、防御塔付近まで戻ってきた。


「ご無事ですか?」と、エヴァルニア軍の斥候隊の兵士が息を切らしながら問いかける。

防御塔の上に立つフィオナは、それに応じて声を張り上げた。


「相手は魔物の混成部隊だ!統率が取れていて、普通の魔物とは違う動きをしている。

 一気に数で押し切るつもりだ!至急、援軍を頼む!」


兵士たちはその言葉を聞いてすぐに駆け出し、後方の部隊に緊急報告を入れに向かった。

戦場はますます緊迫し、次の一手が生死を分ける局面へと移りつつあった。


レイはライズを唱えながら、迫り来る魔物の侵入経路を塞ぐべく、次々と土の槍を立ち上げていった。

広大な戦場に絶え間なくライズの魔法を放ち、防御の壁を作り上げていた。


アルの強化と自身の魔力を駆使し、徐々に戦況はレイの望む形へと変わりつつあった。

魔物たちの前進は確実に鈍り、レイはこの防衛線で押し返せると確信しかけた。


しかし、その安堵は一瞬で打ち消された。


突如として、黒いローブをまとった男が戦場に現れたのだ。

彼の姿は、まるで不気味な影のように薄暗いオーラを纏い、周囲の空気が一気に冷え込むのを感じた。

レイは警戒心を抱き、魔法の手を止めずにその男を注視した。


「あいつ、間違いない!リリーさんとセリアさんが追ってた奴だ!」レイが呟くと同時に、

黒いローブの男が不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと手を掲げた。


次の瞬間、その背後から圧倒的な数の魔物が押し寄せてきた。オークナイトやオークメイジも何体か見える。

その数、今までの倍近い、二千体に及ぶ大軍勢だった。


「こんな数…!」レイは驚愕しながらも、すぐにライズの魔法で土の槍を次々と形成し、

迫り来る魔物に向かって放った。

土の槍は何体かの魔物を貫き、止めを刺したが、魔物たちは倒れた仲間を踏み台にして、

次々と土の槍をへし折っていく。


「くそ…これじゃ足りない!」


レイは焦りを感じつつ、両手を広げ、さらに魔力を込めてライズを撃ち続けた。


土の槍がどんどん増えていくが、それでも押し寄せる魔物の勢いは止まらない。

レイの体力は限界に近づいていたが、少しでも時間を稼ごうと必死に槍を作り続ける。


(アル、このままじゃ押し切られる。何かないか?)


(レイだけなら救えますが、これだけの数では今までの魔法は焼石に水です)

アルの冷静な声が響く。


レイは苦い顔をしながら、目の前の状況を見据えた。

数千の魔物が次々と防衛線に迫り、土の槍で止めきれない。

魔物たちは地を踏み鳴らし、その迫力に防衛塔すら揺れ動くように思えた。


「なんか良い手はない?!」


叫びながら、レイは必死にライズを放ち続ける。

だが、その槍も次々にへし折られていく。魔物の勢いは止まらず、焦りと無力感が胸を締め付けた。


その時だった。


遠く山の頂きから、雷鳴のような轟音と共に、一頭の馬が駆け降りてきた。

白銀の体躯を持つその馬――レイの愛馬、スレイプニルが雷の如く疾走し、戦場へと突進してきた。


「シルバー!」


レイは叫んだ。スレイプニルは猛スピードで魔物たちを蹴散らし、その巨体で道を切り開いた。

魔物が群がるたびに、スレイプニルの蹴りが強烈に叩きつけられ、次々と倒れていく。


レイはその隙にスレイプニルの背に飛び乗り、息を整えた。


「助かったよシルバー!」


魔物の大軍を前に、スレイプニルの勇姿にレイは再び戦う力を取り戻した。


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