表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

298/337

第289話(灼熱の壁)

帝国軍は突然、これまでの倍の魔物を投入してきた。

国境沿いの扇状地は一瞬で魔物で埋め尽くされ、奴らは三角形に並んだ土の壁を壊しながら進んでくる。


レイが「ライズ」で作った壁は、斧や棍棒の激しい攻撃を受け、崩れかけていた。


防御陣地も土嚢を積んだだけでは持たないと判断したレイは、即座に改良に取りかかった。

上に人が乗れる台座を作り、その上に自ら上がる。


さらに周囲には高い壁を追加し、段差を付けて胸壁を形成した。

簡易の防御塔のように仕上げ、高さは階段なしでは登れない設定にした。


「これ、どうやって上に上がるニャ!」

サラが不満げに声を上げる。


レイは周囲を確認し、後方に「ライズ」で段を作った。

「後ろに足場を作ったから、そこから上がってください!」


「ニャるほど!これならなんとかなるニャ!」


「サラさん、全員が上がったら、魔物が登れないよう足場を壊してください!」


「分かったニャ!」

魔法使いや護衛の冒険者たちが塔に上がるのを見届けると、サラは両手剣で足場を崩して回った。


その時、マークが不安げに聞く。

「ここ、本当に大丈夫なんすか?」


「相手の数次第じゃないかな」


「うへぇ…」


他の冒険者たちも予想外の魔物の数に動揺していた。地元の冒険者も同じだ。


「どっからあんなに湧いてきたんだ?」

「知らねぇよ。こんだけ居たら、ギルドだってとっくに依頼出してるだろう?」


国境線からエヴァルニア側には、山に囲まれた幅三百メルほどの谷間がある。

エヴァルニアに向かうほどに幅は広がるが、それを埋め尽くすほどの魔物は珍しい。


レイは過去に一度だけ、この光景に似た状況を経験していた。

それは、ファルコナーのスタンピードを思わせる圧倒的な数だった。


「不味いな、これじゃスタンピードと変わらない数だ!」

フィオナが焦る。


「こっちはあの時より半分の戦力だわ」

セリアが冷静に返す。


レイは強い既視感を覚えたが、今回は決定的に違う要素があった。

地平線まで魔物の群れが押し寄せる中、強大な魔力のうねりが空気を震わせたのだ。


突然、風が止まり、空気が重く熱を帯びた。


「これは……?」

レイが空を見上げた瞬間、地面が揺れ、音もなく炎の柱が立ち昇る。


その中心には、イーサンが連れてきた一人の魔法使いが立っていた。

凛とした佇まいで、周囲の空気すら灼熱に変える存在感を放っている。


髪と瞳の色は、どこかレイに似ていた。

偶然なのか必然なのかは分からない。

だが、戦場のただ中であっても、レイの意識は一瞬、その顔に引き寄せられた。


魔法使いは天を仰ぎ、低く響く声で呪文を紡ぐ。


「炎の精霊よ、我が声に応え、灼熱の力を目覚めさせよ……」


ゴゴゴゴ……と、大地が震え始め、周囲の温度が一気に上がる。


「天を焦がし、大地を焼き尽くし、すべてを炎に包む力を解き放て……」


「インフェルノォォォ フレアァァァアア!」


叫びと同時に、ズォォォォッ!と空が赤く染まった。

地面からドゴォォォッと火柱が噴き上がり、扇状地全体を炎の壁で覆い尽くす。


高さは三十メル。

ゴウッ、ゴウッと唸る炎の熱は、大気そのものを焦がしていた。


「まさか……人がこれほどの魔法を扱えるのか?」

炎の壁を目の当たりにしたレイは、思わず息を呑んだ。


魔物たちは次々に焼かれ、雷鳴のような轟音が戦場を揺らす。

レイはその光景を見つめ、言葉を失った。これがインフェルノフレア――圧倒的な破壊力だった。


フィオナが目を見開く。

「これは…本当に人間の魔法なのか?」


サラは耳を伏せ、尻尾を膨らませる。

「ニャんだ、あの火は!見ただけで焼かれそうニャ!」


レイも驚きを隠せない。

「まるで炎の壁だ…なんだこの魔法は…」

人間の技ではないと感じながら、その制御を見守るしかなかった。


冒険者たちが炎の威力に言葉を失う中、帝国軍指揮所では緊迫した空気が漂っていた。


「なんだあれは!戦略級魔法じゃないか!」

ドレイガス大佐が叫び、周囲の指揮官たちもざわめく。


戦略級魔法師――

それは、たった一度の魔法で戦況をひっくり返すことのできる魔法使いに与えられる称号だ。

その放つ魔法は凄まじく、一撃で戦略そのものを変えてしまうほどの威力を誇る。


「なぜ、戦略級魔法師がこんなところにいるんだ……!」

ドレイガスの声には動揺が混じっていた。


バガン少将も胸の奥に冷たい汗が流れるのを感じていた。想定は完全に外れた。

しかし、ここで指揮官が狼狽すれば全軍が崩れる。

彼は表情を変えず、低く通る声で命令を出した。


「マルコム……あの炎に気を取られるな。何度も撃てるわけがない。今が好機だ、全ての魔物を突撃させろ!」


「分かりました、少将。四番から七番まで全て突撃させます!」

マルコム中佐は命令を出すが、魔物は炎に怯み動きが鈍い。


彼は苛立ち、自ら先頭に立って走り出した。

「ついてこい!」


その声にようやく魔物たちも反応し、マルコムの後に続いた。


炎の熱気が収まる頃、防御塔の上では冒険者たちがその威力に息を呑んでいたが、

魔法を放ったサティは魔力が尽きかけ、顔には疲労が色濃く残っていた。


セリアが駆け寄って声をかける。


「大丈夫ですか?サティさん」


サティは声も出せず、魔力欠乏症の兆候を見せていた。


セリアはリリー製の魔力ポーションを取り出し、サティに飲ませた。

サティは少し息を整えるが、苦笑いを浮かべる。

「ありがとう…でも、完全回復には時間がかかりそうね…」


「無理しないでください。今は休んで回復を優先してください」

セリアはそう言うが、サティの視線はレイから離れない。


「でも…心配で…彼、大丈夫かしら…?」


「レイなら大丈夫です。あんなに強いんですから」

セリアが答えても、サティは不安げにレイを見つめ続けていた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ